とりあえず今はそのままで
「澄乃!危ない!!」
「え──────?」
「……!! える!!」
「澄乃…!!」
「気絶、してるっぽい……」
「俺、運ぶわ。保健室まで」
「えっ、ちょっ……早、運ぶの。……える、大丈夫かな。結構ガッツリボール当たってたけど」
綴未に知られたら三浦の命無くなったりして。
完全にやらかした。ぼーっとしながら体育なんてやるもんじゃねぇ。なにより、澄乃のこと考えて怪我させるって最悪だ。
「うぅ………んん………。ここは……」
「澄乃…!」
「三浦…くん?」
まだ意識がはっきりとしていないのかどこかぼんやりしている澄乃にここが保健室であることを伝えた。俺が怪我させたことも。何度謝っても気がすまなかった。
「ほんと、ごめん。澄乃」
「三浦くん……そんなに謝らないで。私は大丈夫だから」
「……澄乃がそう思っても、俺は……」
「三浦くんは、とってもいい人だね」
怪我させた俺に対して澄乃は優しく微笑む。
「優しくは……ないだろ。怪我、させてるし」
「そうかな?だってごめんなさいって一度言ったら、相手は許すでしょ?それでも謝るのは三浦くんがとってもいい人だからだと私は思うよ?できる限りのことをしたいって相手を思いやれる人じゃないとできないと思うから」
太陽を直視したらダメなように、澄乃の笑顔も直視したらだめなんだな。
俺は澄乃が思うような人間じゃない。けどこの誤解は解かないでおこう。こんなに思いやってんのは澄乃が最初で最後だから。俺はただ必死なだけ。嫌われたら全部終わる。そうならないように謝ってんのに澄乃にはいい人に見えてんだな。あー……澄乃のこういうとこ俺弱いわ。
「える……!!!」
「…! さとみくん!」
授業が終わってうるさい足音が聞こえてきたと思ったら保健室に入ってきた綴未は澄乃を抱きしめた。
「える、怪我したって聞いて……」
「私は大丈夫だよ。今は痛くないから」
「……える…」
「心配してくれてありがとう」
いつまでも抱きついたままの綴未の頭を澄乃が優しく撫でた。こいつらの距離感にはそろそろ見慣れたと思ってたけど、やっぱ無理だわ。
「……そろそろ次の授業始まるぞ」
「……える……」
無視かよ。こいつずっとどかない気か?
「さとみくん。そろそろ教室戻らないとだよ?」
「やだ」
「ダメだよさとみくん。授業はちゃんと受けないと……ね?」
「…やだ。えるといる」
「私は大丈夫だから。授業ちゃんと受けよう?」
「…………」
一生埒の明かない会話に飽き飽きして
「進級できなくなっても知らねーぞ」
また胸ぐらを掴まれるかもしれない覚悟をしながら口をはさんだ。
「──────!」
〖それは嫌だ。来年は絶対えると同じクラスで過ごしてそのまま卒業する。だから〗
「……わかった。教室戻る」
「また後でね、さとみくん」
やっといなくなった。澄乃にとってもあいつにとってもあの距離感が当たり前なんだよな。幼馴染ってずるくね?
「三浦くんは、行かなくていいの?」
「……俺はここにいる。ここに一人だと退屈でしょ」
「…ありがとう。やっぱり三浦くんはとっても優しいね」
「……そりゃどーも」
そういや先生戻って来ないな。ま、それまでの間二人きりの時間を楽しませてもらうか。
「この前の勉強会、助かったわ。テストの点いつもより良かったし」
「……!よかった…!私も楽しかったからまたやろうね」
「……おう。あー、そうだ。夏休みさ、海とか行かね?」
「海…?」
「そう。せっかく休みだしどっか遊び行くのもありでしょ」
「……うん!いいね、海。楽しそう!……さとみくんも誘っていい?来てくれるか分からないけど……」
俺の反応をうかがいながら、不安げな表情をする澄乃。あいつなら澄乃がいれば来そうだと単純に考える俺とは違い
「さとみくん人が多いところは苦手だから……でも、皆と一緒に遊ぶの絶対楽しいと思うの。だから誘ってみてもいい?」
真剣にあいつのことを考える澄乃。幼馴染としての時間を見せつけられた気がした。
「……いいんじゃね?誘ってみれば。俺は新山誘っとくわ」
「……! うん!ありがとう、三浦くん!」
真夏の太陽でさえこの笑顔には勝てないだろうな。




