表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第2編『消える共犯者』
PR
57/91

第57話『消失の観測者』

有馬の声は、いつもより少しだけ低かった。


「……なあ」


資料室の空気を切るように、その一言だけが落ちる。


白鐘雨音が振り向く。


「どうしましたか」


有馬は資料を見ていない。

机も見ていない。

ただ“空間そのもの”を見ている。


「俺さ」


少し間が空く。


「昨日からずっと思ってたんだけどよ」


白鐘が息を止める。


久瀬黎司はすでに気づいている。

この発言は“ズレの自覚”だ。


有馬は続ける。


「人数、合わなくね?」


沈黙。


白鐘の表情が固まる。


「……人数、ですか」


有馬は頷く。


「最初、もっと人いなかったよな」


白鐘がすぐに否定しようとして――止まる。


“何人だったか”が出てこない。


喉の奥で言葉が止まる。


有馬は苛立つように頭をかく。


「いや、誰がって話じゃなくてさ」


「“いた気がするやつ”が抜けてるんだよ」


白鐘の指が震える。


「それは……記録には」


言いかけて止まる。


記録を見ても、“何かが足りない”としか分からない。


久瀬が静かに口を開く。


「お前が見えているのは正しい」


有馬が顔を上げる。


「は?」


久瀬は続ける。


「だが思い出せないのも正しい」


沈黙。


白鐘が震える声で問う。


「どういうことですか……それ」


久瀬は視線を落とす。


「消失は二段階になっている」


有馬が眉をひそめる。


「二段階?」


久瀬は頷く。


「存在の消失と、認識の消失だ」


白鐘が息を呑む。


「認識の……消失」


久瀬は淡々と続ける。


「最初は“いなくなる”」


「次に“いたことが分からなくなる”」


沈黙。


有馬の表情がわずかに変わる。


「じゃあ今は……」


久瀬は答える。


「後者に入っている」


その瞬間、資料室の電灯が一瞬だけ明滅する。


有馬が即座に反応する。


「今の見たぞ」


白鐘は見ていない。


だが“何かが一つ減った感覚”だけが残っている。


有馬は机を叩く。


「おい、今なんか減っただろ!」


白鐘は答えられない。


何が減ったのかを言語化した瞬間、それが消える。


久瀬は静かに言う。


「お前は“観測者”になり始めている」


有馬が眉をひそめる。


「観測者?」


久瀬は続ける。


「違和感を認識できる側だ」


沈黙。


白鐘が小さく言う。


「それって……私と同じですか」


久瀬は首を振る。


「違う」


有馬は呟く。


「何が違うんだよ」


久瀬は答える。


「お前はまだ“世界側”にいる」


その言葉が落ちた瞬間、有馬の表情が一瞬だけ止まる。


自分だけが“遅れている”感覚。


白鐘が小さく呟く。


「じゃあ有馬さんは……」


久瀬は静かに言う。


「今、最初に気づいた側に入った」


沈黙。


有馬は苦笑する。


「気づいたって何にだよ」


久瀬は答えない。


答えられないのではなく、答えると確定するからだ。


そのとき、有馬がもう一度資料を見る。


そして固まる。


「……おい」


白鐘が顔を上げる。


「どうしました」


有馬はゆっくり言う。


「この名前……誰だ?」


白鐘は見ようとして、止まる。


見た瞬間、また“消える気配”がする。


久瀬だけがそれを見る。


そして確信する。


有馬はもう戻れない位置にいる。


久瀬は静かに言う。


「次はもっとはっきりする」


有馬が顔を上げる。


「何がだよ」


久瀬は答える。


「消失そのものが、見えるようになる」

読んでいただきありがとうございます。

感想・評価励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ