表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前が犯人だ、その推理で世界が変わる -変遷探偵・久瀬黎司の記録-  作者: 未確定ログ
第1部 『犯人変遷篇』第2編『消える共犯者』
32/51

第32話『名前の欠落』

朝の捜査会議は、いつも通り始まったはずだった。


だが、その“いつも通り”がもう成立していない。


白鐘雨音が資料を開く。


「昨日の現場記録ですが……」


有馬が横から覗く。


「どのやつだ?」


白鐘は一瞬止まる。


「……あれ?」


ページをめくる。


もう一度。


めくる。


「一人分、抜けてます」


沈黙。


久瀬黎司の視線が上がる。


「誰が抜けている」


白鐘は資料を見つめる。


だがその顔が少しずつ曖昧になる。


「名前が……読めません」


有馬が眉をひそめる。


「は? 印刷ミスだろ」


白鐘は首を振る。


「違います」


「“そこに書かれていた痕跡だけはある”のに、読めないんです」


久瀬は紙を見る。


そこには確かに空欄がある。


しかし空欄の形が“後から削られたものではない”。


最初からそこに「穴として設計されていた」ように見える。


久瀬は静かに言う。


「消えたな」


有馬が嫌そうに笑う。


「またそのパターンかよ」


白鐘が顔を上げる。


「消えたって……何がですか」


久瀬は短く答える。


「共犯者だ」


その一言で空気が止まる。


有馬が顔をしかめる。


「共犯者? 誰だよそれ」


白鐘も黙る。


だがその沈黙は“思い出せない沈黙”だった。


久瀬は続ける。


「この事件には、必ず補助的な存在が必要だった」


「だがそれが不要になった」


白鐘が小さく言う。


「不要……になると?」


久瀬は窓を見る。


雨は同じように降っている。


だがその雨粒の数が、わずかに減っている気がする。


「消える」


有馬が机を叩く。


「おい、またその意味わかんねぇやつかよ」


久瀬は否定しない。


代わりに資料をもう一枚めくる。


そこには“昨日の捜査記録”があるはずだった。


だがそこにあるのは、空白のレポートだった。


白鐘が呟く。


「記録まで……」


久瀬は静かに言う。


「記録は結果だ」


「結果が変われば、記録も変わる」


有馬が苛立つ。


「じゃあ昨日の奴は?」


久瀬は答える。


「“存在しなかったことになった”」


その瞬間、白鐘のペンが止まる。


「……でも」


「私は、その人と会話しました」


有馬が眉をひそめる。


「いつの話だよ」


白鐘は答えようとして、言葉を失う。


“誰と話したか”が、出てこない。


久瀬だけが静かに言う。


「そこが問題だ」


白鐘が顔を上げる。


「久瀬さんは……覚えてるんですか」


久瀬は短く答える。


「覚えている」


有馬が不快そうに笑う。


「お前だけ便利だなそれ」


久瀬は否定しない。


だがその目は、少しだけ鋭くなる。


「これは事故じゃない」


白鐘が息を呑む。


「じゃあ……何なんですか」


久瀬は静かに言う。


「構造だ」


その瞬間、廊下の向こうで足音が一瞬だけ止まる。


誰もいないはずの場所で。


有馬が振り返る。


「今の誰だ?」


白鐘も見る。


だがそこには何もない。


久瀬だけが、その“何かがいた痕跡”を見ている。


そして確信する。


この事件はまだ壊れていない。


だがすでに――


「共犯者という“役割”が、世界から剥がれ始めている」

読んでいただきありがとうございます。

感想・評価励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ