第2章 第9話 「第101補隊所属試制第2増強小隊」
20210330公開
【‐皇国歴312年「根月」21日早朝‐】
「神童、お前さんの事だから心配はしておらんが、無事に帰って来いよ」
「まだまだ隊の練度に不満が有るので無理はしませんよ。それよりもクヌートソン卿も訓練をしっかりお願いしますね。第101補隊は来年春には最前線どころか最激戦の戦場に突っ込まれる筈ですから」
「おう、望む所だ。でなきゃ、無理した甲斐が無いってもんだ」
そう言って、男臭い笑いを浮かべたのはグンダー・クヌートソン(KT)1等士だ。
今は第101補隊所属試制第2増強小隊の隊長をしている。
結構評価をされていた士家隊の隊長だったのに、なんで格下の、しかも新設されたばかりの補隊の小隊長をしているかと言えば、一言で言えば彼の我儘だ。
士家隊は現在も主力の戦力単位だけど、チャイン帝国相手では時代遅れの編成だと考えて、彼はなけなしの政治力を揮って第101補隊への移籍を実現させたんだ。
第1皇子派の士家の中では武断派だったクヌートソン1等士が、わざわざ移籍をする為に苦手な政治運動をしたんだから、その波紋は大きかった。
知る人ぞ知る存在だった第101補隊という新設の実験部隊が一気に注目されることになったんだ。
今、第1皇子派の1等士家と2等士家の間では、戦意が有るか上昇志向が強い人間は次は我こそとばかりに動いているらしい。
クヌートソン1等士の話では、『あの神童が創ろうとしている部隊が普通な訳が無い。出世をしたければ、第101補隊に行くべきだ』という流れが出来つつあるそうなんだ。
とばっちりで面談の要望が多くて、余計な仕事が増えたので僕は被害者と言って良いと思う。
「かああ、俺も出来るなら付いて行きたいぜ。絶対に為になるからな」
本当に口惜しそうな表情でぼやくクヌートソン1等士だけど、さすがに編成されたばかりの部隊から離れるのは無理だ。部隊ごと付いて来たくても、魔杖弓M16試作2型の配備も全員に行き渡っていない状態なんだから、それも無理だ。
僕の第1増強小隊から横滑りで分隊長1人、兵8人も譲ったんだから、おとなしく訓練に励んでもらいたいものだ。
「戻ったら、ちゃんと戦訓を還元しますから」
「まあ、今はそれを楽しみにしとくか」
練兵場には整列した第101補隊所属試制第1増強小隊が待っていた。
その後方には改造した獣車が並んでいる。
小隊の正面に設置された台に向かいながら部下たちの緊張具合を確かめる。
うん、緊張はしているけど、問題の無い範囲に収まっている。
服装は何とか間に合った装備で統一されている。
『補隊鎖帷子長袖型』の上に、『補隊迷彩戦闘上衣長袖型』を羽織っている。
夢で知った地球のサーコートを、これまた夢で知った茶色と緑色の模様が入り乱れた迷彩柄に染めた上げた上衣だ。
士家隊でもサーコートというか、陣羽織というか、そういう上衣を着ていた当主も居たが、大体が上位士家の出だった。古き良き時代から受け継がれて来たせいで、戦場で目立つ為の上衣なんだよね。
それに対して、『補隊迷彩戦闘上衣長袖型』は完全に逆の目的の為に作られた上衣だ。
初めて試作品を着て、みんなの前に現れた時のポカンとした顔は見物だった。
だが、実際に演習でその効果を理解すると、評価は急上昇した。
工夫された上衣1つでここまでの効果が有ると分かれば、当然欲しくなる。
それに、戦場で着る上衣なんて、貧乏な補隊には無縁だったからね。
僕の決済ですぐに用意出来るヴィストランド家の従兵用が先に届くと、ものすごく物欲しそうな目になっていたのは見なかったことにした。
「小隊長に敬礼!」
エミリア・ペーデル曹長が号令を掛ける。
答礼後の訓示は特に考えていなかったが、短くまとめる事だけは決めていた。
「諸君、我が小隊が出来て、たった二月と十日だ。その短い期間で出来る事は全て熟した積りだ。とはいえ、まだまだ不十分だ。我が小隊はもっと強くなる。帰還後の訓練は更にきつくなるぞ。猛訓練が怖くて離脱する様な軟弱な者は居ないと信じている。全員が訓練に参加する為にも、それぞれがそれぞれの全力を尽くせ」
一旦、言葉を区切った。全員を見渡す。
うん、良い表情だ。
「第101補隊所属試制第1増強小隊、これより戦場に向かう」
僕は再び、戦場の匂いとホコリに塗れる日々を過ごす為に出発した。
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