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第2章 第5話  「5小爪(ミク)」

20210226公開



【‐皇国歴312年「降月こうげつ」11日午後‐】 

 



 午後一番に予定している座学の為に補隊本部棟の第1会議室に向かっていると、その会議室の出入口を守るように立哨している隊員2人の姿が在った。

 2人とも兵長だ。通常の補隊であれば、兵長は士家隊でいう伍長(班長)に当たる。少し前までの僕の階級相当な訳だ。

 我が第101補隊所属試制増強小隊は精鋭を集めた事も有るけど、その兵長が一番下の階級なんだ。

 そして、将来、原隊に戻った時にこの小隊での経験を部隊に還元する為にもそうしている。


 ちなみに、一般の補隊の階級は5等兵から始まり、2等兵までが5士相当になる。

 伍長の兵長、小隊長相当の5等曹から中隊長相当の2等曹までが続いて、隊長には曹長が就く。

 2つ目の夢の世界で言う下士官しか階級が無いのは、名称の『補隊』が示す通り、士家隊の補助的組織だからという理由なんだ。

 こういう風に階級が細かく分かれているので娑婆しゃばの人たちには分かり難いと思う。

 だけど、2つ目の夢に出て来た『Marinesマリンコ』と言う軍隊の階級の方がより複雑だったから、僕的には単純に思えるんだけどね。

 えーと、確か『Marinesマリンコ』では、二等兵、一等兵、上等兵、伍長、三等軍曹、二等軍曹、一等軍曹、曹長、先任曹長、上級曹長、最上級曹長、海兵隊最上級曹長に分かれて筈・・・ さすがに自信ないけど。

 


 会議室まであと2百爪メク(約3㍍)まで近付くと、その兵長たちが2人して扉を開けながら中に向けて号令を掛けた。


「気を付け! 隊長入室!」


 中で一斉に人間が動く音がして、僕が敬礼を2人の兵長に返しながら従兵7人に続いて入室する頃には音1つしない空間になっていた。僕の動きに合わせて身体の向きを変えるのが中々どうして、いっぱしの軍隊らしく感じる。

 うん、やはり練度は士家隊よりも圧倒的に上だね。こうやって補隊の運用ぶりを体験すると、士家隊は身分は上だけど、所詮は素人に毛が生えた程度に思えるね。

 会議室の外に居た2人も中に入れて、部下たちと完全に向かい合わせになった瞬間、一斉に敬礼をされる。答礼をした後で、早速お仕事の時間が始まる。



「後ろの方が見難い筈なので、全員座ってくれ」


 いや、貴族で階級は1番上だとはいうけど、僕は9歳だ。ほら、どう考えても後列の隊員は僕を見れないと思うんだ。

 特に混乱なく床に腰を降ろし終わったタイミングでトムスに目配せすると、従兵のみんなが部下たちに2種類の鏃を配り始めた。

 


「今、配ったのは、士家隊の攻撃魔術マギア『エクスアロ』で使用する鏃と、今後この隊で使用する鏃だ。大きい方が『エクスアロ』用だ。初めて見た者は挙手を」


 7人が手を挙げず、11人が手を挙げた。


「よろしい。こんな小さな鏃であの爆発力を起こすのだから、士家の連中が誇りに思うのも多少は分るというものだ」


 僕はそう言いながらみんなの様子を確認する。

 午前に披露したМ4もどきの威力を知った後だからか、『いや、隊長も士家じゃん』という表情を浮かべる者は居なかった。

 

「もう1つの小さい鏃に注目。直径5小爪ミク(約7.5㍉)の、この小さな鏃が我が祖国の戦い方を変える。その歴史的瞬間に諸君は立ち会える訳だ。どうだ、この小隊に配属されて幸運だと思わんか?」

「はい、幸運です!」


 おっと、返答が思ったよりも重なったな。

 

「幸運と言っても誰でも手に入れられるものではない。この小隊に選ばれるほどの努力が呼び込んだものだ」

「有難うございます、隊長!」


 『Marinesマリンコ』なら、『サー、イエッサー!』という感じでまたもや声が揃った。


「では、これから、その鏃に付いて解説する。まず言える事は、その鏃は爆発はしないものの、武器としての威力は弓を遥かに超える。士家隊が使う『アロ』や『ハイアロ』よりも上だ。午前中に見せた通り、その鏃が飛ぶ姿は見えない。厳密には見えん事は無いが反応出来ないくらいに速く飛ぶ。だから、ある意味、敵にとっては飛んで来るのを目で追える『エクスアロ』よりも厄介な武器と言える」


 高揚感が部下たちから発生した。

 『エクスアロ』の様な派手さは無いものの、最新式で強力な武器を自分たちが扱えるのだ。

 高揚感も抱くというものだ。


「とはいえ、『魔杖弓M16試作2型』と一緒でなければ、その鏃は強力な武器とならない。通常の弓矢と同じで、打ち出す母体が必要だからだ。何故、2つで1組なのか? それは『魔杖弓M16試作2型』が鏃の加速を受け持っているからだ」


 再びトムスに目配せして、M4もどきを受け取る。

 銃身部分に当たる金属製の筒を示しながら説明を続ける。


「M16試作2型は、小隊の員数だけでも早く作って貸与する事を最優先にしているので交換が出来ない構造だが、この部分が鏃の加速を担っている」


 そう言って、M4もどきの銃身を取り外した。


 数ある試作品の中でこの型を取り上げたのは、高度な魔術マギアの才能が無くても撃てる可能性が高いから。

 『魔道具エアコン』を開発する際に習得した、魔鉱に魔術回路を刻む技術を応用しているんだ。

 僕は勿論、上手く行けばトムスたち従兵でも扱えるかも?、というスケベ心から試作して見た。

 試験の結果は、そこそこの性能が得られて、従兵も扱える、だったので、僕の分と予備を含めて6丁のM4もどきを造って保管していたんだ。

 


「一見、只の鉄の筒に見えるが、中に魔鉱製の筒を包んだ特殊な構造をしている。ぶっちゃけて言うと、その魔鉱製の部分がこの武器の最重要部分だ」


 そう言って、取り外した銃身を最前列に座っているエミリア・ペーデル曹長に「みんなに回してくれ」と言いながら手渡す。

 彼女は銃身の中を覗いてから横に居た2曹に回した。



「中を見れば、浅い溝が入っているのが分かるだろう。その効果で直進性が高い。1ミチ(約150㍍)先を狙って、半分くらいが20セク(約30㌢)の範囲に収まる」


 反応はオォォという声だった。

 身体強化を掛けた状態で弓を射ても、その距離なら左右上下に1百爪メク(約1.5㍍)はブレるからね。

 だけど、みんなが驚いた精度でも僕には物足りなかったんだ。

 工作精度の限界もあって、これ以上の向上が見込めないから改良を打ち切って、魔術化に進んだ結果、生まれたのが魔術マギア『エクスカービン』だ。

 有効射程は2ミチ(約300㍍)を軽く越えて、収束もその距離で6セク(約9㌢)に収まる。

 我ながら、3つ目の夢で知ったズルという意味の『チート』という言葉がピッタリ合ってると思う。








お読み頂き、誠に有難うございます。

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