第2章 第6話 「接触」
20210309公開
【‐皇国歴312年「降月」11日夕刻‐】
座学の後で、部下を射場に連れて行って、『魔杖弓M16試作2型』を撃てそうかどうかを試したけど、全員が撃てそうな反応が得られた。魔術回路への魔素充填に必要な時間は遅い隊員でも1百脈(約1分40秒)くらいに収まりそうだった。
即応性という点では不満だが、割り切るしかないだろう。
でもまあ、これで一安心だ。
さすがに、M16を使えない隊員を何人も抱える余裕は無いからね。
後は適性を見極めて、1個班4人(通常編成から1人減らして代わりに班の数を4つに増やした)の内の1人を『エクスランチャー』要員に仕立てられるか?がカギになる。M16×18でも強力とは言え、騎兵突撃を止める火力としては少し心許ないからね。
『エクスランチャー』要員を4人揃えられれば、M16×14+支援火器『エクスランチャー』×4で構成された部隊になるから、火力だけ見れば士家隊を軽く上回る戦力になるんじゃないかな。
補隊初の従兵10人(まだ現在の所7人しか居ないけど)が加わるから、総勢30人という通常編成の補隊中隊23人を大きく上回る人数になるんだ。
それに、かなり柔軟な部隊運用が可能になるんだよね。
通常の編成では、5人で構成される班、2個の班で構成される小隊となるんだけど、『第101補隊所属試制増強小隊』では4人で構成される班を2個纏めて、分隊という単位を導入した。
通常時は2つ在る分隊単位で運用して、状況によっては更に分隊を2個班に分ける事が可能になるからね。1個班4人でM16×3+『エクスランチャー』×1という戦力は人数の割に長距離での火力が高い。遠くから叩けるのは大きい。
そうそう、3等士家に陞爵して増えた僕の従兵も合わせれば、3個分隊と見做す事も出来る。どう考えても『第101補隊所属試制増強小隊』という名は「小隊」に対しての呼称詐欺だね。
問題は機動力だけど、これに関しては調達申請はもう出してある。でも、申請が通るかどうかは不明だ。
さすがに騎獣2頭立ての6人乗りの獣車を6台も申請するのはやり過ぎだったかも・・・
1個分隊を従兵が御者をする2台の獣車に分乗させて、乗員数が1人少ない方に分隊で消費する鏃や各自の装備品や予備の食料などの物資も積む予定だ。
これで2個分隊に4台の獣車が当てられる。残り2台には僕とエミリア・ペーデル曹長と残りの従兵が乗り込む。部隊全体の物資はこの2台が運ぶことになる。それに余裕を持った運用をしておけば、いざという時は負傷者や予定外の荷物を積むことも可能だしね。
そしてこの申請が通れば、『第101補隊所属試制増強小隊』の価値は更に跳ね上がるんだ。
実際には街道上しか走れないから戦場を縦横無尽に走り回れる訳では無いけど、戦場への移動時間が大きく短縮出来るんだよね。
しかも、獣車の上からでも射撃出来る訳だから、状況によっては移動可能な砲台としての役割も果たせるからね。
今日の仕事の仕上げに、期限が迫っている申請書や報告書などの書類を片付けていると、補隊本部附きの事務員が新たに届いた手紙をわざわざ届けに来てくれた。
労いの言葉を掛けて受け取ったけど、ここに来てから初めて届いた手紙だと気付いた。
差出人の名前を確認すると、グンダー・クヌートソンKTと書いてある。どこかで見た名前だ。
ああ、タダ村で一緒に戦った士家隊の隊長だ。43歳で脳筋の隊長だ。
うん、戦いの後で一番多く僕の肩を叩いた1士家の当主だ。
内容は明日の夕食を共に出来ないか? というお誘いだった。
返事は明日の午前中にわざわざあちら側の従兵が回収に来るそうなので、こちらが届ける必要はないそうだ。こういう経験はあまり無いので、正直返事をどこに届ければ良いのか分からないので助かる。
返事だけ書いて、我が家の家紋が入った封筒に入れて事務員に帰りしなに預けておいた。
翌日、早目に書類仕事を終わらせて待っていると、公的な行事の際に着る礼服に身を包んだグンダー・クヌートソン卿がやって来た。
うん、似合わない・・・
こう、毛皮でも羽織った方が似合うんじゃないかな? まあ、鎧でも良いけど。
エミリア・ペーデル曹長に先に帰る旨を伝えたけど、昨日の段階で第2太后陛下に報告が行っているんだろうね。僕は半ば陛下の手駒だからね。
連れられて行った先は、格式の高そうなお店だった。3つ目の夢で言うと『料亭』と言う店が1番近いかな? ちょっとした庭園に面した部屋に通されたけど、そこで初老に差し掛かった2人の男性が待っていた。
うん、思いっきり、きな臭い匂いしかしない。
空いてる席から考えて、特にこちらが下の立場という訳では無さそうだ。対等な立場という事を表しているんだろう。 9歳の子供にそんな事を考えさせるような夕食をこれからするんだけど、料理を楽しめるかどうかは何とも言えないね。
「すまんな、わざわざご足労を願って」
「いえ、お気遣いなく」
「自己紹介は要るかね?」
「いえ、御尊顔は存じておりますので、大丈夫です」
とは言ったものの、僕が当主になった直後に引退したから、辛うじて知っている程度だ。2人とも御側家の一角の前リングバリ家当主と前フランソン家当主だ。第1皇子派の重鎮だ。
「まずは、料理を楽しもうじゃないか」
そう言って、前リングバリ家当主が手を叩くと、料理が3人前、そう、3人前運ばれて来た。
グンダー・クヌートソン卿? 案内したらそのまま退席したけど何か?
前菜から始まって、当たり障りのない世間話をしながら食事が進み、5品目は鳥のモモ肉の香草焼きが出て来た。
「さすがに旬だけあって、脂が乗っておるな」
「ほうか? 儂には少々、脂っこいのう」
「そんな事を言うのは歳を取った証拠じゃな。若い者の意見はどうじゃ? ちょうど良いと思わんか?」
9歳児なのに食レポを求められた。
「そうですね、僕にはちょうど良い脂加減ですね。それよりもむしろ、程よく香草が効いて、臭みが無いことがありがたいですね。火加減も絶妙で鳥本来の旨味を楽しめますね。こういった所で食事をするのは初めてですが、さすがと言うところでしょうか」
「ほう、神童殿は舌も肥えておる様じゃ」
「ほんに」
「そろそろ本題に入ろうかの。どうじゃ、手を結ばんか? 神童殿も今の状況は不本意じゃろ?」
うん、呆れるくらい真っ直ぐな言葉だ。
鳥の香草焼きの食レポの次はいきなり国家の将来に繋がる話になってしまった。
「手を結ぶ、ですか・・・ 検討に値する御言葉ですが、どういった風の吹き回しですか?」
「いや、簡単な事じゃよ。ラーレ家がはしゃぎ過ぎておるのは知っておるじゃろうが、手をこまねいていては後手に回り過ぎる。ここらで歯止めを掛けん事には押し切られてしまうじゃろうという予測からの一手じゃよ。それに、神童殿にも利益が有る話じゃろうて」
まあ、確かに利益は有る。不利益も有るけど。
「正直なところ、正負合わせて利益は相殺される話ですね。これまで無かった後ろ盾が出来るのは良いですが、攻撃の標的になる訳ですからね」
「ほほう、その若さですぐにそこまで読めるとは、ほんに神童というところか」
「いえいえ、当主なら誰でもこれくらいは読めると思いますよ」
「まあ、後ろ盾に関しては、母大樹様が密かに動いておるじゃろうが、後ろ盾は多い方が安心じゃろう?」
「1つ訊いて良いですか? どうしてこの時期に僕と接触する決断をされたのですか?」
表には出ない何らかな理由が有る筈だった。
その理由が分かれば、危機管理がし易くなる。
「なーに、簡単な事じゃよ。今の我らが祖国には新たな英雄が必要じゃ。在りし日の将家の始祖以上のな。そうでなければズルズルと後退するのみとなるじゃろう。気が付けば武力という名の力を身に付けつつある、正に英雄にうってつけの人物と手を結ぶのは当然じゃろ?」
なるほど、編成中の『第101補隊所属試制増強小隊』をかなり高く評価しているんだろうね。
まあ、その辺の情報を拾い集めるくらいは朝飯前か。
「それにの、神童殿と一緒に出征した者どもが五月蠅いんじゃよ。手を組めってな。今夜会って、やっとその気持ちが分かったがのう」
「信じられんが、ほんに儂の孫と同い歳かえ? 50歳ほど年齢を胡麻化しておると言われても信じるぞ」
「小隊詐称」だけでなく、「年齢詐称」まで『神童に関する疑惑』に加わった様だ。
でも、さすがに50歳もサバを読んでいると思われるのは心外だね。
「見ての通り、9歳の洟垂れ小僧ですよ」
何故か、2人の表情が揃って苦いものを口にした時の顔になった。
少々悲しいけど、信じてくれなかったようだ。
僕は本当に9歳児なのに・・・
お読み頂き、誠に有難うございます。




