第2章 第4話 「魔杖弓M16試作型」
20210225公開
【‐皇国歴312年「降月」11日昼前‐】
「そう言えば、その魔道具を何と呼べば良いのでしょうか?」
僕が「次が最後の質問だが、何か有るか?」と言った後で、そう訊いて来たのはミカル・アンデル3等曹だった。
考課表では、頭の回転よりも真面目な性格が評価されていた32歳・既婚・2子有り、だ。愛妻家で家族仲はかなり良い。タダ村の戦いにも参戦し、中隊長として部下を能く纏めたと有った。思想的にも問題ない。
これ以上の、考課表に載っていない様な事を知りたかったら、エミリア・ペーデル曹長に訊いた方が良いんじゃないかな? 第2太后陛下の目・耳・鼻の彼女なら家計簿の中身まで把握してるだろうからね。
「これには特に名前は無い。小官の私物だからな。試行錯誤していた事も有り、結構な数を造った試作品の1つだ」
僕の返答を聞いた隊員たちが驚いた顔をした。
ああ、そりゃあ驚くか。魔道具は高価な品物の代名詞だからね。
それを多数造るには資金が必要だ。たかが4等士家だった僕の家が市場に出せない兵器を私費で開発していたとは想像もしていなかったんだろう。
ちなみに、意外と研究開発費は掛かっていない。肝となる魔術は全て僕が造るからね。
そうそう、初めて銃身部分の鉄製のパイプを買った工房は我がヴィストランド家の傘下に加わっている。
うん、いい買い物だった。
「今回、陛下の肝いりで新設された我が第101補隊所属試制増強小隊が使用する武器に関してだが、この魔道具ではなく、新規で開発した魔道具を採用する」
僕がそう言うと、従兵のトムスたちが4つの木の箱を僕が居る場所まで運んでくれた。
長さ80爪(約120㌢)、幅20爪(約30㌢)、高さ10爪(約15㌢)の大きさだ。
「こちらにはちゃんと名称が付けてある。『魔杖弓M16試作2型』だ」
どうでもいい知識だが、この『魔杖弓M16試作2型』には、我が祖国初の冠がいくつも付けられることになるんだ。
これまでの武器や防具には表音記号と数字を使った形式名は無かった。せいぜいが管理する都合上、『補隊長槍後期型』とか、『補隊鎖帷子長袖型』とかと呼ばれるくらいだ。士家隊が使っている武器や防具には共通の名称も無い。せいぜいが各士家に伝わっている名称だからね。例えるなら『蜻蛉切』みたいな感じかな?
武器の分類として初めて使う『魔杖弓』は、杖弓にするか迷ったんだけど、全く新しい武器だから、敢えて魔道具を連想させる名称にしたんだ。
更には補隊では初めての遠距離攻撃を可能とする武器としての採用だ。遠距離攻撃、すなわち主力火力は士家隊の独占とする為に弓さえも補隊には配備されて無かったからね。
まあ、まだまだ改良点は多い。
出来れば部品用の規格を作って共通にしたかったけど、残念ながら時間が無くてそこまでは推し進めれなかった。なんせ1つ1つが職人の手作りの段階だ。だから、故障した時にあらかじめ用意しておいた部品が合うかどうかは心許ない。当然他の魔杖弓からの共食い整備も出来ない。
今後はこの辺りを何とかしたところだ。
整備性の事も有り、僕のМ4もどきよりも更に簡略化した設計になっている。3つ目の夢で例えるなら、僕のМ4もどきが一点物の白い悪魔だとすれば、M16は量産型の事務という感じだ。
箱から取り出した『魔杖弓M16試作2型』は僕のМ4もどきと違って長い。10爪(約15㌢)は長い。基にしたM16とМ4との違いなんだけど、長くした事で銃剣を付けた上での白兵戦に備えてもあるんだ。
あと、ほとんどを魔鉱で造ったМ4もどきと違って、量産性とコストを考えて木の部品を多用した。当然だけど『プラスチック』が無いからね。
「この『魔杖弓M16試作2型』は製造費を下げる為に、かなり簡略化をしたが、性能に妥協はしていない。諸君が使いこなせるようになれば、我が第101補隊所属試制増強小隊は敵にとって、天敵となるだろう。時間が無かったので、辛うじて4丁だけ完成している状況だ。各班に1丁を割り当てるから、昼飯が終わったら、座学の後に早速試し撃ちをしてもらう予定だ。何か質問は有るか? 無ければ昼飯を食う事にする」
質問が出なかったので、宣言通り昼飯を摂ることにした。
お読み頂き、誠に有難うございました。