15話 方針を変えよう
名前 ヤギさん
種族 ヤギ
タイプ アンデッド
レベル アニマルコンパニオン レベル17
筋力 優秀
敏捷 優秀
耐久 --
知力 劣等
精神 普通
魅力 普通
スキル 攻撃レベル3、知覚レベル2、跳躍レベル3、知識(ダンジョン)レベル2(+2)、記憶レベル4
アビリティ 大いなる彼方の記憶、武器強化(角)、突撃強化、暗視、嗅覚、スキルフォーカス:知識(ダンジョン)、主人との絆、呪文共有、アンデッドの耐性、血脈の発露、危険回避、突き飛ばし(初級)、能力上昇、血脈の覚醒
上げたおぼえのない記憶スキルもあがっている。
レベルが上がった時に成長を選択できるようになったのはこれのせいか?
可能性はあると思うが情報が足りない。
他に記憶スキルを持っているやつを見つけられればいいんだけれど。
っと、そういえば俺がレベル上がったってことはナタリーもレベル上がったのか。
(ナタリー、もう大丈夫だぞ?)
「…………」
(ナタリー?)
返事がない。どうした?
「めええ!」
俺は慌てて跳躍し、木の上のナタリーの元へ向かった。
(ナタリー!)
ナタリーは幹により掛かるようにして身体を預け、ぐったりと俯いていた。今にも枝からずり落ちそうで危ない。
すばやくナタリーを背中に乗せ、落とさないよう慎重に枝を飛び移りながら地面へと戻った。
「ひゅぅ……ひゅぅ……」
ナタリーは真っ青な顔で弱々しく息をしている。地面に下ろすと小さな手のひらがピクリと反応したが、意識が戻る様子はない。
一体どうしたんだ! さっきまで元気だったのに!
「めぇ! めぇ!」
ヤギの身で倒れた女の子の解放とか難易度ハード過ぎるが、なんとかしないと。
「めぇ……」
ええっと思い出せ現代人。こういうときの応急処置はなんだった。確か運転免許を取るときになんかやったようなやらなかったような。ああもうどうすればいい。
全身汗でびっしょりだ。
体温は……なんか下がっている気がする。温めた方がいいのか。
とにかく木陰まで動かし、そっと寄り添ってみた。
「ん……ふぅ……」
「めぇぇ!」
意識が戻ったのかうっすらと目を開けると、かすかに口を動かした。なにか喋ろうとしたようだが、声にはならなかった。
「めぇ!」
とにかく傍に寄り添ってみることにした。毛布も何もないし毛皮の肌で温めるしかないだろう。俺が寄り添うと、ナタリーは小さく息を吐いた。すぐには温まっている感じはしないが、時間が経てば……。
いやちょっと待て。俺に体温ってあるのか? 思い返してみたら俺ゾンビじゃん。
肉体的な生命活動もないし、血も流れてない。俺の体温は気温と一緒だ。
慌てて離れようとした時、ナタリーは弱々しく手を伸ばし俺の胸のあたりを掴んだ。
「めぇぇ」
「…………」
言葉はない。だが何を伝えたいかは伝わってきた。
俺はあまりくっつかないように、ただ側にいることは分かるような位置に座り直した。
ナタリーの表情が少しだけ穏やかになった気がした。
これからどうしよう。
このまま時間が過ぎるのを待っていていいのか?
そうだ。
(ステータスオープン!)
ナタリーからバフ魔法をかけてもらったとき、俺の能力の上昇はステータスに反映されていた。もしかしたら病気についてもステータスになんらかの反映があるかもしれない。
名前 ナタリー・ヴォイド・レオタール
種族 人間
タイプ 人型生物
レベル クロスブラッド レベル17
筋力 劣等
敏捷 優秀
耐久 優秀
知力 普通
精神 普通
魅力 卓越
スキル 攻撃レベル2、 魔法レベル5、生存術レベル5、知識(自然)レベル5、治療レベル2
アビリティ 武器習熟(初級)、異種族の祖先、二重の血脈、秘術魔法レベル2、獣の相棒、死越の絆、触媒省略、魔人の肌、オーバーロード、魂の共有
魂の共有? オーバーロード?
魂の共有:あなたはあなたの種族と相棒の種族、両方に効果のある魔法しか受け付けな
オーバーロード:覚醒アビリティ。一日に一回、魔力が不足した状態でも魔法を使うことができる。使用後は過労状態になる。
これか! あの俺を呼び寄せた魔法のせいか。たしかにあの時ナタリーの様子がおかしかった。
いやでも変だ。レベルが上がったのはホークベアを倒した時じゃないのか? だとするとレベルアップ前にこのアビリティを使ったことに……。
気になったキーワードである覚醒アビリティに意識を集中しても何の情報もでてこない。
うーん……。
過労ならこうして横になっていれば大丈夫なのだろうか。俺は過労状態に意識を集中する。
過労:あらゆる行動にペナルティがかかる。1日間休養することで疲労状態まで回復する。過労状態の時に疲労状態、または過労状態になると気絶状態になる。
……オーバーロードを使った時点ですでにナタリーは消耗していたのか。
考えてみればナタリーは十代前半、日本ならまだ小学生くらいの年齢だ。こうして森の中で過ごし続けて体力が消耗していないわけがなかったんだ。
(森を脱出することを再優先に考えていたけど、ちょっと考えなおすか)
今までのように移動し続けることは止めるべきか。
(無理なく倒せる相手を狩ってレベル上げをして、移動するのに逃げまわったりする必要がなくなるようになるべきか)
レベル上げをして次に進む。すぐに脱出するのは諦めて、安全に行動できる範囲を広めていく方がいいかもしれない。ナタリーが目を覚ましたら相談してみようか。
そうだ、ナタリーの空きスロットの問題もあるな。この世界の人にとってアビリティの選択はどう認識されるのか、聞いてみないと。
「めぇぇぇ」
思わずため息が漏れた。
ヤギの頭はそう難しいことを考えるようにはできていないんだ。疲れないはずの死んだ身体がなんだか重くなったような気がする。
俺は考えることを止め、木々の隙間から見える星空をぼんやりと眺めながら夜が明けるのを静かに待つのだった。