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11話 襲い来るカニとヤギビーム

 それから3日間、俺達は森をさまよい続けていた。

「めえええ」

 弱った、こんなにも出られないものなのか森って。正直森舐めてた。

「森の中で~♪ ヤギさんと~♪」

 ナタリーは元気そうだが、破れた布を身体に巻きつけただけの格好じゃ風邪も心配だ。

(寒くないかナタリー)

「うん平気」

 強がりを言っているわけでもなく、本当に平気なようだ。

 俺はもうゾンビヤギだから暑いや寒さは感じることはできるが、それがどんな温度でも不快に思うことはない。だから、森の気温が若干低いことは分かっても、それがナタリーにのような子供にとってどうなのかまではよく分からない。

 そうでなくてもヤギの基準になっているせいで、人間の適温がよく分からなくなっているし。


 にしてもおかしいな。

 前にいた森では、野生の勘というか森のどこにいてもなんとなく今いる場所が分かったものだけど。

(ゾンビになったから野生の勘が働かなくなったのか?)

 ありえそうだ。そりゃゾンビだもの。人間だと普通に走れるのに、ゾンビになるとノロノロとしか動けず犠牲者に簡単に逃げられるんだ。最近だと走るゾンビも増えているみたいだけど。

 いや昔見た映画の話だけどね。

 今のところ、俺の身体にそういった能力低下は見られない。むしろ筋力がちょこっと上がっているようだし、知力も向上している。『能力上昇』というアビリティによるもので、アニマルコンパニオンの特殊能力のようだ。

 レベル以外にもこういうアビリティももらえるんじゃ、そりゃ普通のヤギだった俺じゃ、獣の相棒だった犬には勝てないはずだ。


「ヤギさん」

(どうした?)

「またお話して」

(お話って)

「ヤギさんたくさんお話知ってるでしょ?」

 まぁ小説どころか絵本すら置いていないこの世界の人間よりはたくさんの知識を知っている。

「昨日聞いた赤ずきんのお話とてもおもしろかった!」

(寝る前にな)

「分かった、約束ね」

 そう言うと俺の首に顔を埋めてクスクスと笑い出した。

 どうしたんだろう、このくらいの子供って情緒不安定なのかな?

「ほんの少し前まではこうして誰かと楽しくお話できるなんて思わなかった」

 自分の言葉を誰かが聞いてくれるのが嬉しくてしょうがない、そういう感じ。

「めぇ」

「ありがとうヤギさん」

 ナタリーの存在は俺の今の能力を維持するのに必要だ。だから離れるつもりなんて全く無いのだけれど。

 こうして背中に体温を感じながら無防備な好意を向けられると利害とは別に守りたくなってしまうな。


 考えながら歩いていた俺は、ピタリと足を止めた。

「また?」

 ナタリーが不安そうに言う。

(まただ)

 風上から漂う強い獣臭。

 熊のものに似ているが、鳥のような感じもした。

 この昨日からたまに漂う臭いだ。俺のゾンビの勘がなんかヤバイやつがいると警報を鳴らしている。

(迂回しよう)

「うん」

 こいつがいるせいで、俺達はつねに風上に向けて歩くことを余儀なくされている。

「何なのかな?」

(…………)

 ここは異世界。剣と魔法の世界であり、モンスターもダンジョンも当たり前に存在する世界。どんな怪物がいるか分からない。

 生け贄ヤギだったころはどうせヤギだし死んじゃってもいいかとか思っていたけど、背中に子供を乗っけていると生きなきゃいけないという気が湧いてくる。


 その時、木の上から無数の影が躍り出てきた。

 とっさに俺は背中に乗ったナタリーを前方に突き飛ばす。

「めぇぇ!?」

 鋭い痛みが背中に走った。だけどゾンビだから痛みは痛いという情報だけで痛みで身体が動かなくなったりはしない。

 3体のカニだかクモだかよく分からない影が俺の皮膚に牙を突き立てうごめいている。

 地面に転がって引き剥がし、襲いかかってきた相手をしっかり見た。

 そいつらは異常にでかい口をしたカニだ。

(こいつらは確か……)


種族 ボカクラブ

タイプ 異形

レベル モンスター3


筋力 優秀

敏捷 普通

耐久 優秀

知力 微小

精神 普通

魅力 微小


スキル 知覚レベル2、登攀レベル2(+6)、跳躍レベル2

アビリティ 暗視、武器(歯)、クリティカル率上昇(歯)、ウェポンフォーカス(歯)、ウェポンスペシャリゼーション(歯)、穴掘り、悪食、黒鉄破り、コンビネーション


 頭のなかにステータスが思い浮かぶ。

 そうだ、竜のおじさんの聞いたことがある。ダンジョンの低階層に住むモンスターで、強くはないが群れるとやっかいで、何より鋼をも噛み砕く強力な歯を持っている。

「ヤギさん!」

 ナタリーが叫ぶと、周囲の雑草が急に成長しボカクラブに巻き付いた。

(すごいな魔法)

 動けなくなったボカクラブを一匹ずつ叩き潰し、あっさりと戦いは終わった。硬そうな見た目に反し防御力や打たれ強さはレベル相応で俺の一撃なら楽に倒せることが分かった。

(レベル差があったのは確かだろうけど)

 ざっくりと裂けた背中の痛みを感じながら、俺は白い歯と小さな宝石を残して溶けるように消えてしまったボカクラブを眺めていた。

(あのカニ、攻撃力は十分にあった)


 ウェポンフォーカス:特定武器の命中率が上昇する。


 ウェポンスペシャリゼーション:特定武器のダメージが上昇する。


 黒鉄破り:鋼鉄以下の硬度を無視する。


 コンビネーション:このアビリティを持つ者同士が協力して攻撃するなら、ダメージが上昇する。


 攻撃力特化で数が揃えば、こちらが一匹倒す間に高い攻撃力で押し切る戦術なのだろう。実際、もっと数が多ければ最初の奇襲で俺はやられていたかもしれない。


 ……ヤギにももっと良いアビリティください。

 俺だって転生者なんだからなんかすごい異能、例えば魔力チートとかくらいあってもいいはずだ。

「ヤギさん大丈夫?」

(大丈夫だ、かすり傷だよ)

 さっきの戦い、もし俺がとっさにナタリーを突き飛ばしていなかったら背中にいたナタリーが攻撃を受けていただろう。

 むしろあのカニ達はナタリーを狙っていたようにも思える。

 確かに魔法使いから倒すのが効率が良いだろう。たった一回の呪文でナタリーはカニ達を無力化してしまった。

(つまり、俺がナタリーを守る形で戦えば効率がいいということか)

 魔法使いは後ろ、ヤギは前。そういう形で戦うべきか。


 それからもう二回、ボカクラブの襲撃があったが分かってしまえば対処は簡単だ。

 間合いをとってナタリーの魔法で動きを封じ、その後で俺が踏み潰す。

 攻撃力特化といっても、噛みつくことしか攻撃手段がないボカクラブはこうすれば簡単だ。


(ん?)


 最後のボカクラブを踏み潰した時、ふいに鼻にボカクラブの臭いを感じた。

「めえ!」

 俺は木陰に向けてヤギビームを出してみる。

 ジッっと音がして木陰に隠れていたボカクラブが焼けた。

 ヤギビームこと血脈の発露は一日に4回しか使えない微妙アビリティだが、ヤギでもできる遠距離攻撃は貴重だ。

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