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民衆「魔王陛下ご生誕を心より奉祝申しあげます」
僕が転生する、ほんの少し前の異世界のお話。
ほんの少し前とは、昔話にありがちな言い回しの一時代前だとか100年前だとか、そんなに大昔のことではない。
5分前とか10分前とか、そんなふうに考えて欲しい。
魔の国は、完全なお祝いムードだった。
どんなことでも口実にして騒ぎたがるお祭り好きから、どんな寄合に顔を出すのにも面倒くさがるひきこもりまで皆が皆、思い思いの形で祝っていた。
酒や料理を用意したり、出し物の打ち合わせをしたり。
皆、笑顔だった。
新たな魔王の誕生を喜ぶ気持ちでいっぱいなのだ。
異常だった。
異常としか、言いようがなかった。
領主の圧政、終わりのみえない戦争。
昨日まで、いつ民衆の怒りが爆発して革命が起こってもおかしくない、魔の国はそんな一触即発の状態だったのだ。
そんなときに新たに誕生する魔王、魔の国の象徴である王など歓迎されるはずもない。
そんなはずないのに・・・
新魔王の呪いにすでに支配され始めていることを、人々はまだ知らない。