イタズラ
「相川さん!?」
私の顎を持ち上げている相川さんからは不適な笑みが消えないでいる。私は目の前にある相川さんの顔にドキドキしてしまった。息がかかるくらいの距離だ。すると彼は私の耳に口を近づけ、息を吹きかけた。
「!」
さすがにこれは、と思いながら鼓動が速くなっていくのを感じていた。そして相川さんは耳元でささやいた。
「名前で呼ばないと、イタズラするよ」
静かな、低くて響く声に私の頭は真っ白になった。
「あ、相川さん……」
「玲音」
「玲音さん」
「そう呼んで」
「分かり、ました」
すると、相川さんいや、玲音さんは私をやっとのこと解放してくれた。彼が私から離れた、その瞬間私は地面に崩れ落ちる。
「姫ちゃん、大丈夫?」
玲音さんはいつもの声に戻っていた。いや、そんなことよりも、私は緊張が一気にとけたことで体の力が抜けた。恥ずかしい。穴があったら入りたい……
「そんなによかったの?」
「!?」
「姫ちゃん、顔真っ赤よ。可愛いわ」
玲音さんはそう言いながら笑っている。もしかしてからかわれていた、と思いながら私の顔はますます熱くなっていく。きっとリンゴのように真っ赤だろう。
「姫ちゃん、そろそろ皆が起きてくる頃よ。お手入れ手伝ってくれる?」
「はい……」
「そんなに警戒しなくても。まあ、仕方ないわね! 姫ちゃん、お庭でのことは内緒ね」
玲音さんは口元に人差し指を立てた。さっきのことは人に言える訳がない。あの長く感じられた時間の出来事を思い出すだけで心臓が破裂しそうになる。ドキドキがばれないように玲音さんから離れたところでお手入れをした。
からかわれるのはかまわない、そう言ったものの、こんなことがあるなら正直、大変だ。これからずっと彼らと過ごしていくのに大丈夫なのだろうか、色々な意味で心配事が出来た朝だった。




