第12章 3:神秘の刻印、占い婆の予言 【そこか……! いっけぇぇぇ】
「キィィィィィアーーーーッッッッ!!!」
吹雪が吹き荒れる極寒の雪原に、地鳴りのような咆哮が響き渡った。
駆たちの前に立ちはだかったのは、全長9メートルを超える白亜紀初期の大型肉食恐竜――『アクロカントサウルス』の野生個体だった。
その背中には、ラクダのコブのように盛り上がった強靭な神経棘の帆があり、極寒の環境を生き抜くための肉厚な脂肪と、重戦車さながらの硬質な『特質骨殻』で全身が覆われている。
「デ、デカいのもふ! 南のティラノにも負けないくらいの迫力なのぎゃおーっ!」
駆の防寒フードの中で、パタがガタガタと震えながら叫んだ。
「みんな、気を引き締めなさい! あのアクロカントサウルスの背骨の装甲こそが、グラニトさんの言う最強の強化パーツの素材よ!」
ラーナが毛皮の手袋をはめた手でスパナを構え、白い息を吐きながら指示を飛ばす。
「おうよ! ティラノが動けねえ今、俺たちの混成部隊の本気を見せてやるぜ! ミカ、仕掛けるぞ!」
金髪のオールバックを雪風にさらしながら、バルト隊長がデイノニクスに跨がって突撃した。
混成部隊60頭が、雪の上を滑るように素早く散開し、アクロカントサウルスの足元をかく乱し始める。
しかし、北の大地を生き抜いてきた野生の王者のパワーは凄まじかった。
アクロカントサウルスが太い尾を一閃させると、積もった雪が津波のように舞い上がり、バルトたちのデイノニクスは視界を奪われてスリップを余儀なくされた。
さらに、凍てつく大顎がパキケ・ドリルの側面へ向かって容赦なく襲いかかる。
「くっ、雪に足をとられてドリルの照準が絞れない!」
操縦席のロッソが焦りの色を浮かべた、その瞬間。
「ロッソくん、慌てないで! あいつの骨の特性(弱点)はそこじゃない!」
雪原にしっかりと長靴を踏み締めた駆の目がギラリと輝き、天才スイッチが火を吹いてインカムに吼えた。
「アクロカントサウルスは背中に巨大な帆(神経棘)を持っている。あれはただの飾りじゃない、過酷な寒さに耐えるための強力な『背筋のサーボ(筋肉)』を支える支柱なんだ! だけどあの子は今、正面のバルトたちを威嚇するために首を激しく上下に振っている。
その制動の瞬間、背中の重すぎる帆の質量を支えきれず、『第7胸椎』の結合部に一瞬だけ強烈なねじれ過負荷がかかる! そこだ!」
駆の指し示した座標が、吹雪を突き抜けてロッソへと届く。
「そこか……! いっけぇぇぇ、パキケ・ドリル!!」
ロッソが手綱を全力で引き絞り、パキケファロサウルス型発掘重機が雪を蹴って跳躍した。
毎分3000回転のダイヤモンドドリルが、アクロカントサウルスの背中の装甲の隙間、露出した第7胸椎へと正確に突き立てられた。
――ガガガガガガガガガッッッ!!!
強烈な火花が純白の雪原を赤く染める。
駆の計算通り、首を振った反動の過負荷が集中していた背骨の結合部は、ドリルの衝撃に耐えきれず、バリバリと激しい音を立てて一時的にロック(機能停止)された。アクロカントサウルスは巨体を激しく震わせ、動きを完全に封じられた。
「ミカ、アンカーよ!」
「任せなさい!」
ミカのコンプ部隊が敵の自由を完全に奪っている数秒の間に、ラーナがグラニトから借りた特殊な骨殻切り出しアームを鮮やかに操作した。
パチン、と火花が散り、アクロカントサウルスの背中から、極寒の環境で鍛え上げられた最高純度の『特質骨殻』が見事に切り出された。
痛みを伴わない絶妙な外科カスタムにより、リミッターを持たない野生のアクロカントサウルスは、ふぅ、と静かに大きな鼻息を漏らすと、駆たちに敵意がないことを悟ったのか、そのまま雪原の奥へと悠然と去っていった。
「やった……やったのぱた! 特質骨殻をゲットしたのもふ!」
パタが駆の頭の上で万歳をして大喜びする。
「見事な骨捌きだったわ、駆、ロッソ!」
ラーナが切り出された漆黒の骨殻を大切に抱き抱え、琥珀色の瞳を輝かせた。
ドックの仲間たちの完璧な連携、そして駆の骨格分析により、ついにティラノを最強へと進化させるための至高の素材を手に入れた一同。
彼らは急いでグラニトの待つ工房へと引き返し、いよいよティラノサウルス解体機の「真の覚醒」へ向けて、さらなる錬金鋳造のプロセスへと進むのだった。
(第12章・完 / 第13章へ続く)




