第1章 1:骨格の設計図
たくさんの作品の中から見つけていただきありがとうございます。
本作、第1話から第16話の【約束のスパナ】までが、この物語の本当の「自己紹介」だと思っております。
バトルメインではない、様々な要素を詰め込んだつもりです。まずはそこまで、超古代の世界に触れていただけたら嬉しいです。
――KYORyu
ズゥゥゥゥン……!!!
大気が、そして大地が、根底からひっくり返るような凄まじい地鳴りが轟いた。
衝撃のあまり、僕は再び泥の中へと倒れ込む。
周囲の巨木がドミノ倒しのようにバリバリと音を立ててへし折れ、頭上の青空が急速に開けていく。
「な、なんだ!? 地震か……!? いや、違う!」
仰向けになり、恐怖に目を見開いて見上げた先――
空を完全に覆い尽くすほどの「強大な大質量」が、頭上からまっすぐに降ってきた。
それは、家一軒が丸ごと自由落下してくるかのような、絶望的な質量を誇る生き物の『足』だった。
「うわあああぁっ!」
本能が叫んだ。僕は泥まみれになりながら、なりふり構わず後方へと全力で飛び退いた。
――なぜ、30歳の考古学者である僕が、こんな白亜紀の地獄で恐竜の巨大な足に踏み潰されそうになっているのか。
時計の針が、狂ったように逆回転を始める。
すべての運命が過駆動を始めたのは、ほんの数日前、現代の国際学会の大講堂でのことだった。
「恐竜はただの生物じゃない――あれは、超古代文明の『生体重機』だ!」
世界中の高名な考古学者や古生物学者が集まる、由緒正しき学会の大講堂。
壇上に立つ僕――振動時駆のその叫びは、一瞬にして冷酷な沈黙へと、そして直後の嵐のような罵声へと変わっていった。
「馬鹿なことを言うな! 学会に対する侮辱だぞ!」
最前列に座る老教授が、激昂して机を激しく叩く。
「恐竜の骨格が、何かを吊り上げ、運ぶための構造計算がされているだと? 振動時! お前はただの、頭のイカれた変人の化石オタクだ!」
容赦のないヤジと冷笑が、大講堂の全全域を埋め尽くしていく。
僕の持論である「恐竜重機説」は、現代の科学にとってはただのSFの妄想、あるいは狂人の戯言でしかなかった。
どんなに僕が「骨の形を見れば、彼らがどう生きたか、どれほど強靭なメインフレームだったかがすべて分かる」と熱く語ろうとも、誰一人として僕の言葉を信じてくれる者はいなかったのだ。
結局、僕は学会を追われるようにして、エジプト、ギザの大地、発掘現場にいた。
「おい振動時、またお前か。いい加減にしろ!」
遮るもののない灼熱の太陽が、砂漠の砂粒ひとつひとつを焼き尽くさんばかりに照りつけている。
発掘現場の白いテントの影から飛び出してきた責任者の男が、額の汗を乱暴に拭いながら、泥まみれの背中に向かって怒声を浴びせた。
声の主が忌々しげに睨みつける先――遺跡の赤茶けた泥の中に、文字通り這いつくばっている振動時 駆がいた。
泥と砂埃にまみれた灰色の作業着。
無造作に伸ばされたボサボサの髪は、数日まともに鏡を見ていないことを物語っている。
本来であれば、誰もが思わず振り返るような端正な目鼻立ちと長い手足を持っている男なのだが、今の姿からはそんな色気は微塵も感じられない。
周囲の考古学者や作業員たちから付けられたあだ名は、「顔だけが良い冴えない変人」だった。
「……やっぱり、構造がおかしいんだ」
駆は責任者の怒鳴り声など全く耳に入っていない様子で、拡大鏡を片手に、ピンセットの先で化石の関節部分を愛おしそうになぞった。
ピンセットの先が、岩盤に埋まった巨大な大腿骨の表面をカリカリと鳴らす。
「振動時! 聞いているのか! お前は昨日からその化石の前に張り付いたままだ。全体の測量と地層のナンバリングの仕事はどうした!?」
「主任、これを見てください。この骨盤の傾斜、そして大腿骨の結合角度……。生物が『歩く』ための進化として、解剖学的に絶対にあり得ない構造をしているんです」
駆は立ち上がることすら面倒だというように、泥にまみれた顔だけを主任へと向けた。
その瞳だけが、獲物を狙う猛禽類のように異常な鋭さで輝いている。
これこそが、駆のプロの「天才スイッチ」が入った状態だった。
「何があり得ないだ。白亜紀の大型肉食恐竜だろ。図鑑の通りだ」
「違います。この強固な二重関節、そして背骨の突起に刻まれた、繊維状の付着痕……。これは生き物が自らの体重を支えて歩行するための身体じゃない。背後にある強大な自重を支えながら、前方の『超重量』を強引に抱え上げるための構造計算です。現代の油圧ショベルのロアフレーム(下部走行体)のシャーシと、全く同じ応力分散がされている。つまり――」
「はいはい、恐竜重機説ね。もう聞き飽きたよ」
主任は大きくため息をつき、大袈裟に両手を広げて周囲の作業員たちに目配せをした。
作業員たちから、クスクスと小馬鹿にしたような笑い声が漏れる。
「恐竜は超古代文明が造り上げた有機的な生体ロボットであり、化石はそのフレームに過ぎない……だったか? 」
「振動時、お前のその頭の良さを、どうしてそんな誇大妄想のSFごっこに使い潰すんだ。学会でお前の論文がどう笑われているか、知っているだろ。お前はもう化石のクリーニング室に引っ込んでろ!」
やれやれと首を振る主任。
駆の持論は、学会ではただの笑い草だった。
しかし、駆は周囲の嘲笑を浴びても、全く悔しそうな顔をしなかった。
ただ、目の前の骨が語りかけてくる完璧な力学の美しさに、ただ一人、恍惚とした表情を浮かべているだけだった。
その日の夕方。
作業員たちが冷えたビールを求めて早々と引き揚げた後、駆は一人、発掘テントの最奥にある臨時収容室の前にいた。
薄暗いランプの光に照らされているのは、今回の調査で最も「場違い」とされ、報告書からも除外された奇妙な出土品だった。
それは、エジプトの未踏の地層から出土した、材質不明の「金属製のリング」だ。
何万年もの間、泥の中に埋もれていたはずなのに、錆ひとつない鈍色の輝きを放っている。
現代のチタン合金をも凌ぐ硬度を持ち、放射性炭素年代測定すら不可能なオーパーツ。
駆はそのリングをそっと手に取り、ランプの光にかざした。
そして、自分の胸ポケットから、もう一つの「何か」を取り出す。
それは、彼が数年前に南米マチュピチュの遺跡を調査した際、現地の闇市で個人的に買い取った「全く同じ材質、同じ形状の金属リング」だった。
絶対に同じ文明であるはずがない、海を隔てて数万キロ離れた二つの孤立した遺跡。
そこから、全く同じオーパーツが出土している。
「なぜ、二つの世界に同じものが遺されているんだ……?」
駆は何かに導かれるように、右手に持ったエジプトのリングへ、左手の南米のリングをゆっくりと重ね合わせた。
サイズは、寸分の狂いもなく完璧に一致した。
二つのリングが完全に重なった、その瞬間――。
――カチリ。
静まり返ったテント内に、精密機械が噛み合うような、小さな、けれど硬質な音が響いた。
直後、鈍色だったリングの表面に、見たこともない幾何学的な青白い発光パターン(バイオパターン)が走り、周囲の空間がぐにゃりと万華鏡のように歪み始めた。
「な、なんだこれ……!? リングが、熱い……!?」
激しい金属質の耳鳴りが脳内を駆け抜け、強烈な目眩が駆を襲う。
重力が上下左右を見失い、テントの天井も砂漠の大地も、すべてが漆黒の渦の中に飲み込まれていく。
抗う術もなく、駆の意識は、暗転する世界の中へと真っ逆さまに引きずり込まれていった。
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なろうは、みてみんを通してるので画像荒目です。
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