第85話 灯りの魔道具
Side:ピュアンナ
あら、チルルがまた困った顔をしているわ。
課題が難しいのかしら。
「ピュアンナさーん、助けて」
「どうしたの?」
「灯りの魔道具を作れと言われたんだけど」
「作ったら良いと思うわ」
「それが、持続時間と明るさが指定されてて」
持続時間は溜石の大きさと導線の太さが関係する。
明るさは導線の太さね。
「もしかして計算ができない?」
「うん」
チルルは恥ずかしそうにうつむいて言った。
「勉強しなさい。悪いことは言わないから」
「足し算だって苦手なのに。掛け算とか割り算なんかできないよ」
「それができないと、課題が終わらないわよ」
「裏技教えて、何かあるんでしょ。受付嬢なら色々な話を聞いていると思うし」
「駄目よ」
チルルは銀貨をカウンターに置いた。
「情報料、魔道具ギルドでも情報は売るんでしょ」
「困ったわね。確かに売るけど、普通は核石の情報とかよ」
「売れないの?」
「規則だから売るけど、怒られても知らないわよ。全く困った規則ね。秘匿情報以外の魔道具に関する情報は全て売るだなんて」
「やった。早く教えて」
「魔道具屋に行って、灯りの魔道具の持続時間と明るさを聞いて、溜石と導線の大きさを量るのよ」
「どうやって? 俺に参考になる魔道具を買えってわけじゃないよね。そんな金はない」
「これよ」
私はノギスを出した。
これはシナグルから貰ったもの。
安い物だそうだけど、助かっているわ。
ノギスは球や円筒なんかの大きさを測るのに適している。
チルルに使い方を説明して貸してあげた。
「ありがとう」
そう言ってチルルは去っていった。
そして、数日後、べそをかいたチルルがやってきた。
分かるわよ。
カンニングがばれたのね。
そうなると思った。
魔道具屋を梯子して条件に合う魔道具を探したら、親方の耳に入るわよ。
しかも、買うならまだしも買わないんだから。
他の魔道具職人にひんしゅくを買っているに違いないわ。
「計算を教えてよ」
「その情報料は高いわよ。時間が掛かるからね。大人しく教本を読んで勉強しなさい」
「ああっ、もうっ」
「ノギスを返してね。頭を抱えていたって、計算はできないわよ」
「これありがとう。依頼を出したい。計算の魔道具を頼むだ」
ノギスをカウンターに置いてそんなことを言いだした。
楽をしようとするのは良くないわ。
「懲りないのね。お金はあるの?」
「大銀貨2枚までなら」
「シナグルぐらいしか、受けてくれなさそうね。でもシナグルは受けないと思うわ。手数料が勿体ないからやめておきなさい」
「ああっ、どうしたら」
「彼女に教えて貰ったら」
「彼女?」
「セイラよ」
「ナイスアイデア。セイラとも会う口実になるし、諦めないで続きそう。でも指南料が。大銀貨2枚で足りるかな」
「彼女ならきっと友達価格で教えてくれるわよ」
「そうだよね」
数日後、ニコニコ顔のチルルが現れた。
計算はきっと物にしてないわね。
でもセイラと毎日会えて幸せってことかしら。
「溜石の値付けを教えて。大きさと相場を書いた表があるはず」
「また楽をしようとして。大銀貨1枚よ」
「ありがとう」
やっぱり、数時間後、べそをかいたチルルが現れた。
「怒られた」
「それはそうなるわよ。カンニングは駄目よ。カンニングにならない裏技を教えるわ。溜石を秤で量るのよ」
「でも量った重さが金額じゃない」
「そこで目盛りを2種類付けた定規を作れば良いのよ。片方が重さで片方が金額のね」
「ええ、そんなの作れないよ」
「依頼を出しなさい。計算が分かる魔道具職人なら作れるわ」
「金がぁ」
「塩抜きの核石を売るのね。もっとも塩抜きじゃ需要は低いけど」
「作った核石のお金は、田舎に仕送りすることになっているんだ。親方がそうしろって。破ったら、たぶん破門だ」
「なら、なけなしの貯金を叩くのね」
チルルは早見定規の依頼を出して帰った。
その依頼をシナグルが見つけて手に取った。
「あなたがやらなくても」
「面白そうだったから」
シナグルは定規を作ってきた。
それと核石の大まかな相場が計算できる魔道具を。
魔道具の値段が金貨10枚って、ギルドからお金を取るつもりね。
便利だから、買うように上申するけど。
上司も買って良いと言ってくれた。
「定規を親方に取り上げられた」
「親方によっては許さないかもね」
「他の裏技ないの?」
「定規を自分で作るのね。それなら親方も文句は言わないはず」
「計算できないのに?」
「できなくったってできるわよ。端に目盛りを付ける。それを何等分するかを考えたら良いだけだから。同じ長さの定規だったら何時も同じになるわ。作り方を知りたかったら、情報料の銀貨1枚を払ってね」
「もしかして、足元見られてる?」
「見てないわ。他の人でも同じ金額ね」
「くっ」
チルルは定規の作り方を教わって帰った。
次の日、できた定規を見せて貰ったけど、目測で等分をやったのね。
正確ではないけど、まあこれぐらいの誤差なら許せる。
「作っている所を見せたら、笑われたけど許して貰った。親方も定規作ったけど、俺のより上手く作れてたよ。シナグル様のが一番だけど」
「それが職人の腕の差ね」
「精進するよ」
チルルの楽したい病はなかなか治らないわね。
いつか痛い目を見るのかしら。
その前にきっと親方がなんとかすると思う。
親方もチルルの欠点が分かっているから。




