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第28話 故郷の味

Side:シナグル・シングルキー

 ネティブという客が日本の10円玉を持ってきた。

 見間違えではない。

 何度も出しては眺める。

 少し古くなっているが、確かに10円玉だ。


 今の俺の力なら、日本への転移扉を作り出すことができる。

 だが、考えてみろ。

 現代製品と魔道具を比べてどっちが便利で安いか。


 魔道具は金貨1枚からだ。

 だいたい10万円てところだ。

 10万円しないで買える電化製品はたくさんある。


 この魔道具の文化がなくなってしまうのは許せない。

 文化侵略ならまだましだ。

 大国が日本を侵略して俺が作った扉から軍隊が来たら。


 その未来を考えただけで身震いがする。

 一度でも日本に帰るときっと俺は何度も帰りたくなってしまうだろう。


 転生した俺は異世界人だ。

 産んでくれた両親に感謝してる。

 そして、この街で知り合った色々な人達。

 その人達が俺が起こした災禍で苦しめられる未来など見たくない。


 異世界転移扉ではなくて異世界物々交換魔道具を作ろう。

 これなら迷惑も掛からないだろう。


 『Bartering with another world』これを歌にすると『あれと、それを、それを、それを♪それを、あれと♪それを、あれと、それを♪あれと♪それを♪それを、あれと、それを♪それを、それを♪あれと、それを♪あれと、あれと、それを♪。それを、あれと、あれと♪それを、それを♪あれと♪それを、それを、それを、それを♪。それを、あれと♪あれと、それを♪あれと、あれと、あれと♪あれと♪それを、それを、それを、それを♪それを♪それを、あれと、それを♪。それを、あれと、あれと♪あれと、あれと、あれと♪それを、あれと、それを♪それを、あれと、それを、それを♪あれと、それを、それを♪』だな。


 よし、核石を作って起動だ。

 これは物々交換の魔道具だから、とりあえずは銀貨で良いだろう。

 カレーよ出て来い。


 やったスーパーで売ってたカレーのルーだ。

 鍋に油を引いて、野菜を炒める。

 そして、煮込んでから、オーク肉を入れる。

 肉が堅くならないうちにルーを溶かす。

 工房はカレーの良い匂いで充満した。


「おお、えらく良い匂いだな」

「師匠、俺の故郷の料理なんだ」

「ほう、色はちょっと悪いがな」


 マイストが鍋を覗き込んでそう言った。


「はう、なんて良い香り」


 マギナがやってきた。


「食っていけよ」


 堅くなったパンをスライスして、カレーに浸して食べる。

 これだ。

 この味だよ。


 涙で前が見えない。


「シナグル、泣いているの?」

「故郷の料理らしいからな。懐かしいのだろう」

「そうなんだ。あまりに懐かしかったから。二人は俺に遠慮せずに食ってくれ。8人分作ったから、お替りしても余る」


 俺は何時でも食えるから、前世の味を噛みしめながら食べる。

 あとでポテチとコーラも飲み食いしよう。


 煙突から匂いが、街に広がったのだろう。

 近所の人が大挙して訪れた。

 一口ぐらいなら食べさせる量があったので、小皿に盛って配ったところ大盛況。


「もっと食わせろ!」

「一口では我慢できない!」

「これで終りじゃあんまりだ!」


「分かったよ、作ればいいんだろ」

「私にも鍋ひとつお願い。浮浪児達にも食べさせてあげたいから」


 マギナにも催促された。

 こりゃ、アイスとか、チョコなんか出せないな。

 俺は商人じゃなくて、魔道具職人なんだけどと言いたいが、そんなことを聞いてくれる雰囲気じゃない。

 異世界物々交換魔道具は危険だな。

 もっとも何を出したいか正確にイメージできるのは俺だけだけど。


 金貨でルーを段ボール箱ひと箱出したが、料理するのはめんどくさい。

 ルーの包装のプラスチックと印刷された紙は不味いな。

 ルーを取り出して。

 ゴミを消去しよう。


 『Erase trash』から変換した『シュ♪シュ、ぽいっ、シュ♪シュ、ぽいっ♪シュ、シュ、シュ♪シュ♪。ぽいっ♪シュ、ぽいっ、シュ♪シュ、ぽいっ♪シュ、シュ、シュ♪シュ、シュ、シュ、シュ♪』のこの歌で魔道具を作る。

 よし、異世界の痕跡のゴミは消え去った。


 ルーを布袋に入れる。


「カレーの素を持ってきた。家に帰って各自で料理してくれ」


「くんくん、さっきの料理の匂いがする」

「作り方は簡単だ。油引いてとかやらなくてもいいな。野菜とか肉とかを一緒に煮込めば良い」

「具材は何でもいいのか?」

「おう、魚介類でも何でも良い。とにかく自分好みでやってくれ。ルーひと欠片4人分だ。だいたい水と具材の量は分かるだろ」


 アバウトだが、別に良いだろ。

 薄くてもドロッとしてても、それはそれで美味いから。


「たくさん本は読んでいるけど、この料理の文献はないわね」


 マギナからの鋭い突っ込み。


「俺の心の故郷の料理だ」

「心の故郷?」

「心の奥底にある俺だけの故郷だ」

「それって、あなたが創作したってこと?」

「そこは心の故郷の人達が昔考えたと言っておこう」

「不思議な話ね。まるで想像した世界が実在するみたい。あなたって不思議」


 ソルも妹弟をぞろぞろ引き連れてやってきた。


「こりゃ美味そうな匂いだな。シナグルが作ったのか」

「まあな。この料理の素を配るから帰ってから作れよ」

「おう、12人分ぐらい頼む」


「絶対に足りないと言っておこう、倍の24人分にしとけ」

「おう、悪いな」


 カレー屋になってしまった。

 今日はただだけど、次からはお金を取ろう。

 ルーひと欠片4人分で銀貨1枚ぐらいでいいな。


 カレー屋は副業にしよう。

 これぐらいなら目立たないに違いない。

 さすがにチョコとかは出すつもりはない。

 アイスは冷やす魔道具を作ればこちらでも再現できるだろう。

 アイス製造機はそのうち作ろう。


 あー、軽率だったかな。

 でもカレーは物凄く食いたかったんだ。


 カレーのルーぐらいなら別に良いと思う。

 出しても問題ないものがあったら、あとで売ってみよう。


 各家からカレーの匂いが漂ってくる。

 前世で家のそばまで来て、カレーの匂いがすると、やったカレーだと早足になったものだ。

 懐かしい。

 いつの間にかまた泣いていた。

 前世の記憶は反則だ。

 これを持ち出されると、涙が止まらない。

 持ち出したのは俺だけど。

 もとはと言えば、ネティブが故郷が懐かしくて堪らないと言ったからだ。

 だからカレーを連想してしまった。

 あいつのせいだ、ありがとう。


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