68話
朝から結局、三人で二度寝した。
次に目が覚めた時には、もう昼前だった。
「……何時?」
「11時くらいだね」
「寝すぎたな」
体を起こそうとして——止まる。
「……まだいるのか」
「いるよ」
右側には響。左側には秋山。
しかも、起きてるのに二人とも離れようとしない。
「流石にもう起きるぞ」
「……うん」
「分かったよ」
そう言いながらも、二人ともゆっくり離れる。
特に響は、名残惜しそうに手を離した。
「……」
その一瞬の表情が、ちょっとだけ気になった。
昼飯を軽く食べて、だらだらしていた時。
ふと、思った。
「コンビニ行ってくるわ」
「「……え?」」
空気が一瞬止まった。
「飲み物ないし」
「僕も行こうか?」
「いや、すぐ帰るし一人でいいよ」
「……」
響が何も言わない。
ただ——じっとこっちを見ている。
「……すぐ戻るから」
「……うん」
少し遅れて、小さく返事が返ってきた。
玄関で靴を履く。
「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
「……いってらっしゃい」
ドアを開けて外に出る。
——その瞬間。ガチャ
「……え?」
後ろから、ドアが開く音。
振り向くと——
「……私も行く」
響が立っていた。
「いや、すぐそこだぞ?」
「……うん」
「なら家で待ってても良くないか?」
「……やだ」
即答だった。
「なんでだよ」
「……一人で待つの、やだ」
少し俯きながら言う。
「……」
昨日の夢、引きずってるなこれ。
「秋山は?」
「僕は行かないよ」
後ろから声がする。
「二人で行ってきなよ」
「……いいのか?」
「うん」
秋山は、少し笑っていた。
その顔は、なんとなく分かってる感じだった。
結局。
「……手」
「ん?」
「……繋いで」
「外だぞ?」
「……だめ?」
「……」
断る理由もない。
「ほら」
手を差し出すと——ぎゅっ
いつもより強く握られた。
「……強くないか?」
「……離れたくない」
やっぱりか。
コンビニまでの道。
普段なら数分で着く距離なのに、今日はやけに静かだった。
「……」
「……」
「……響」
「……なに?」
「そんなに不安か?」
少し間があってから——
「……うん」
正直な答えだった。
「……東海林さんが、いなくなる夢……まだ残ってる」
「現実ではいなくならないって」
「……分かってるけど……」
握る手に、さらに力が入る。
「……分かってても、怖い」
「……」
少し考えてから、俺は言った。
「じゃあさ」
「……?」
「いなくならない証明、いるか?」
「……?」
「こうやって外にも一緒に来てるし」
「……うん」
「帰った後も一緒にいるし」
「……うん」
「当分、どっか行く予定もない」
「……うん」
「それでも不安か?」
少しだけ顔を上げて、こっちを見る。
「……ちょっとだけ」
「ゼロにはならないか」
「……うん」
「まぁいいよ、それで」
「……いいの?」
「その代わり、少しずつ慣れてけ」
「……」
少し考えてから——
「……頑張る」
「無理しなくていいけどな」
「……でも……」
「?」
「……一人で待てるようになりたい」
それは、ちゃんと前を見てる言葉だった。
「なら、今度は家で待つ練習するか」
「……うん」
「今日は一緒でいいよ」
「……ありがとう」
少しだけ、力が弱まった。
コンビニからの帰り道。
「……東海林さん」
「ん?」
「……さっきより、怖くない」
「そりゃ良かった」
「……でも」
「ん?」
「……やっぱり、隣にいてほしい」
「それはもう分かってる」
「……うん」
小さく笑った。
その表情は、少しだけ昨日より軽くなっていた。
家に戻ると。
「おかえり」
秋山がソファで寝転がりながら言う。
「ただいま」
「……ただいま」
響は、まだ手を離していなかった。
「……まだ繋いでるのかい?」
「……うん」
「いいね、それ」
「お前は何を言ってるんだ」
「僕も今度やる」
「やらなくていい」
「やるよ」
「やるな」
「やるね」
「やめろ」
「……ふふ」
珍しく、響が少し笑った。
その日一日。
結局、響はずっと近くにいた。
でも——前みたいなただ不安で離れないじゃなくて、少しだけ安心しながら隣にいる感じに変わっていた。
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