54話
夜。
部屋の電気は消えている。
布団は三枚敷いてあるけど、意味はあまりない。
真ん中に俺。左に響。右に秋山。
そして――二人とも抱きついて寝ている。
響は胸に顔を埋めるようにして腕を回している。
秋山は俺の腕を抱えるみたいにして手を握っている。
いつもの寝方。
静かな夜。
しばらくして小さな声が聞こえた。
「……やだ」
響だった。
最初は寝言みたいだった。
「……東海林さん」
少し苦しそうな声。
「……まって」
腕の力が強くなる。でもまだ起きてない。
「……行かないで」
声が震える。
そのまま。
「……やだ……」
次の瞬間。
響がガバッと体を起こす。
「東海林さん!!」
部屋に大きな声が響く。
俺が目を覚ます。
「……何」
隣で秋山も起きる。
「どうしたの?」
響は座ったまま、息が荒い。
暗い部屋の中でも分かるくらい震えていた。
「……東海林さん」
俺を見る。そして次の瞬間。
また抱きついてくる。
今までより強く。
ぎゅっと。
「……いた」
「いる」
響の声が震えている。
「……いた」
秋山が少し体を起こす。
「響君?」
響は俺の服を掴んだまま。
「……いなくなった」
「何が」
「……東海林さん」
少し沈黙。
秋山が優しく聞く。
「夢?」
響は小さく頷く。
「……うん」
呼吸がまだ荒い。
俺が言う。
「どんな」
響は少し黙る。
それから小さい声で言う。
「……朝起きたら」
「うん」
「……東海林さんいなかった」
手の力がまた強くなる。
「……探した」
「うん」
「……家いない」
声が震える。
「……学校もいない」
秋山が静かに聞く。
「それで?」
響は顔を俺の胸に埋める。
「……どこにもいない」
少し沈黙。
「……電話も出ない」
呼吸が乱れる。
「……ずっと探した」
「……でも」
そこで声が詰まる。
「……もう会えないって」
涙の声になる。
「……思った」
ぽた。胸に何か落ちる。
泣いていた。
秋山が少し驚いた声を出す。
「そんな夢見たの?」
響は小さく頷く。
「……怖かった」
「夢だよ」
「……分かってる」
でも腕は離さない。
むしろさっきより強く抱きつく。
「……ほんとにいる?」
俺が言う。
「いる」
「……消えない?」
「消えない」
響は少し顔を上げる。
暗い中で俺を見ている。
「……ほんと?」
「ほんと」
響は数秒見て。また胸に顔を埋める。
「……よかった」
秋山が小さく笑う。でも少し優しい声。
「響君そんな夢見るんだ」
響は小さく言う。
「……怖かった」
秋山が聞く。
「そんなに?」
響は少し間を空けて言う。
「……私」
「うん」
「……東海林さんいないと」
少し言葉を探す。
「……だめ」
秋山が少し黙る。それから言う。
「重いね」
響は小さく言う。
「……知ってる」
そして腕をぎゅっと締める。
「……だから」
俺の服を掴む。
「……離さない」
秋山が少し体を寄せる。
「僕もいるよ」
響が小さく言う。
「……知ってる」
秋山は笑う。
「僕もいなくなったら?」
響は少し考える。
「……探す」
「僕も?」
「……うん」
秋山が小さく笑う。
「安心した」
部屋はまた静かになる。
響の呼吸が少しずつ落ち着いてくる。
でも腕は離れない。
むしろさっきより強く抱きついている。
「……東海林さん」
「何」
「……もう行かない?」
「寝てるだけだ」
「……うん」
小さく頷く。秋山が言う。
「響君」
「……なに」
「もう大丈夫?」
響は少し考えて。
「……うん」
それから。
「……でも」
「うん」
「……このまま」
俺にくっつく。
「……寝る」
秋山が笑う。
「僕も」
秋山もまた腕に抱きつく。
右と左。
また同じ形。俺は真ん中。
響が小さく言う。
「……東海林さん」
「何」
「……好き」
秋山が言う。
「僕も」
俺は天井を見る。
「寝ろ」
響が小さく笑う。
「……うん」
それからしばらくして響の呼吸がゆっくりになる。
完全に眠ったでも腕は離れてない。
秋山も少しして寝息を立て始める。
部屋はまた静かな夜に戻る。
右と左から抱きつかれたまま。
三人でそのまま朝まで眠り続けた。
もし「面白かった」「続き読みたい」と思ってもらえたら、ブックマークや評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)してもらえるとめちゃくちゃ嬉しいです!次の更新のやる気になります。




