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第26話 海回(水着抜き)


 無駄に騒ぎたてる連中が市民権を得るのは盛夏ど真ん中の教室内。

 例のごとくその渦中の隅で無を嗜んでいる藤崎だったが、喧騒に見向きもせず、彼女の元へ走ってくるキラキラオーラがあった。


「藤崎ちゃん! 夏休み、予定ぁぃてたりする!?」

「……まっ!!?!!?! 松ぅ……や、山さん…………!?」


 ダンッと机を叩き、藤崎へと詰めよってきたのは松山聖良。

 そのジャンプスケアに藤崎は、目を見開いて体をくねらせ阿波踊り式ハンズアップを披露する羽目になる。


 現在7月の20日、終業式。

 3年生にとっては最後の夏休みということもあり、みなソワソワで充満しているのだ。


「藤崎ちゃんも受験でしょ? 夏期講習ゃらなにゃらの合間にさ、こぅ……息抜きみたぃなの! したぃなって思って!」

「あ、う……、でも私、ナイトなクラブで踊り狂うみたいなのは、ちょっとぉ……」


 遠回しな偏見を感じる陽キャ像。


「違ぅの、違ぅの! ぁたしのグループと遊ぶんじゃなくて、天文部のみんなで遊ぼぅと思ってんの!」

「……!」


 食い下がる松山の提案に、藤崎は上目遣いで目を見開いた。

 垂らされた釣り糸にまんまとかかったことにも気づいておらず、松山はニヤリ頬を緩ませる。

 そう、彼女は前日、炭木と念密な計画を企てていた。

 誘い方、人数調整、断られた時の対処まで、藤崎の傾向をもとにした対策がすでになされているのだ。


 なお、明日は終業式だし夜更かししてもいっか、のノリで深夜2時までぶっ通し5時間の作戦会議をしていたため、校長のありがたいお話は睡眠学習の糧となった。

 炭木との夜通話の時間を没収させられた藤崎は、昨夜枕を濡らすことにもなった。


「そ、それならいきたい……」

「ぅん、ぅん!! ぁとねぇ、遊ぶ場所もぁたしがょくぃくとこじゃなくて、藤崎ちゃんがぃきそぅなとこを選んだのょ」

「へ、へー……。ど、どこ?」


 その疑問に松山は、早々と一枚の紙を取り出し、眼前で広げた。

 その紙に記されていたのは、青い海岸、白い雲、麦わら帽子…………そして黒色の砂浜。




「そう、潮干狩り」


「遠回しな偏見を感じる」



 ━━第26話 海回(水着抜き)━━



「海だぁー!」


 などと4人で横並び、青春アニメのようなフリを効かせたところで砂浜は濁ったコーヒー色。

 海水浴シーズンなんだから泳ぎにいけばいいのに、なんてマジレスは野暮である。


「ちなみに潮干狩りシーズンは3月から6月までだけど、夏場でも開催している場所は普通にあるから、なにもおかしなことはないわよ」

「なにに気を遣っているんです?」


 なんも調べずに書き始めたからこれ知ったとき冷や汗かいたんだよね。

 ちなみに作中はいま8月だよ。


 閑話休題、片岡が率先して入場料を払いにいったもので、まとめ役を失った3人は誰一人口を開けずにいた。

 このメンバーの間を取り持つとすれば炭木になるのであろうが、藤崎と話そうものなら松山を放置することになり、その逆もしかり。

 せっかくのプライベートで居心地を悪くするなど、炭木的には許されないことだったのだろう。

 彼の胃だけがキリキリと動いている。


 だがそんな中、空気を読まずに耳打ちしてくる者がひとり。


「ししょーししょー、藤崎ちゃんポツンとしてるょ。チャンスじゃなぃ? どんな話すればぃぃかな」

「松山さん……。そうですね……っていっても俺も藤崎さんと学校以外で会うの初めてなんですよね」

「ぇ! そぅなの!? もったぃなぁ」


「ただ、いつもと違うということは、それだけ会話の糸口が多いということでもありますから。無難に服装の話題とかから攻めていくのがいいかと」


 かなり簡素な提案だったが、松山は意を結したように頷いた。

 仲良さげなふたりを物欲しそうに眺めていた藤崎へと顔を向ける。


「ふ、藤崎ちゃん! ぃま、ぃぃ?」

「え!? あっ、う、うん……」

「藤崎ちゃん……今日の────」



「みんなー! 道具のレンタル借りてきたわよ」



 見計らったように遮ったのは笑顔の片岡。

 ボロい熊手とおもちゃのようなバケツ、小さなスコップを4セット携えている。


「はいこれ、藤崎ちゃんの分」

「お、おお、あんがと。……でゅ、でゅえぇ……松山さん、いまなんて……?」


「ぁっ、ぅん! 藤崎ちゃんのいまの格好、似合ってるねっ! って!」


「え?」


 上から順に──。


 麦わら帽子。

 白Tシャツ。

 ショートデニム。

 ピンクの長靴。


 そしてカラフルなおもちゃのバケツと小さなスコップを片手に持つ、身長140センチのロリボディ。



「うん……似合ってるわね」

「めっちゃ似合ってますね」

「すごっぃ似合ってる」


「バカにすんなや」



 ………………

 …………



「時間制限もありますし早くいきましょ、いきましょ」

「ぉ、ぉー!」


 ヘタに主導権は渡すまいと炭木がグダグダな仕切りを始めた。

 慣れないことをしているので動きも発言もかなりギクシャクしている。

 なんとはなしに遠くの方を指差して「とりあえずあそこに集まりましょうか」などと、理由も乏しいまま目的地を選定してしまった。


 しかし、その様子をみていた片岡。

 援護のつもりか、艶かしく瞳を細めながら進言する。


「じゃあ効率よくするために、ふたり1組で分れましょうか」


「「え!?」」


 松山と炭木の驚愕が綺麗にハモった。

 たしかに片岡のいう通り、いまの時期ではシーズンからもズレており、大漁とはいきにくい。

 2時間という制約のなか捕獲量制限8キロを目指すには、四人で同じ砂浜をほじっていても効率は悪いだろう。


 だが、ふたりの目的はアサリなどではない。

 慌てふためきチラチラ視線をくべてくる松山に対して、炭木は冷静さを保ったまま挙手をした。


「たしか、松山さんがブルーシートとか折り畳み椅子とか持ってきてくれてるんですよね? じゃあ体力的に難のあるひとと組むのがいいんじゃないですか」

「……!!」


 炭木、ナイスフォローのファインプレー。

 元運動部、生徒会、ギャルの3人に比べたら、陰キャオタクの体力なんて屁にもならない。

 選ばれるのは藤崎だろう。

 松山も首をかくんかくんと縦にふる。


「うーん……そうね、そうしましょうか。じゃあ松山さん、よろしくね」


「「……!!?」」


 だがまたも予想外。

 松山へと歩みを寄せたのはまさかの片岡。

 予期せぬ行動に師匠もたじろぐのみ。


「ごめんね藤崎ちゃん。昨日、生徒会の用事があってお疲れなのよ」

「お、おおん。ま、私は別に……。最悪こいつのクーラーボックス椅子がわりにすりゃいいし。てか名指しやめろや」


 考えられる限りもっとも最悪な展開といえよう。

 収監時間は2時間、その間とくに仲がいいわけでもない、なんなら普段は冷笑気味に接していた異性と共にすごすのはまあまあの地獄。

 助け舟をと炭木に目力強い視線を送るが、返ってくる反応は軽い苦笑いのみ。

 打つ手はなしか。


 そんな絶望の果てに落ちた松山へと、なぜか遠慮なく顔を近づけていく片岡。

 ふたりには死角となる角度へ回り、ボソッと耳元で囁いた。


「松山さん」

「……? なに?」



「ふふ、残念でした」



「……!?」


 松山は、その妖艶なまでの微笑みに覚えがあった。

 それは、仲間内で誰かしらをバカにする時、槍玉に上げた標的へとむける表情。


 それとまったく同じ。

 松山はいま、鏡越しの自分をみているのだ。


「2年と3ヶ月前の始業式、1年生合同レクリエーションのこと、覚えてる?」

「え、レクリエーション……」


「あなたは覚えていないかもしれないし、藤崎ちゃんも覚えていないかもしれない。でも、私は忘れないから」


「……っ?」


 片岡の眼差しは敵意のような、それでいて懐柔でもしているかのような、不思議な眼力があった。

 生徒会の仕事があってもなおついてきたのは、松山を藤崎の敵だと認識しているからなのだろう。

 溢れる母性は過保護がすぎる。

 なお、ことの経緯については番外編参照である。


 感情という感情をかき混ぜられた松山など気にも止めず、2対2に分かれるや否や、片岡ははたと思い出したよう、クルリ炭木方向に振り返った。


「あとそうだ。……炭木くん」

「……? なんすか」



 グッ!(小さくガッツポーズ)


 キラッ!(片目ウインク)


 チュッ、チュッ!(口を窄める)



「いやほんとになんだ」



 ………………

 …………



「じゃあ、いきましょうか」

「ぅぇぇーぃ……」


 師匠が諦めたなら心中するのが弟子の務め。

 ため息を隠そうともせず、ぶっきらぼうに片岡の後ろをついていく。

 その歩幅にアサリを狩るやる気は感じられない。


「片岡さぁ、2年も前のことなんしょ? そんな邪魔せんでもぃぃじゃんか」

「ダーメ。私はあなたを信用してないの」

「ぇ〜……」


 ダラけた声に聞こえないフリをした片岡は、周りに客も少ないひらけた場所で立ち止まった。


「ひとも少ないしこの辺りでいいかしら? よーし、いっぱいとるわよー」

「ぁ、まって片岡。もぅちょぃぁっちのほぅがぃぃかも」

「……え?」


「潮干狩りってぃっちゃぇば早ぃ者勝ちだから、ひらけてるけどボコボコな場所はもぅとり尽くされてると思ぅ」

「なるほど?」

「ほらあそこ、目立たないとこに中州あるでしょ? ぁぁぃぅとこが狙ぃ目なゎけょ」


「ちょ、ちょっと!」


 海水へと躊躇なく踏みこんでいく松山の後ろを今度は片岡が追いかける。

 立場逆転である。


「この辺かな。じゃ、しゃがんで」

「は、はい」

「掘るのは波打ち際ね。ここを熊手で軽くかぃてぃく。そしたら次第に波がきて海水で浸るから……」

「あら、アサリ」


「ァサリは砂ょりも軽ぃから浮ぃてくるのょ。大体10センチくらぃまで掘ったら次ぃってを繰り返す感じかなぁ」

「へー、詳しいわね。経験者?」

「ふふん。昨日ネットで調べただけの知識なんで失敗したら恥かぃてました!」

「なによそれ」


 失笑を漏らしつつも、片岡は松山の正面を陣取った。

 見よう見真似で海水へと手をいれる。


「ぁっ! 待って!」

「ん? 今度はなによ」

「はぃ軍手。石とか触ったら怪我しちゃうかもだし」


「あ、ありがと……。………………」

「……? なーにー?」

「その、松山さんって案外しっかりしてるのね。なんだかちょっと自己嫌悪だわ」

「ぁー……、まぁ最近ね、ししょ……炭木くんに怒られちゃったから」


 どこかしら切なさの帯びる表情をみせた松山は、ポツリポツリと話しを始めた。


「ちょっと前までのぁたしはさ、みぇてる世界が狭かったのょ。気のぁぅ仲間内でしかっるんでなかったし。まぁ、自分勝手だったなぁって思ぅ」

「…………」

「そしたらさ、藤崎ちゃんと仲ょくなろうとした時、話す内容がなーんもなかったの。少女漫画しか読んでなぃひとにジャンプの話ししても通じなぃーみたぃな。そんな感じ」


「それで怒られちゃったんだ」

「そぅそぅ。ぁんたのゃってることは身内ネタと変ゎんなぃぃ!! とかぃゎれて。で、ぃま頑張って直してるとこ」

「ふふ、炭木くんらしいわね」


 喋りながらも手は止めず、カリカリと砂を掘る。

 視線を下げて互いの顔はみえていないからこそ、本音の話ができているのだろう。


「私もね、似たようなコンプレックスがあるんだけど、あなたとは正反対のものかしら」

「ほぅほぅ」

「ほら、私ってこんなじゃない。だから初対面の相手だと好奇の目でみられることも多くあるのよ」

「ぁー……はは、そぅねぇ……」


 張本人を前に片岡も悪い顔をむける。

 攻撃的な自虐だとわかった上での発言なのだ。


「だからね、私にとって藤崎ちゃんは特別なの。尊くて、偽善のいらない、大切な存在。なんなら私、最初の頃は炭木くんにも強く当たってたのよ」

「ぇ……!? マジぃ?」

「だってぇ、あんな小動物みたいな子が筋骨隆々な男の子を連れてきたのよ? そりゃあ警戒もするわ。結局、炭木くんがいい子すぎて取り越し苦労だったんだけどね」


「ぁはは……。でもたしかに、なんかぁたしたち似た者同士だねぇ」

「そうねぇ。ごめんね、ちょっと躍起になってたかも」

「ぅぅん。ぁたしも」


 へにゃっとした声が互いに交わったと同時、採ったアサリをバケツにいれるタイミングが一致して、ふたりは目を見合わせた。

 今しがたまで本音をぶつけてきたふたりの目。


「…………」

「……」


「……松山さんってさ、パフェとか食べれる?」

「ぇ?」


「潮干狩り、企画してくれたの松山さんなんでしょ? 帰りに喫茶店とかよってお茶しましょ。奢るわよ」

「ゃた! ゎーぃっ! 愛してるょ片岡ぁ」

「もー、現金!」


 すでに2年という歳月を共にしていたふたりだが、立場が変わるだけでこんなにも見方が変わるのだ。

 それだけ藤崎と炭木には、ひとを惹きつけるためのなにかをもっていたのだろう。


 松山は若干の喪失感を残しつつも、まぁこれはこれで、と体を揺らす。

 険悪なムードはもうこの場にはない。

 互いに顔を見合わせ、なんとも和やかな笑みをこぼすのだった────。









 ──そしてここからはあまりみなくてもいい藤崎・炭木サイド。



「なあ、炭木よ」

「はい? どうしました」

「あのさ…………、いや、別に……聞かなかったことにしてもらってもいいん、だけどさぁ……」

「はぁ……。いいですよ、いってください」



「貝合わせ……って、言葉あんじゃん」

「…………………………はい」




「貝合わせが百合セックスだとして、肝心の貝がマテ貝だったら、それはもうチンコのムシキングだよな」


「聞かなかったことにしていいですか」




「なんでだよっ!!! せっかく話題ふってやったのにっっ!!!!!」

「やったのにって……その話題でキャッチボールなんてできないでしょ」



「できるよっ! マテ貝は勃起したクリ○リスの可能性もあるよねとかっ! 貝が女性器ならシャコガイはキラーセックスだよねとか!!」



「そもそも! 貝合わせはニュアンス的にアワビ限定なんですよっっ!!!!」


 終われ。


 (番外編いれて)3話連続でいい話オチみたいになってしまった。

 次はもっとカスになりたい。

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