第15話 乳首当てゲーム
「今日はゲームをします!!!」
「は?」
高々と、そして微々たる震えをもったその声は、前振りなどまったくない、突如として発された声明であった。
まぁ、いつもの気狂いムーブメントであるため、炭木もなんら慌てる様子もなく、落ち着いた口調で対応する。
「で、なにやるんですか」
「ふ、ふ、ふ……。今日はあるブツを仕入れてきたのである」
「はぁ……」
藤崎は天高らかに拳を突き上げ、その存在を証明せんとする。
この、ちょっと面倒臭いなぁ、という空気感を、払拭する術が彼女にあるのだろうか。
「そう、赤とか青の指定されたとこに手を当てたりするゲームをしますっっ!!!!!」
「ええっ!? あの、赤とか青の指定されたとこに手を当てたりするゲームですか!??」
だが炭木、謎のテンションで応対する。
「それってあれですよね! 合コンとかでやる、接触を誘発する目的だけのアナログゲーム!」
「そうじゃぁ!!」
「昨今、名前がヴォル○モート化した、あのゲーム!」
「そうっ、じゃぁあ!!」
「ええー、俺1回やってみたかったんですよ。早くやりましょ、やりましょ」
「おう、じゃあお前からだぞ。指示した場所ちゃんと触れよ」
「はいはい」
「………………」
「…………」
だが、そのやりとりには一種の違和感があった。
炭木も返事はしつつ、なんとなく違和感の察知をしていたであろう。
そうこの女、準備らしい準備をなにもしていないのである。
色を指定するルーレットはおろか、色とりどりな斑点模様が記された巨大なマットさえも、あたり一面、見当たらない。
そして、1番の違和感と呼ぶべきか、むしろ平常運転と呼んでいいのか。
炭木の目の前には、頭の後ろに両手を置き、虚無の胸をつきだす、藤崎の姿。
その表情は、すべての行動を炭木に委ねているかのような、ゲーム内容すらも放棄している穏やかな顔であった。
「…………あの、藤崎さん」
「んぁ」
「これ、なんの時間ですか……?」
「なにって……お前が触らんと始まんねぇだろ」
「えーと、これ、そもそもあのゲームですよね? ツイス────」
「あ? なにいってんだ。乳首当てゲームにきまってんだろ!!」
「優良誤認も甚だしいぜ」
━━第15話 乳首当てゲーム━━
「この際、乳首当てゲームでいいんですけど、説明あれであってますか?」
↓これ
(赤とか青の指定されたとこに手を当てたりするゲーム)
「赤は最悪いいとして、青色なんて乳首にないでしょ」
「え、私の今日のブラの色、青」
「アリバイ後出しすんなよ」
腕を上げたことによって、脇下のムワッとした臭いが微かに広がるが、藤崎に羞恥心はカケラも感じられない。
そして炭木からも羞恥心はまったく感じない。
むしろ、同情のような憂いた瞳である。
「ていうかこれ、9割くらい藤崎さんが損する遊びですけど、いいんですか? その……プライドみたいな」
「あ、え、なにが?」
「無自覚なんだ」
「はっは〜ん! さてはお前、緊張しいか。おなごのパイパイなんざ恥ずくて触れませんってか。ふぅぅーっwwww」
「あ?」
炭木、静かに血管が切れた。
「やーやー、ただのスキンシップに欲情するたぁ、童貞拗らせちゃってからに。ちなみにルール上、当たるまで続けるからなぁ〜! まっ、そもそもおっぱい触れないなら、お前の不戦敗だけどなぁ────」
────ドスッッッ!!!!
と、弾丸に頭部をえぐられたかのような、鈍い効果音がなった同時、刹那の出来事だろうか、気がつけば、そりたつ2指は胸の急所をついていた。
先端から排出される白い煙が、火薬のにおいをもまとっている。
「……ふッ……ふぇぇ???」
口ぱかー。
ヨダレ、たらー。
目ん玉ぁくるくるー。
「お゛…………? おおぉ……?? ちか、チァ……ツォ、ォ」
グリュゥゥウ……、と乳首を指圧でねじり潰す時にしか聞かないような音が、藤崎の骨格伝いに鳴り響く。
眼球は上をむき、もう2/3は白目であった。
「ぉお゛ほ……ごごごぉぉ……」
「……あの、藤崎さん」
「あぇ…………? あ゛ぁ?」
「これどうすれば終わりなんですか」
ぐりゅぐりゅ。
「ぉお゛、ちょ……まっ…………あ゛」
ずぶぶぅ……ゴリッ。
「ざぁ゛ッッ、づょお……と、ま゛っでぇ……」
「え、なんて?」
グリュゥ、グリぃぃい。
「づよぉお゛…………ぢがらぁ゛……ぁあ゛」
ぐりゃりゃぁあ、りゅみゅぅう。
「ま…………ぁああ゛……──」
────スパーンッッ!!!!
と、肉と肉を叩きつけたかのような、ひりつく音が響いたと同時、小さな平手は炭木の頬へと振り抜かれていた。
勢いのまま2指が胸から離れた炭木へと、溜まりに溜まったフラストレーションが、いま、解放される。
「……二プル○ァックはっ!! フィクションだよっっっ!!!!!」
………………
…………
「もってかれたおもたぁぁ!! もってかれたおもたぁぁぁあ!!!!」
襟を伸ばして、直にお乳を確認しながら喚声をあげる藤崎を、理不尽にもたんこぶをふたつ重ねるはめになった炭木が傍観する。
炭木視点、かなり納得のいきがたい暴行を受けたわけではあるが、この嗚咽を聞かされた以上、毒気も抜かれるというもの。
「あの……藤崎さん、一個いいですか」
「あ゛っ!!? なんじゃボケェ!!」
「結局、正解だったんですか?」
「…………」
藤崎、突然の静止。
「下着越しだったんで、よくわからなくて」
「……………………」
「あの……」
「………………、……当たってない」
「え」
「当たってない、わよ? ま、まままぁ……下手くそよな、お前。うん、うん……ね! ちょっと当たったかのような演技もかましてあげたけども、しょ、しょせんはお前もその程度の男っていうか……うん、ね! うん……」
藤崎は嘘をついた。
突かれたのは間違いなく乳首ど真ん中。
あのまま炭木に身を委ねていたら、第一関節までめりこんでいたであろう。
だが藤崎は認めなかった。
そう、認めたと同時、プライドが傷つけられてしまうからだ。
事前にされていた心配が骨身に染みることに、なんらかの羞恥が働いてしまう、小5程度の自尊心。
この女、陰キャとかコミュ障とかおいといて、ただただ人間として未熟なのである。
しかしこの状況、認めようが認めまいが、彼女が不利なことに変わりはない。
藤崎は平然と強がるが、そんなものも束の間なのだ。
いま一度、思い返してみてほしい。
藤崎が提案したルールのひとつを……。
「まぁ、惜しかったっちゃ惜しかったですけどぉ〜、終わってみりゃあ私の勝ちっつーわけよ」
「あ、そうなんすか」
「うんそう……そう……、お前の負け、……うん」
「じゃあもう一回ですね。当たるまで続けるんですし」
「……………………ひゅっっ……!!!!!!!」
振り返るも、背後に藤崎の姿はもうなかった。
開け放しになった部室の出入り口から、草木の香りをつれたそよ風がはいってきて、夏の訪れを感じさせるのみ。
藤崎は逃げたのだ。
遠く、遠く、夕陽にむかって走りだしたのだ。
あの悪魔にだけは、バレてはいけない。
決して……決して……────。
「もがれてまう…………! これ以上は乳首、もがれてまうっ…………!!」




