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最初で最後のおそろい2



「葬式は出動課のみで。それだけでも六人ですから。私らは会社から弔いますよ」

 窓の外を眺めながら、番頭は言った。電話越しの師巻は無言を置いてから、息を吐いた。

「昼過ぎにそっちに顔を出します」

「久しぶりですね。一年振りくらいですか?師巻さんがいない間に新しい子が二人も入りましたよ」

「宮さんから聞くだけ聞いてる」

 実際は宮から届いたメッセージを師巻は読んだだけだった。

「全員集合ですな。それじゃ、まあ、お気をつけて」

「ええ。のちほど」

 番頭は受話器を置く。スツールに腰掛けていた松葉が頬杖をついたまま声をかけた。

「師巻さん?」

「師巻さんです。昼過ぎに顔を見せるそうです」

「綿井も今、タクシーだって。番頭さん、ドーナツ食べる? 白鳥の奢り」

「頂きましょう」

 番頭はカウンターに来ると、ドーナツの箱を覗いた。

「チョコレートドーナツは私のですから」

 コーヒーを淹れたマグカップを両手に白鳥が釘を刺す。

「ブラックですか、松葉さん。温めたミルクもありますけど」

「せっかくだから入れようかな」

 コーヒーを置くと、白鳥はミルクを取りに戻る。

「チョコレートドーナツ、ふたつあるけど他の食べていいの?」

 番頭が尋ねる。

「ふたつとも私が食べるんです」

 ガラスのピッチャーをカウンターに置くと、ミルクが少し揺れた。松葉が笑う。

「さいですか。では、私は苺のやつを」

「はい、お皿どうぞ。お湯多めに沸かしてます」

「ありがとう」

 番頭は皿に苺のドーナツをのせると、ほうじ茶の茶葉を取りにいく。松葉はミルクを垂らし、自然に混ざるのを眺めながら、チュロスをかじる。隣に白鳥が座る。チョコレートドーナツをふたつ並べた皿を見て顔を緩ませる。松葉は心の中で可愛らしいと感じた。

「白鳥もさぁ、河津のスカウトでここ来たよね」

「なんですか、突然」

 食べようとしたチョコレートドーナツを白鳥は皿に戻した。

「つい最近、鐘霞と河津の話になって」

「うーん、スカウトっていうよりも私は拾って貰った感じですよ」

 河津の行きつけのコーヒー屋の店員が白鳥だった。店が閉店し、仕事を探していた白鳥に河津が声をかけたのがきっかけだった。

「河津さんって何か凄いですよね。コミュニケーション能力のフル稼働みたいな。顔見知り程度だったのに、なんか昔からの友達感オーラがめちゃくちゃある」

「ああー、分かる。めっちゃ分かる。それでね、聞きたいんだけど。河津ってさ、双子だったりする?」

「ええ? お兄さんがいるっていうのは聞いたことあるかもですけど」

 白鳥はコーヒーにミルクをたっぷり入れて、スプーンでぐるぐる混ぜる。

「あー、じゃあ兄貴と間違えたのかな。めちゃくちゃ似てる兄弟っているもんね。なんか河津にそっくりな人見たって」

 松葉は納得する。白鳥はカフェオレをひとくち飲むと、チョコレートドーナツをふたつ、両手に持って、松葉の方を向く。

「それかドッペルゲンガーじゃないですか?クローンとか」

 白鳥はお茶目に、にやけてチョコレートドーナツ大きくかじった。形が変わった同じドーナツを松葉はまじまじと見つめた。浮かんだ仮説に、立ち上がる。

「まさか!」

 だが、すぐに座った。

「いや、ないないないない」

 松葉は頭を抱えて、もう一度立ち上がり、歩き回る。

「どうかしましたか?」

 湯気立つほうじ茶を持った番頭が松葉を心配する。白鳥は気にしながらもドーナツをひとつ食べきった。

「河津さんがドッペルゲンガーって話です」

「違う!」松葉は強く否定した。「河津の話じゃなくて、ドッペルゲンガーの話」

 白鳥と番頭が顔を見合わす。その間も松葉はジタバタ手を動かす。

「水! ひらめいた! けどありえねぇの!どうしよう!」

 松葉はメモ帳を捜す。

「ひらめきショート寸前ですね」

 どうしようもない白鳥はカフェオレを飲んだ。


 契約している駐車場にワゴンを止める。ジャンパーを手に持った出動課が順番に降りた。最後に運転席から鐘霞が降り、管野と喋りながら歩く日永の背中を見る。鐘霞はまだ、日永の弟について聞けてなかった。今日はまだいいと、距離を置いてゆっくり歩いた。

「あれ、師巻さんだ」

 先頭にいた居里がクアイの前に立っている師巻を見つけた。珍しくサングラスはかけていなかった。師巻もこちらに気が付く。宮が居里を追い抜き、師巻にかけよった。木森は引き返すと、自動販売機でお茶を買っていた日永と管野のところへ来た。

「師巻さんって人来てるって」

「ああ、たまに聞くあの人?」

 日永が聞き返すと木森が頷く。管野は後ろを見る。聞こえていた鐘霞は複雑な表情をしていた。そして、三人を置いていくと師巻のところへ急いだ。珍しい、と管野は思ったが、仲間が死んで好き嫌いでごねるほど鐘霞は子どもではないとすぐに納得した。風が吹く。三人は首をすくめた。

「寒い。やっぱもうコートいるね」

 木森が二の腕をさする。

「俺らも急ぐぞ」

 管野が早歩きで急かす。日永は買ったお茶で手を温めながら、付いて行く。木森がずるいぞ!とじゃれついた。

「四人死んでる」

 師巻が宮に伝えた。宮も咄嗟に理解できず、言葉が出なかった。

「四人って? どこの四人?」

 頬を引きつらせながら、居里が勘違いであれと願いを込めて喉を震わす。

「番頭、白鳥、松葉に綿井。刺殺だ。室崎と同じ奴だろう」

 居里の頭が真っ白になり、すぐにクアイの中に入ろうとしたが、師巻がとめた。

「小春が現場保存している。俺らは特殊な立場だからな、普通に警察が呼べない。融通が利く、理解を持った警官があと三十分で来る」

 居里の肩に置いた手を、師巻は鈍く落とすように離した。居里は唇をギリギリに噛み締め、外壁を蹴った。鐘霞が追い付き、嫌な空気を察した。

「何があったんですか?」

 鐘霞が師巻に尋ねる。師巻は返事をしない。眉間に皺を寄せた鐘霞は、師巻に顔を向ける。師巻は鐘霞を見てもいなかった。背後の一点を見つけ、息を止めた。鐘霞がふり返る。その先には、管野と木森、日永がいた。日永は足を止めた。胸のざわめきが喉までせり上がって来る。日永は体中が震えている気がしたけれど、実際は瞳が凍えるように震えているだけだった。日永は後ずさりする。管野が足を止め、日永を呼んだ。

「どうした?」

 木森も日永を見る。師巻は鐘霞の肩を押しのけると走った。日永はお茶を落として、背を向け逃げる。

「日永!」

 管野が叫ぶ。その名前は師巻の耳に届く。師巻は追いかけ、追いつき、日永の腕を捕まえた。日永は膝を付いた。師巻は日永の正面にまわり、肩を強く掴んだ。

「捜したよ。まだ、絵は上手かい?」

 日永は目を伏せて、声を絞り出す。

「殺しにきたんですか?」

 師巻は違う、首を横に振った。

「そうじゃない。そうじゃないんだ。話は沢山ある。だが、唐突過ぎて、いい言葉が出てこないなぁ」

 師巻が無理をして笑ったせいで、目尻が震えていた。

「まさか、父親の姓を名乗ってるとは思わなかった。今までどうやって逃げてた?」

 日永は黙りこくる。

「どういうことですか?」

 追いかけて来た鐘霞が聞いた。その後ろで、管野と木森はわけがわからず困惑していた。日永は顔を上げられなかった。師巻は日永から目を離さず、教えた。

「この子は、冬野博士の息子だ」


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