短編 沈黙は金なり
結仁くん視点の短編です。
三井結仁、6歳。
ここに養子に貰われて一年が立った。
「久司さん、今日外商の方が来られて、チラシを頂きました。物産展らしいですよ。何かいるものはございませんか?」
奥様が帰って来た旦那様に問う。
「そうですね…。こちらなど、美味しそうですね。」
奥様と旦那様は言葉が通じないようだ。
見たところ一般的な会話のようだが、明らかにお互いが探り探り聞いている。
奥様は旦那様に気を使ってほしい物を聞いている。
旦那様は奥様に気を使って奥様が好きそうな物を示している…
夫婦とは大変だ。
「こちらですね。では明日、外商の方に頼んでおきますので。」
「ありがとうございます。」
…ここでしっかり夫婦としてすり合わせをしておかないと、また夫婦関係が複雑化しそうだと、第三者は思うのだが。
奥様は奥様の一般論、旦那様は旦那様の一般論でお互いを思っているため、この話はお互いの着地点で納まることになる。
✽✽✽
「こちらを10個お願いします。」
…ほら、やっぱり。
生粋のお嬢様な奥様は単位が10から始まる。
きっと旦那様の1は奥様の10だろう。
生家の屋敷でも大奥様と正妻の買い物がまさにこれだった。
感覚の違い、このすり合わせを夫婦でしておかないと、以前のようになると思うのだが。
俺が言う立場にはないので、俺は言わないけど。
沈黙は金なり
これが俺の持論だ。
✽✽✽
「…こんなに沢山どうしたのですか?」
そして旦那様はご存知ない為こうして時として地雷を踏む。
「…お召し上がりになりたいと言ったのは久司さんではないですか。」
「このような量とは…」
ほら、だから言ったのに…口にしてはないが。
「そうですか。それは配慮が足らず申し訳ありませんでした。」
奥様は明らかに口調が強くなっている。きっとこれまで誰からも否定されることなく生きてきたんだろう。蔑ろにされたと奥様が感じたとき、こうして奥様は虚勢を張る。
「…いえ、沢山食べれると思って喜んでいるのです。」
元の上下関係か、惚れた弱みか、年齢差か、こうなったら必ず旦那様が一歩引く。
奥様は折れない。言葉では丁寧な事を言ってはいるが…
要は旦那様はこの一年で、奥様を立てるという事を覚えたようだ。一歩引いて、謝罪するのではなく、奥様を立てる。
得策だと思う。
それにより最近は以前より、分かり合えるようになったと思う。
「そうですか?」
あとは奥様の表情が豊かになったからだ。
前は旦那様の前では無表情だった。だからいつまでも怒っていると勘違いされる。
今の〝そうですか〟に笑顔が追加された。
これにより、夫婦はこじれることなく円満となる。
「食べましょうか。」
「はい。」
「結仁、一緒に食べよう。」
「結ちゃん、食べましょう。」
沈黙は金なり
言葉は時として人を傷つけ、誤解を生む。
「はい、頂きます。」
―――だけど、時として言葉は人を繋ぐ。
【おしまい】
これにて、政略結婚の裏側に…はおしまいです。
ここまでご覧いただき本当にありがとうございました!
シリーズの本家、直くんとももちゃんも宜しくお願いします(*^^*)




