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父娘の和解


私が男に産まれていたら、皆幸せだったはずだ。


お母様も跡取りを産んだと安堵した事だろうし、お父様のお役に立てたと喜んでいたはずだ。


そしたら、もしかしたら今もご存命だったかもしれない。


お父様も血の繋がった跡取りが出来たと喜んだに違いない。


結ちゃんもこの家に振り回されずに子供らしい生活が出来たに違いない。


久司さんも…我慢を強いられずに済んだはずだ。



全部、私が…


「愛子。」


お父様に声をかけられる。


「ひたむきに生きろ。愛子。後悔が多い人生には未練が残る。命尽きるその日まで…」


「?」


何を急に?


「仕事の事、これまで死にものぐるいでやってきた。会社を大きくして、財を成したいと。お前達に裕福な暮らしをさせてやりたかった…」


…。


「ようやく、その夢が叶った時には、あいつは…もう長くなかった。」


お母様のこと?


「今こうして死の淵に立って、〝あの時こうしていれば〟と後悔ばかりよ…」


…。


「許せ。愛子。すまなかった…お前の母親を死なせてしまったのは、俺だ。」


ツーっと涙が流れてきた。いつも強くて威張り散らしていた父が弱っていて、謝って、懺悔してる。


始めて見た父の姿と、私とお母様への思い。


「愛子は俺のように後悔するような人生は、送るな。」


「はい…。」


「好きだっただろ。久司くんのこと。」


!!!


え。何急に!どういう事!?というより…


「知ってたのですか?」


「娘の事を分からんとでも思ったか?」


「ッ!〜〜ウッ…」


涙がどんどん流れてくる。女でしかない私の事を気にも止めていないと思ってたお父様が…

お父様から私、ちゃんと気にかけてもらえていた。


「ひたむきに生きろ。愛子。後悔するような人生は送るな。」


「はい…。」


お父様は私が久司さんの事を思っていた事に気づいていたから、社長にしたんだ…。


私が喜ぶと思って…


「お父様、お母様の事を思っておいでですか?」


これだけは聞いておきたい。お母様に伝えたい。


「変わらずな。」


不器用でワンマンな父の最大の愛の言葉だ。きっと、お母様に伝わった。


「あいつは…きっともう何とも思っていないだろうがな。」


「お父様、私。お母様に伝えておいて欲しい事があるんです。」


「あの世で会えるか分からんぞ。」


「会えます。きっと会えます。だって、お母様はどんなときでもお父様のお帰りを待っておりましたから…」


「…そうか。」


お父様は満足そうに笑った。


「お母様に私は幸せです。と。お父様とお母様の娘に産まれて幸せです。とお伝え下さい。」


「…分かった。」


お父様は満足そうに嬉しそうに…笑った。


初めて笑った父の顔を見た。

その顔を見て長年あった父へのシコリが(ほど)けて、溶けていった。


もう少し前にこうして話せれば良かった…


〝ひたむきに生きろ。愛子。後悔するような人生は送るな。〟


これで終わりではない。お父様はまだ生きてらっしゃる。


まだ、時間はある。

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