ひたむきに生きる
それから数カ月経ち、お父様は徐々に弱り、眠るように亡くなった―――。
火葬場の煙突から出る天まで昇りそうな煙を見て…お父様とお母様は再会出来たと、願いたい…。
「お父様…」
この数カ月間、心から親子としての時間が過ごせたと思う。良かったと思うと同時に、涙が溢れてきて止まらない。
「奥様。皆様お部屋にいらっしゃいます。お戻りになりませんか?」
結ちゃんが私を探しに来てくれた。この数カ月で、結ちゃんのイントネーションが標準となった。きっと、お父様の余命に気づいて、跡取りとしての成果を見せたかったんだろう。
お父様はとても大きい物を残して下さいました。
子供がいると、寂しさが半減する。私独りだったらきっと取り乱していた。
「ありがとう。…結ちゃん、おじいちゃんいなくなって寂しい?」
「…申し訳ありませんが、私はそのような心は持ち合わせておりません。」
また子供らしからぬ事を言う…
「お母さんは、やっぱり悲しくて…結ちゃんの前で泣いてもいい?」
子供にすがる。大人らしかぬ行動だ。
「私は死というものになんの感情も湧きません。そのような者の前で泣かれるのは奥様が不憫かと思います。」
よく不憫なんて言葉知ってるな。
「泣かせてよー。」
私には結ちゃんしかいないのに。
「…旦那様がおられるではないですか。私の前より、有意義かと存じます。」
ひ、久司さん!?…あれ以来、挨拶しかしていないのに…
〝ひたむきに生きろ。愛子。後悔するような人生は送るな。〟
そうだ。後悔しないように。
ひたむきに生きるって決めたんだった。
✽✽✽
家に帰り付き、久司さんに何と声をかけようかと悩んでいたら、逆に久司さんに呼ばれ、リビングルームに行く。
「お待たせいたしました。久司さん。」
二人きりになるのがあのハンバーグの日以来で、少し緊張する。
目が合わせられなくてうつむいたままだ。
「…いえ、こちらこそお時間を取らせてしまい申し訳ありません。」
私達夫婦の会話はいつもビジネスのようだ。
「会長が亡くなったばかりで申し訳ありませんが、今後の事がありますので。」
「おっしゃる通りです。お一人で手続き等して頂きありがとうございます。」
私は久司さんになんでもしてもらってばかりだ。私一人では何も出来ないし、分からない。
世間知らずな私は久司さんがいないと…生きていけない。
「まず、会社の事ですが、会長の遺言書に私の次は結仁が継ぐよう記載されておりますので、この書面があれば、間違いなく結仁が次期社長となります。」
「はい。」
「結仁の次は愛子さんと結仁とで話し合って決めてください。」
「え?」
「私は婿養子で意見する立場にありません。会長の血を引く愛子さんと会長の意志を継ぐ結仁とで決めた方が良いでしょう。」
「…。」
なんか…他人行儀な…
「あと、こちらを…」
そう言って久司さんが取り出したのは、久司さんの欄が記入された…
―――離婚届だった。




