3
結局キリー村の事件は、騎士団とは何の関係もない一人の魔法使いによって解決され、石と化した騎士達は、駆けつけたルテラ教のヒーリング部隊によって救助されることとなったのであった。
つまるところ今日の集まりというのは、キリー村で石化した騎士達が無事治療を終え、全員帰投できたことを祝うものなのである。
本来ならば、先月すべての騎士がヨルムに戻ってきた時点で行われるはずの会だったが、闇魔術師の襲撃により、いっとき首都が緊迫した状況となったため、今日までのびのびとなっていたのだ。
「まあ、何はともあれ、お前の活躍は、俺だけじゃなくもっと上の方の連中も一目置いているみたいだからな。あんま馬鹿な真似するんじゃないぞ」
もうすぐ中隊長になるトラムはナップの肩をたたいた。
トラムの昇進は、かなり前から確定していた人事だったのだが、正式な辞令が出る直前に、当人が石化するという、護民騎士団の歴史の中でもかなりの珍事となってしまった。
本来なら、自分の率いる隊を全滅に近い状態にしてしまったのだから、当然責任問題などが出てきて昇進どころの話ではなくなるはずなのだが、彼の隊長としての指揮能力の高さを買っている者が多かったことに加え、評議会の実力者であるウォルター副議長の主張が、彼への責任問題を不問とする決定打となったのだった。
闇魔術師により自分の息子を誘拐されるという痛手を味わったウォルターは、現在「フィン魔道対策委員会」なるものを組織し、評議会付き魔道士の増員や騎士団への対魔道訓練の導入などを立案している。
彼の主張というのは「そもそも、これまで我が国では、騎士団への魔道に対する訓練というシステムなど一切存在していなかった。全く予備知識もないまま、魔道の攻撃にさらされたトラム隊およびトラム小隊長に責任を押しつけるのは筋違いである。本来、問題とすべきなのは、魔道に対して無防備な状態である現在の我が国の防衛システムであり、それを放置してきた評議会自身である」というもので、それはなかなかに筋の通った正論であり、今や評議会で五本の指に数えられるウォルターの主張であってみれば、さしたる反対もなく受け入れられる運びとなったのだ。




