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「伯母様ぁ!!」
部屋に入って来た艶やかな女性の姿が視界に入ると、少年は涙にぬれた大きな瞳をそちらへ向けて声を上げた。
「……なるほどね」
部屋を見渡し、おおむね事態を把握できた様子の女性の声には、明らかに怒気がこもっていた。
肩が露出した真っ赤なシルクのドレスに身を包んだ美貌の魔女メイシンは、目の前に立つライバルの老魔法使いをにらみつけた。
「アパートとここのドアを壊して、マネキンソルジャーちゃん達を粉っ々にして、おまけにリューンちゃんまで泣かしたのはお前かぁ!!!!」
魔女の全身から怒りのオーラがほとばしる。その迫力にナップは思わず身をすくませる。
「その通り」
アリッサの答えは実にあっさりしている。
「おのれぇ、ここで会ったが百年目!!今日こそは―」
メイシンの言い回しは、その実年齢を反映して時折古めかしくなる。
「なんだい?あたしとやるってのかい」
アリッサは不敵な笑みを浮かべ、魔女からの挑戦を受けてたつ構えだ。
このままここで魔法合戦が始まったら、自分の出番はないだろうなとナップが考え始めていた。
しかし、怒りが頂点に達したかに見えたメイシンは、急に肩をすくめると、ため息をついた。
「決着をつけたいのは山々なんだけど、今日のところはや〜めた。だって、メイシン負けちゃうもん」
彼女の口調は、落ち着きを取り戻すと同時に、どこかつくりものめいた、無意味に色香をふりまくようなものへと戻っていた。
アリッサの方は、彼女のその肩すかしな態度に苦々しげな顔を浮かべると、やはりため息をひとつつき、美貌の魔女へと皮肉を飛ばした。
「まあね、それが賢明なこった。その若くて美しく見える肌に傷でもついたら大変だ」
しかし、メイシンも負けてはいない。
「そもそもねぇ、今日決着をつけられないのだって、アリッサちゃんが原因なんだからね!!この間、急に頼まれて闇魔術師と戦ったでしょ。まあ、あれは成り行きで協力してあげたんだけど……あん時かなり無理したせいで、魔力補強の指輪をほとんどダメにしちゃったんだから」
そう言うとメイシンは、アリッサの前に両手の甲を突き出した。
確かに、闇魔術師との戦いでは両手にたくさんあった彼女の指輪は、今や右手に一つのみとなってしまっている。
「指輪さえあれば、アリッサちゃんなんか簡単に倒しちゃうんだから!!」
「だが、今はそれを買う金にも苦労してると」
「そ、それは…」
どうやら口喧嘩においても、アリッサの方が一枚上手であるようだ。
「まあまあまあ」
皮肉合戦が一段落ついたところで、ナップが二人の間に入る。
そもそも、メイシンに会うためにやってきたのは彼であり、いつまでも傍観者でいるわけにはいかなかったのだ。




