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コイン磨きの聖女様 牧師の娘とウリエルが歩む異世界  作者: 聖魔鶏カルテペンギン
第1章 オクジェイト大森林 探索編
31/44

029枚目 磨くのはコインと女

「本当に大丈夫かな」

「大丈夫よ、コイロちゃん。冒険者(ランカー)登録は最低限の読み書きができれば簡単に登録できるわ。はい、いってきなさいな」

 エルは優しく琴花の背中をポンと押した。

 そのポンに勇気をもらった気がして琴花は前に歩き出す。そして数歩進み、深呼吸。




「あ、あの……冒険者(ランカー)登録したいんですけど」

 ギルドの窓口。琴花は受付でそう告げた。


「そういえばサーシャちゃんは戻ってきてないの?」

「そうね、一応情報集めてみたけど目撃情報はなかったわ」

 エルは丸めていた地図を広げた。盗賊ならでは情報網を駆使してもサーシャ=クレストの姿はなかったらしい。


「これはオクジェイト村周辺の地図よ。ここが村で、こっちが大森林ね」

 琴花に分かりやすいように指でその地点を指していく。地図のほとんどを埋めつくすオクジェイト大森林。大森林というより、もはや樹海だ。

 迷い込んだら出てこれない。それを考えると琴花はエル達に救助されたので運が良かったといえる。しかし、結果はどうあれサーシャが琴花のために身体を、それこそ命を張らなければ今の琴花はなかったといえる。

「昨日、コイロちゃんがいたのは大森林の結構奥のほうね。あの辺はハクトウパンの縄張り兼住処になってるから、今思うと生きて帰れて良かったわね。女神様の御加護があったわね」

「縄張り兼住処ってことは他にもハクトウパンがいるの」

「もちろんいるわよ」

 ゾっとした。あんなの一体で充分だ。というかもう会いたくないといった感じだ。それだけ琴花に恐怖というものを植え付けた。


「でも近年は乱獲されて数は減少していたはず。取れる素材が良いのばかりだからね」

「乱獲って、あんな怖い魔物を」

「昔はかなり弱い魔物だったみたいよ。それこそ入口付近にいてもおかしくないほどに。でも乱獲されて住処を追われて、過酷な環境の中生きていくためには強くならざるを得なかったのかしらね〜」

 同情しなくてはならない事情。どんな事情があったも殺されては元も子もない。


「そういえばコイロちゃんは、これからどうするの?」

「え……どうするって何を?」

 いきなりどうすると聞かれて戸惑う琴花。

 正直考えてない……というより何をしたらいいのかがよく分かっていない。


「どこか目的地とか、やりたい事とかはないのかなと思って」

「えーと」

 答えに困った琴花は眼鏡を外してウリエルに

「ウリエル、あたし何をすればいいの?」と助けを求めた。

 ウリエルはやれやれと肩をすくめる。

『この馬鹿ちんがッ! 何を分かりきったことを言っておるのじゃ。次にやるべきなのは銭集めに決まっておるじゃろうに』

「銭集めって……」

 もう少し言い方というのはないだろうか。

『間違ったことは言っておらんぞ。何をするにも金がいる。リサイクルできない大型のゴミを捨てるだけでも金がかかる世界で生活してきたお前さんじゃ。よく分かるじゃろ』

「うーん、たしかに指定日以外だとそうだけどさ」

『ちなみに自己破産するにも銭がいるから注意じゃぞ。そうなる前にご利用は計画的にじゃ。おう、そうだエルよ。この鈍臭い琴花がお金を稼ぐには何をしたら良いのじゃ』

「お金を稼ぐ方法ね〜」と頬に手を添えるエル。

 何かを考える時にするエルの仕草である。

「ちょ、鈍臭いって……」

『なら体育の成績はいくつだったんじゃ』

「……3だよ」

『ふむ、まぁー可もなくってところか』

「そうね〜。コイロちゃん冒険者(ランカー)にならない?」

冒険者(ランカー)ッ!? あたしが?」

 いきなりの提案に驚く琴花。

『ふむ、確かに金を稼ぐにはちょうどいいな』

「いやいや、待ってよ。あたしにそんな危険なことできないよ」

 魔物と戦うのが冒険者(ランカー)ならば、琴花は死んでもやりたくない。昨日のハクトウパン戦で恐怖というものを充分に理解したからだ。わざわざ命を捨ててまで冒険者(ランカー)になりたくはない。

「大丈夫よ、魔物と戦うだけが冒険者(ランカー)じゃないわよ。素材を集めたり、困っている人の頼み事やお悩みを解決するのも立派な冒険者(ランカー)の役目よ」

「うーん」

「それに身分証明にもなるし、登録しておくと色々と便利なことやお得なこともあるわよ。私も一緒に行くからギルドに行こう」

 今のところ身分を証明するものが全くないのも確かであった。なら流れに乗って冒険者(ランカー)になるのも悪くないかなと琴花は思った。

「分かった、あたし冒険者(ランカー)になる。だから色々と教えてねエル」

「任せておいてコイロちゃん」

 エルはポンと自分の胸を叩いた。

「さ、行きましょうか」

「あ、ちょっと待ってエル」

 琴花はポーチから汚れたコインを取り出す。そしてキュキュっと磨いてゆく。

『ふむ、感謝を込めて綺麗に磨くのじゃよ』

 ある程度磨き終えるとコインの表裏を確認する。そしてコインを握りしめて「やっ」と掛け声をかける。すると琴花の手の中で強い光が一瞬だけ発生する。

 その一連の行動にエルは首を傾げたが、その理由もすぐ判明する。

「ごめん、まず眉毛だけ整えさせて」

「えぇいいわよ。お顔は乙女の命ですもの。いいわよねウリエル様」

『うむ、コインだけではなく乙女を磨くのも大事じゃぞ』

 琴花はさっそく本日支給されたウリエル様のコインでアイブロウペンシルを呼び出した。











(たしかに成績は3だったけど、成績が10段階評価の学校に通っていたことはウリエルには黙っておこう)

 目の前を歩くエルとウリエルを見て琴花は心にそう誓った。


「ではこちらにお名前の記入をお願いします」

 受付のお姉さんに言われた通りに琴花はペンを受け取り、サラサラと自分の名前を記入していく。が、そこでふと気づく。

「あ、あのこれで大丈夫ですか?」

「はい、お名前はコイロ=ショージ様ですね」

 どうやら書いた文字も自動的に翻訳されるようで、その事にホッとする。その辺は女神様の御加護とやらが働いているようだ。もし働いていなくてもエルに代筆を頼めばいいのでそこまで過剰に心配する必要はないのだが……。

「はい、これで書類のほうは以上になります」

 もう少し時間がかかるかと思いきや、書類はスムーズに終わった。次の冒険者(ランカー)カード登録は魔力を流すか少量の血液の提供の2択があり、琴花は痛いのは嫌であったが、そもそも魔力というものがあるのかよく分からないため後者を選択した。

 登録手続きが順調に進んでいく。

 冒険者(ランカー)の規約や、禁止事項が書かれている冊子を受け取り、次に登録カードをもらって終了かと思いきや、受付のお姉さんは笑顔でこう言った。


「では、今から指定する魔物を退治してきていただきます」と。

残り3枚 まだ汚れたまま

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