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81話 賢者の失踪(勇者の叫び)

 なんだか、葬式みたいな空気だ。

 俺は沈痛な空気から逃げるようにハン伯爵の屋敷の外へ出てため息をつく。ユイねーちゃん、本当に何処いっちゃったんだよ。


 ユイねーちゃんが温泉宿から姿を消してから、フレイと魔王の焦りは見ていて辛くなるぐらいだ。以前フレイが自分と魔王の心の闇はユイねーちゃんで補われた状態だと言っていた。あれを見ると、実際そうなんだろうなぁと思う。

 休むという事を知らない2人は、色々動き回って、ユイねーちゃんの情報を集めている。

 でもそれでも本当にユイねーちゃんが見つからなかったら……2人の心はぼっきり折れてしまうのではないだろうか。

「ユイねーちゃん、マジ帰ってきて」

 ユイねーちゃんも心配だけど、自分の事も心配だ。怖い。あの2人に愛されるなんて、俺には無理だ。俺はユイねーちゃんみたいに、どんな愛の言葉もするっとかわせるほど、スルースキルは高くない。

 やっぱりここにはユイねーちゃんが必要なんだ。


「ユイねーちゃん、カムバーックッ!!」

「……本当に早く見つかるといいな」

「ふへ?」

 屋敷の前で夕日に向かって叫んでいると、声をかけられた。えっと、確か、コイツ、ハン伯爵の甥っ子で――。

「エレオー?」

 灰色の髪の男は、俺が名前を呼ぶと、頷いた。テュール先輩と同い年か、もう少し少し上だろうか。俺より背が高いため見上げる形になる。

「ああ。そうだが。貴殿は勇者殿だな」

「あ、うん」

「ユイ殿は、この国には必要な方だ。早く戻られるといいな」

 そう言って、エレオーは俺の隣に座る。

「そうそう。ユイねーちゃんは、必要なんだよ。居なくなったら困るんだよ」

 俺の周りには優しくない奴らが多すぎるので、ユイねーちゃんは癒しだ。時折斜め上に暴走して困る事はあるけれど。

 でもやっぱりいなくちゃ困る。


「ユイねーちゃん、どこに行っちゃんだろ。もしかして、人身売買の奴らに捕まったとかじゃないよな」

 でももしかしたら、その方がいいのか?

 人身売買されかけているなら、ユイねーちゃんが死んでしまっているという最悪の事態は起こっていないという事だから。

「その可能性はないとは言えないが、ユイ殿はあの場から忽然と姿を消してしまったんだろう?」

「そうなんだよ。普通なら少し位目撃者が居てもいいのにさ」

 まるでユイねーちゃんは、最初から存在していなかったかのように。魔王と別れてからのユイねーちゃんを誰も見ていない。

 不意に、フレイがユイねーちゃんはすでに死んでいると言っていたのを思い出して、俺はぶるりと震えた。実はゴーストだったとか、そういうことはないよな。

 怖い想像をしてしまって、俺は首を横に振った。考えても、俺じゃ分からないのだから、止めておこう。考え事をするのは、頭脳派に任せておいた方が良い。

 俺みたいな奴ができるのは――。


「すみません。ユイ様宛に伝言をお持ちしたのですが」

 人のよさそうな小父さんが、てくてくと歩き俺に声をかけてきた。

「ユイねーちゃん宛?」

「はい。伯爵様のお屋敷にいると聞いているのですが」

 まあ、ユイねーちゃんがいる時ならそうなんだろうけど。でも今は、肝心のユイねーちゃんが失踪中だ。

 まだ、昨日の今日なので、この人まで情報がいっていなかったのだろう。

「ユイねーちゃん、今はいないけど」

「ああ。外出中なんですね。でしたら、伝えていただけますか?僕は掲示板の管理者なのですが、赤い髪の少女の情報が入りましたと。たぶんそれで伝わると思いますので。詳しくは掲示板でお教えします」

「えっ? 赤い髪の少女?」

「はい。本人かどうかは分からないのですが、髪の長い鮮やかな赤毛の少女が抱えられていたのを目撃した人がいまして」

 赤い髪の少女と言えば、ユイねーちゃんが探していた人じゃないだろうか。

 確か、ユイねーちゃんと同じで、人身販売に巻き込まれた可能性が高い子で……。

「分かった。ユイねーちゃん帰ったら、ちゃんと伝えておくよ。じゃあ、ちょっと俺、魔王達にもその子の事伝えてくる。じゃあな、エレオー!」

「へ? 魔王様?!」

 おじさんがびっくりしていたが、俺は構わず手を振って、走って魔王達が居た部屋へ向かう。

 

 ユイねーちゃんが居ない今は、赤毛の少女なんて関係ないかもしれない。でも、ユイねーちゃんが居なくなったタイミングで見つかった赤毛の少女。ユイねーちゃんと同じで、人身売買の被害者。何か接点があるかもしれない。

 どうせ何も手がかりもつかめていないのだ。だったらとりあえず、調べてみたって悪くはないはずだ。

 俺はフレイや魔王みたいに頭が良くないから難しい事は考えられないけど、体力は有り余っている。折角だから、この赤毛の女の子に俺が会いに行ったって構わない。

「魔王入るぞ!」

 バンと扉を開けると、そこにはフレイと魔王が居た。うわー、ある意味やな組み合わせだ。ユイねーちゃん、俺に力をと祈りつつ、俺の方を注目した2人に笑いかける。

 目元に隈を作った2人はおおよそ健康そうではない。でも葬式みたいな雰囲気で、ユイねーちゃんを探したって何もいいことはないのだ。


「ビッグニュース! なんと、ユイねーちゃんが探していた赤毛の女の子の目撃例が出たらしいんだよ。もしかしたら関係ないかもしれないけど、あるかもしれないじゃん。だから2人が忙しいなら、俺が――」

 見に行ってやるよと言った所で、魔王がガシッと俺の肩を掴んだ。

「どこで?! どこで見たんだ?!」

「えっ。いや、そこまでは聞いてないけどさ」

「ちっ。使えん」

「えぇぇっ?! ちょ、何だよそれ」

 何故顔を合わせて早々に使えない発言されなくちゃいけないんだろう。しかも舌打ちつき。そりゃさ、疲れてるのは分かるし、俺はきっちり睡眠取ってるけどさ。でも、そりゃねーよ。

「でも、何で目撃例が出たのが分かったのさ」

「ああ。ユイねーちゃんが掲示板?とかって所になんか頼んでいたみたいでさ。さっきそこの店主が情報が入ったから、詳しく聞きに来て欲しいって言ってたんだよ。あ、でも、掲示板ってどこにあるんだろ。ちょっと誰かに聞いて――」

「でかしたっ!!感謝するっ!!」

 舌打ちした魔王が、今度は俺をギュッと抱きしめた。

 何が何だか、良く分からない。やっぱり、赤毛の少女は、ユイねーちゃんと関係があったのだろう。もしくは、睡眠不足で魔王がおかしくなっているかだ。……あり得なくはないよな。


「よし。掲示板の店主に情報を聞きだそう。赤い髪ならとても目立つからな。さらに引き続き、情報を集めるよう金を積もう」

 突然明るくなった魔王に、俺はどう反応していいのか分からない。

「クククク。俺のものに手を出そうとはいい度胸じゃないか」

「えっ。もしも、それ、ユイねーちゃんの事を指してるなら……いや、何でもないデス」

 【俺のもの】って言ったよ。まだユイねーちゃん、答えを出してないのに。

 やっぱり、ユイねーちゃん。前に言ってた、頭の良い執着心の強い奴に惚れられるのは大変って言葉、ブーメランだから。とりあえず、ここにはいないユイねーちゃんに対して心の中でそうつぶやき、冥福を祈る。まあ、嫌われるよりは……いいんじゃないかなと、いいように思っておく。

 でも俺、今の魔王はあんまり止めたくないなぁ。さっきまでのお葬式ムードから一転して、生き生きしているし。

 怖いけど、俺はこっちの魔王の方が魔王らしくて良い気がする。完璧、悪人面だけど。まあ、でも、魔王だもんな。人族の俺が、魔王を悪人のように感じるのはある意味普通の事……だと思おう。そうでないと、ユイねーちゃんに同情してしまう。


「誰がいつ、何時何分何秒、君のものになったって?」


 ぞわり。

 フレイから霊気が漂いだす。

 あああ。シスコンも、怖えーよ。フレイの魔術はえげつないんだからな。呪術が得意なタイプなんだぞ。ユイねーちゃん、本当に、早く帰ってきてぇぇぇ!!

 俺は明らかに悪人顔をした2人にはさまれて、心の底からそう思った。

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