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60話 賢者の先攻(ユイの一手)

 よしっ! フラグキタァァァァァッ!!

 私はルンルン気分で、今日のイベント、【皆で化粧品店でのお買い物】に向かう。といっても、魔王様も参加という事で、魔王城に商品を持ってきてもらってのイベントで城外イベントではなくなってしまったけれど。

 そもそも勇者とは別行動をとってもらおうとと考えていた、オーディンやフレイが一緒という、予定外の状態になってしまってアレだけど。でも勇者と魔王様が揃って、化粧品イベントなんて、もう、これは狙ってますよね。というか、もうこれしかないでしょう。

 昨日は予定外の状況にどうしようと思ったが、一晩色々考えていたら、これは逆にチャンスだと気が付いた。

「男の娘フラグ、美味しすぎる。あああ、カメラが欲しい!! 絶対、魔王様と、勇者君の女装は可愛すぎるに違いないのにっ! きっと化粧は必要ないですね的な勢いで綺麗な肌で、お互いの可愛さに心を射抜かれるに違いないレベルなのにっ! どうしよう。私は萌え死するかも。でもそれも、本望! 可愛いは正義!!」

「姉さん……そんなこと考えていたの?」

 キャッホイと廊下で叫ぶと、フレイとバッタリ廊下で会ってしまった。……うっ。油断したわ。少し時間より早く向かっていたから、誰もいないと思ったのに。

「お、【おとこのこ】と言って、【男の娘】がちゃんと思い浮かぶ子は、同じ穴のムジナです」

「姉さんの部屋の遺物で色々勉強させて貰ったからね」

 うっ。

 そうでした。私の部屋の残念な置き土産の所為で、フレイは残念知識を身に着けてしまったのだ。別にフレイ自身が腐男子というわけではない。


「そ、そんな事より。フレイ君、早くない?」

 敬語で話そうか迷ったが、今は誰もいないのだからと止めておく。私が敬語で話すと、フレイは寂しげな顔をするのだ。弟は物わかりが良いというか、我慢強い子だったから、フレイもまた同じだと思うので、あまりそう言う顔はさせたくない。

 きっとフレイ的には、日本の事を知る仲間が余所余所しいと寂しいのだろう。

「姉さんとちょっと話したい事があって」

「あ、もしかして、オーディンにノルンちゃんが助けられた件? シュチュエーションは違うけど、ゲームと同じ事が起こっちゃったもんね。やっぱり、ゲームより早く魔王様と勇者君が出会ってしまったから、他のストーリーにも影響が出てきているのかな」

 すべてのストーリーが早まっているのか、それとも出会いの関係で、ノルンがオーディンに助けられるというイベントだけが早まって起こったのか。

 今のところどちらとも言えない。

「それは、もう少し経ってみないと何とも言えないかな。【僕】の記憶だと、ゲームの内容はあいまいな部分も多いし、姉さんの方がそう言う事には気が付けると思う。でもまだ人族領の同盟は組まれていないから安心して」

「そっか。うん。そうだよね。またゲームイベントが起こったら教えるようにするね」

 確かにフレイは、弟の名前も忘れるぐらいなのだし、ゲームの記憶なんてかなり曖昧だろう。私がしっかりしないと。


「俺が姉さんと話したかったのは、姉さんがこの世界に来た時の事と、召喚魔法についてかな」

「この世界に来た時?」

「もう少し詳しく教えてくれないかな。図書室でこの国の文献も調べてみたけど、やっぱり有機物の召喚に成功した例はないみたいなんだ。アース国とブァン国はつながりが薄いから、俺が知らないだけかと思ったけれど」

 フレイはどうやら私が元の世界へ戻る方法がないか探してくれているみたいだ。私はすぐに無理と投げたのだけど、フレイは呪術師の家系で生まれたがその頭脳を使って魔道を勉強し、ずっと異世界について勉強をしたらしい。

 この間フレイから聞いた話だと、この世界というか、人族領には異世界と繋がるものとして、召喚魔法という方法があるそうだ。ただしそれはまだまだ発展途上の分野で、場所が特定できない上に、召喚したが魔法自体が不発だったり、上手く成功しても何か良く分からない道具が現れるだけらしい。人どころか、動物一つ召喚できた例は見つかっていないそうだあ。

「この国にもあったんだ、召喚魔法……」

「マイナーな分野みたいだけどね。ブァン国とは、また違う魔道形態みたいだけど、結果は変わらないようだよ。だから姉さんが、初めての成功例なのかどうなのかが知りたいんだ」

「そう言われても……。私は前に話した通り、新聞紙に包まって、この国の町で倒れていただけで……。召喚した人とかも周りにはいなかったし」

 あの時はただ怖かった。怯えていて、ハン伯爵に声をかけられなかったら、どうなっていたか分からない。だからあんな街中で召喚術をするとは考えにくい。


「なら姉さんと一緒に召喚されたものは何かある?新聞紙がとってあれば、いつのタイミングでこの世界に来たのかのおおよその推測もできるんだけど」

「新聞紙はボロボロで、ハン伯爵のところで処分してもらっちゃったからないの。後は……そう。鞄だけ持ってたよ。中身は一部売っちゃったけど」

「そっか。折角だから荷物を後で見せてくれない?何か手がかりがあるかもしれないから。後、姉さんは、いつ、どのタイミングで、この場所に来たか分からないんだよね。最後の記憶は、どこまである?」

 どこまで……。

 そう言われるとと何とも答えにくい。最後の記憶というのが、本当にないのだ。ただ変わったことがあった気がしないので、普通の日常だったとは思うのだけど。

「大学を卒業して、社会人になって……会社で働いていたはず。1人暮らしをして――」

「社会人……」

「えっと。何かおかしい?」

 何故かフレイは不思議な表情をした。もしかして、私が日本で居なくなったのは、もっと別のタイミングだったのだろうか。

「いや。大丈夫。ただ召喚とかって、十代の学生の身に起こるのがセオリーだからさ。二十歳過ぎてから召喚って変わってるよなって思っただけ」

「確かに。ライトノベルの法則ぶち壊しだよね。まあ、私がこの世界の主人公じゃないからだろうけど。ほら、この世界の主人公は勇者で、私じゃないじゃん。脇キャラなら、おばさんでもいいだろうし。むしろBLゲームに若いねーちゃんはいらないしね」

 フレイの言葉に私は苦笑する。

 本当に、何故私だったのだろう。そもそも、どうしてこの世界にいるんだろう。そうやって思った事もある。私じゃ、1人じゃ、異世界に来たって、浮浪者よろしく転がっているしかない。

 でも――。

「たださ。私は未来を知ってるから。だから、私がこの世界で知り合った人を助けられるかもしれないと最近思うようになったんだよね。最初は私が死にたくないから、世界滅亡ルートに話が進まないようにしようと思ったけど、今は守りたい人がいっぱいいるんだ」

「いっぱい?」

「そう。魔王様やルーンさん、ハティー、ヴィリ、ハン伯爵。後、ノルンにヨルムに、メイド長や調理長。それとメイド仲間に、調理仲間。工事現場のおじちゃんも死んだらやだし、もちろんフレイ君も嫌だよ。だから、とりあえず私が帰れるかどうか探すのは、この滅亡フラグを折ってからでいいよ」

「姉さん……」

 私は器用じゃないから。たぶん二つの事を同時進行なんてできない。折角私の帰り方を探してくれているフレイには悪いが、まずは目の前の事に集中しないと。

 それに私一人でフラグ折りとかできる気がしないから、フレイには頭脳担当として、しっかりとサポートしてもらわなければ。


「分かったよ。俺もちゃんと協力する。でも姉さんもちゃんと幸せになる方法を考えてよ。皆が幸せならそれでいいなんて、間違ってる。少なくとも僕は幸せじゃない」

「あ、うん。ありがとう……」

 必死な、悲痛そうな顔で言われて、私は戸惑いながらもお礼を言う。

 にしても、私が幸せじゃないと、幸せじゃないって……。

「えっと、フレイ君って、いつの間にシスコンキャラになっちゃったのかな?なんて」

 フレイの申告な空気を変える為に、私はとりあえず冗談めかして言葉を返した。

 別に私も私の幸せを度外視しているつもりはしてないんだけどなぁ。この世界が滅亡ルートに入れば、間違いなく私は死ぬ。必ず元の世界に帰る事が出来ると限らないのだから、滅亡ルート阻止は私の為でもあるのだ。

「俺は産まれる前から、シスコンだよ。この重度なシスコンという病に罹ったのは、姉さんの所為だからちゃんと責任とってよね」

「ふふっ。じゃあ、いいこいいこでもしてあげようかな。その代り、今回勇者君が女装してくれるのに協力してよ。なんなら、フレイ君も一緒にどう?」

 私の冗談に、フレイも冗談で乗っかってくれたので、私はそのまま明るい雰囲気で今日の計画を話す。

 とりあえず今は、魔王様と勇者をくっつけるのが優先事項で、その為のこれは一手だ。先手必勝。魔王様は今のところ勇者とくっ付くのに乗り気ではないようだし、残念な事に一目ぼれもなさそうなので、こうなったら私がフラグを作らなければ。

 おかしいなぁ。絶対、勇者の顔は魔王様の好みだと思ったのだけど。


「女装って、弟が変な性癖に目覚めたらどうするんだよ。そういうのは、魔王様とトールの仕事だよ」

「でも幼馴染が女装した方が、勇者君も抵抗ないと思いませんか? それにフレイ君は赤毛の女の子に似ているから、似合うと思うんですよね。可愛いは正義ですし。ああ考えただけで、鼻血が出そう」

 可愛い男の娘は大歓迎だ。

 ノルンが事前打ち合わせのおかげで、色々服を持っていてくれる予定だし、きっとフレイの分もあるだろう。あああ。なんだか俄然楽しみになってきた。

「とにかく、頑張って成功させましょう!」

 私は張り切り、右手を天井にむけて突き上げた。 

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