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32話 伯爵の甥(ユイの人望)

「メイドから、ユイが甥の部屋へ連れ込まれたと聞いてね」

 そう前置きしたデュラ様は、私とエレオーを順に見る。その瞳の形や色はエレオーとよく似ていた。いや、デュラ様の方が先に生まれているんだから、エレオーが似ているのか。

「ユイ。お前は女性なのだから、誘われたからといって男の部屋にむやみに入ってはいけないよ」

「すみません」

 確かに世間的に考えればその通りだ。でも、どうしてもこの世界がBLゲームだと思うと、地味顔な私はその手の問題は大丈夫じゃないのかなぁと思ってしまう。むしろ危険なのは魔王様のような美少年やルーンさんのような美形である。

 それでも心配してここまで来て下さったのだと思うと申し訳なくて、私は頭を下げた。

「伯父上。まるでその言い方では、私が女性に不埒なことを働く男みたいではありませんか」

「そこまでは言っていない。しかし夜中に女性を部屋へ連れ込んだ時、何もなくてもその女性がどの様な目で周りから見られるか考えなさい。もうお前も大きいのだから」

 ピシャリとデュラ様に言われて、エレオーはシュンとした。意外に幼く見える動作に、もしかしたら、実際には思っている以上に幼いのではないかと思う。日本人が幼く見えがちであると同時に、外国の子供は老けて見えがちだと聞く。

「特にユイは親もおらず、貴族であるお前の言葉を聞かなくてはならない立場だ。それとも、責任をとる気が――」

「あの、デュラ様大丈夫ですから」

 というか、【責任】とかそういう重い言葉の方が迷惑な気もしますけど。

 貴族に結婚を申し込まれて、すみませんで済むかどうかは怪しい。それぐらいなら、変な噂を流された方が、まだ対処の仕様がある。実際には清い体なのだし。

 デュラ様はすごくいい人だけど、たまにピントがずれているというか、心配性すぎだ。

 それに。


「それに、すでにエレオー様には婚約者がいるんですよね?」

 既に婚約者がいるような人に、婚約解消して、どこの馬の骨とも知れない初めて会った人と結婚しろとか可哀想すぎる。しかも手を出したならいざ知らず、部屋で会話していただけでとか、厳しすぎだ。そんな事になったら、婚約相手の女の子にも申し訳が立たない。しかし私の言葉にエレオーはダークブルーの瞳を真ん丸にして、きょとんとした顔をした。

「いや、居ないが?」

「えっ、居ないんですか?」

 エレオーの言葉に、今度は私の方がきょとんとなってしまう。あれ?いないの?

 貴族は大抵生まれた時に、婚約者を決められてるんじゃなかったけ?ルーンの熱血魔族領講座を思い出しながら首をかしげる。

 それに私にはBLゲームで、この辺りの関係図に対してわずかながら知識があった。

 確かゲーム上では、デュラ様には養女がいて、その子が確かエレオーと婚約しているのだ。BLゲームだけど、エレオーはBLから逃れられた存在だったはず。……ん?ちょっと待て。ならデュラ様の養女は何処に行った?そういえば私がここにやってきてから、その姿を見たことも聞いた事もない。

 エレオーと婚約しているのは記憶違いだったかもしれないが、でもデュラ様に養女がいたのは間違いない。だって、デュラ様が勇者に殺された場面で、赤髪の女の子がデュラ様にすがり、勇者を罵るのだ。その場面でしか出てこない脇キャラだが、夕焼けのように赤い髪と憎しみを溶かしこんだような深い緑の瞳はとても印象的だった。

 ガイドブックか何かで、その赤髪の子はデュラ様の養女で、デュラ様の甥と婚約しているというようなことが書かれていたように思う。はて?結構デュラ様に懐いている様子だったから、長く一緒に暮らしていたのかと思ったが、今後養女として引き取ることになるのだろうか?

……いや、ちょっと待てよ。


「あ、あの。デュラ様」

「何だい、ユイ」

「先ほど、エレオー様が私を後継者と考えているとか何とかといっていましたが、何かの間違えですよね」

 色んな情報が繋がりはじめて、ざわざわと胸の中が騒めく。

 現在デュラ様に、養女はいない。エレオーにも婚約者はいない。

 そしてエレオーはデュラ様が私を後継者にしてもいいような事を考えていると言い、さらにエレオーはデュラ様に何かを吹き込まれたようで、現在私の事を尊敬し一定以上の好意を持っている。

 しかも一歩間違えれば婚約を申し込まれそうな状態だった。

「まだ後継者は決めてはいないよ」

 デュラ様の言葉に私は、ほっと息を吐く。良かったやっぱりエレオーの勘違いか。しかし次の言葉に、私は衝撃を受けた。

「ユイが拒むならば、強くはお願いはできないが、私には子供がいなくてね。できたらユイを私の娘として迎えたいと思っている。そしてユイが甥や姪たちよりも優秀ならば、後継者としてもかまわないと思っているよ」

 私はとんでもない事態が起こっている事に気が付いて、さっと血の気を引かせた。

 私を養女に引き取ろうとか、後継者に考えているとかも驚きものだが、それよりももっと重大な事がある。

 どうしよう。私は今、赤毛の女の子のポジションを奪い取ろうとしているのではないだろうか?


「あ、あの。デュラ様」

「私はユイをここに住まわせてから、もしも孫がいたらユイみたいだったのではないかと思うようになったのだよ」

 いやいやいや。

 お孫さんが私みたいな腐女子だったら、たぶんとても問題だと思います。まあ私が腐女子だと知っている人は、この世界にはいないのでいいのだけど。

 アレだろうか。

 私という異分子がこのゲームの世界に入り込んでしまったばっかりに、赤毛の女の子がその立ち位置から追い出されてしまったのだろうか。そうでなければ、道端に転がっていた得体のしれない女が、老紳士に拾われて養女にならないかと乞われるなんてうまい話があるはずない。

 もしかしたらこの世界には、あのゲームの状態に近づけようとする何らかの力があるんじゃないだろうか。異分子である私を追い出せない代わりに、無理やり赤毛の女の子のポジションに納めようとしているとしたら、この展開にも納得がいく。しかし私がここにいる事で弾かれてしまった、あの赤毛の女の子は、一体何処へ行ってしまったのだろう。

「もちろんいきなり答えを出せるものではないからね。もしかしたら帰る場所が何処にあるのか分かるかもしれない。だから今はじっくり考えてみて欲しい。そしてもしもユイが元いた場所に帰る事ができず、私に同情するなら、いつか養子の話を受けて欲しい」

 優しいデュラ様にここまで言ってもらって、NOとつっぱね返す事も出来ず、私はしぶしぶと頷いた。

 でも私が養女となってしまったら、赤毛の女の子はもう元のポジションに戻る事は出来ないだろう。それに、ゲーム通りでいけば私はエレオーと婚約することになるんじゃないだろうか?

 待て待て待て。駄目でしょ、それ。私は異分子で、誰かの幸せ壊してまで、その位置を望んじゃいない。異分子のままで結構だ。

 今分かるのは、私はここに居てはいけないという事だけ。


「デュラ様……。あの、私をデュラ様に拾っていただいた時の事なんですが」

 こうなったら、頭がおかしいと思われても、私が異世界から来て、一番幸せになる未来を知っていると伝えよう。その所為で頭がおかしくなったと思われたなら、逆にデュラ様が私を養女にする事はないはずだ。

「そういえば、ユイは私に聞きたいことがあるのだったね。メイドから伝言はもらっているよ」

 デュラ様の言葉に、私はおずおずと首を縦に振った。

 正直に話した方がいい。頭がおかしくなったと思われた方がいい。そう思うのに、どうしてもためらいができてしまう。私はそれぐらいデュラ様を尊敬していて大好きだから。

 優しい瞳を見ていると、それを絶望に変えたくないと思てしまう。

「どうして、……私が攫われてきたのだと思ったのでしょうか?」

 とりあえず、いきなりこの世界はBLゲームですなんて言えず、ちょと回りくどい場所から攻めてみた。女々しいといわれるかもしれないが、蔑まれた目で見られるのは結構きついのだ。例えここに住んでいないとしても。

 デュラ様も、私が攫われてきたのではないと思えば、少しは私の話も受け入れやすくなるのではないだろうか。

「ユイを初めて見かけたのは、町でだったね。あの辺りは、人さらいのルートになっているようでね、時折逃げてきたものから保護を求められることがあるんだよ。それにユイはあの時ボロをまとっていたが、しっかりとした教育を受けているようだったからね。どこかから攫われてきたのではないかと思ったのだよ」

 ボロっていうか、新聞ですよね。私がぐるぐるに体に巻き付けて転がっていたものだから、ところどころ穴が開いてしまっていた。捨ててもいいかと尋ねられた時は、まだここが異世界だと思いもしていなかったので、私は捨てるようにお願いした。今だったら、高額取引商品になったかもしれないと思うが、後の祭りである。

「攫われた時の記憶はないから不思議に思ったのかもしれないが、とてもつらい体験をするとその記憶を消してしまったりする事もあるそうだよ」

 確かに私はどうやってここまできたのかの記憶がない。

 だから攫われたという証明もできない代わりに、攫われていないという証明もできなかった。


「人さらいのルートって……まだ犯人は捕まっていないのですか?」

 もしも犯人がいたら、私の事など知らないと、その口から聞けるかもしれない。しかし私の期待はあっさりと裏切られた。

「中々尻尾を掴めなくてね。ただ、特殊な種族の子供が餌食になる事が多いようだよ。今私のところへ届いている被害届には、幻獣人の子供や、純潔吸血鬼の子供、人魚族の子供などがいたな」

「だとしたら、私は人さらいにとってはあまり価値がないのではないでしょうか?人族ですし」

 私は人族だ。そして人族だけの国ができるぐらい、数も多いから珍しくはない。

 そんな人族の子供を、しかも平凡顔なものを、あえてさらうだろうか。そもそも、私は子供ですらない。

 よし、その辺りからデュラ様に現状のおかしさを訴えてみようと考えていると、デュラ様が先に口を開いた。

「いや。予想では、ユイは人族かもしれないが、特殊な一族ではないかと思っているよ。ユイのような知識や考え方を持った国は少ないからね。ユイはきっと辺境に隠れ住んでいたのではないかと思う」

「あの。たぶん私は普通の人族ですよ」

 特別何かができるなんてことはない。まったくもって普通だ。髪の色が変わっているとかそう言う事もなく、この国には黒髪黒目の魔族だっている。

「人族にしては、一般よりも成長が遅いようだが?」

 ……また子ども扱いか。

 ハティーの時に判明したが、やっぱり私はこの国基準だと子供に見られてしまうらしい。まあいいけど。若く見えた方が、将来絶対いいはずだし。

「えっと、私は童顔であるだけで」

「そうではなく、髪や爪を、ユイはここに来てから切っていないように思うがどうだろう」

「へ?ああ。まあ」

 そういえば今のところ私は、この国に来てから、髪を切っていないどころか、爪も切っていない。……あれ?私、デュラ様に拾われてから、何カ月たったんだっけ?

 慌てて手を見るが、爪は綺麗にカットされいて、まだまだ切る必要はなさそうだ。髪の毛も相変わらずおかっぱで……前なら月に1回ないし2か月に1回は美容院に行かなくちゃいけなかったのに。

 えっ?どういうこと?

 私自身が気が付いていなかった、自分の異常さに気が付き、私は呆然とした。

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