プロローグ
プロローグ
――人はいずれ、脈を失う。
――形あるものもまた、その輪郭をいずれ失う。
――故に永遠の記憶を持つ悪魔でさえ、いずれ淘汰される。
とある脳科学者は、そんな言葉を残して殺された。
窓の一つない、打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた空間。
チカチカと点滅を繰り返す蛍光灯。雑然と置かれた十数台のモニター――その光は、倒れた白衣姿の男をよく照らしている。
「永遠の記憶を持つ悪魔――。貴方らしい比喩ですね」
死体を見下ろしながら、青年は爽やかな笑みを崩さぬままモニターに視線をやる。
「貴方が生んだプログラムが悪魔なら、僕らは悪魔の親――いや、ただの住人なのかな」
視線の先には、まるで生き物の思考を表すように流れ続ける文字列。
それは今まさに、抜け殻と化した教授の肉体から、別の場所へ記憶が継承されている光景だった。
「現生のしがらみから解放されて、どんな気持ちですか? 教授」
返事はない。
モニター内で走るコードもまた、教授が最期に残した脳波を記憶し続けるだけだ。
青年は教授ではなく、モニターに語り掛ける。
「それはもう、最高な気分でしょうね――だって」
血と火薬の臭いが、狭い室内に染みついている。
「既に貴方も、永遠の記憶を得たのだから――人格はともかく、ね」
片手に握られた、オートマチック式のピストル。
彼はそっとその銃口を、自身のこめかみにあてがった。
「さて、そろそろ僕も、このセカイとおさらばしますか――」
電子音が鳴り響く部屋の中。
最後の銃声が響いたのは、それから数秒のことだった。




