小蘭と仲間達②
小蘭は、彼らに本当に教えていいのかを考えていた。妖魔や魔族との戦いで苦楽を共にした大切な仲間ではあるが、何故か本能で教えてはいけないと感じている自分がいるからだ。
「⋯⋯教えてもいいけど、何かするつもりじゃないよね?まさか父上や光海に言うなんて事はないわよね?」
小蘭がジト目で青栄樹と黄龍麒を見る。
「ああ、絶対に言わない」
「俺も黙ってる」
「天ちゃんは約束できにゃい~!司炎も光海も怖いんだもん!」
天ちゃんだけは馬鹿正直に答える。
「やっぱり言わない!そして女官を続けるから!」
「何でだ!?女官じゃなくてもいいだろ?今のお前を見てみろよ!肥溜め掃除だと!?ふざけるな!!」
「何で私に怒鳴るのよ!ここに配属されたんだもん!それに配属されたからにはこの劣悪な環境を改善するまでここにいるから!」
「「⋯⋯」」
小蘭が頑固なのは二人も重々承知なのでこれ以上言っても無駄だと分かっている。なので問題を早く解決させる為には協力する事が最善の方法だと思い、奥で呆然と立ち尽くしている作業員達の方へ歩いて行く。
「あ⋯こんな劣悪なところに⋯何で⋯」
「お前達は騙されて連れて来られたのか?」
急いで平伏した作業員達に皇子である龍麒が尋ねた。
「は⋯はい。皇宮の仕事を紹介すると言われて連れて来られた場所が⋯ここでの仕事でした。今まで何人もの仲間が死にました。遺体は糞尿と一緒に捨てられました!鬼畜の所業です!」
悔しそうに涙を流す作業員達を沈痛の面持ちで見ている小蘭と天ちゃん。
「⋯⋯そうか。これはあってはならない事だ。報告を聞いた以上、俺が動く。本当に申し訳なかった」
そう言って頭を下げる龍麒を見て驚愕する作業員達。まさかこの国の皇子で、更に英雄でもある黄龍麒が自分達のような者に頭を下げてくれるとは思っても見なかったので畏れ多くて固まってしまう。
「龍麒、まずはここの浄化をしないと衛生環境が悪過ぎる。このままではここから疫病が広まるかもしれない」
小蘭の言葉に頷き、少し考え込む龍麒だがすぐに動き出した。
「小蘭は作業員達の健康状態を診てくれ」
「うん」
「栄樹はこの場所の浄化作業を手伝ってくれ」
「ああ」
「天ちゃんはー?」
「⋯天は俺達を応援していてくれ」
「あい!ガッテン承知の助!!」
「「「⋯⋯」」」
こうして何が起こっているかまだ把握できていない作業員達をよそに、小蘭達はテキパキと動き出したのであった。
「俺も今から麗蘭の元へ行くぞ」
居ても立っても居られない紅司炎は立ち上がると、引き止めようとする高青をひと睨みで黙らせて歩き出す。
「待て!俺も行く!」
「俺も行く」
「俺も行くぞ!」
「私もよ!」
皇帝である龍飛をはじめ、緑光海、青州王、青夫人も司炎のあとを追うように歩き出した。
「お待ちください!あなた方が言ったらそれこそ大騒ぎになります!それに麗蘭様もお怒りになると思いますが?」
高青の言葉にぴたりと歩くのをやめる一同。
「それよりもこの者をいかが致しましょう?」
高青が皇帝の護衛長である霧柔に拘束されている明月に視線を落とした。明月はブルブルと震えて顔を上げられない。
「ああ、叩けば埃が出そうだな。女官長とその周りの女官を徹底的に調べ上げろ」
龍飛の命令に高青が頷き一礼すると、部下を連れて急いで出て行った。
「外の問題は解決された。外を心配する事がなくなったがあとは中か⋯埃だらけなのは俺も重々承知だ。これからは徹底的に掃除するぞ」
「そうだな。外を警戒するのに精一杯だったが、麗蘭達のおかげで解決した。これで中に集中できるな」
龍飛の言葉に司炎も頷く。
「若者が頑張ってくれているのに、俺達が動かないなんて恥だぞ!」
「そうよ!あの毒婦もそろそろ駆除しないと!」
青州王も立ち上がりると、青夫人も不敵に笑う。
「毒婦って⋯一応皇后なんだが?」
青夫人の発言に苦笑いする龍飛だが、決して否定はしない。
「俺は失礼するよ。麗蘭に会いに行かないと禁断症状が出て何するかわからないからな」
緑光海は皆の顔が引き攣るのを無視してさっさと歩き出したのだった。
「このクズ兵士達はどうしよう?」
倒れている数人の兵士を見て小蘭が首を傾げる。
「麗ちゃんがやったんでしょ~?まぁこいちゅらは自業自得だけどね!」
天ちゃんが小蘭をジト目で見ながら、兵士をツンツンしていた。
「天ちゃん、暇ならどこかに捨ててきて」
「ガッテン承知の助!!」
「⋯⋯」
天ちゃんがその小さな指を軽く動かすと、兵士達がふわりと浮き上がった。浮かせたまま指一つで器用に動かしている幼子を目の当たりにして開いた口が塞がらない作業員達。
「よし!皆並んでー!この薬を飲んで!」
小蘭は先ほどの万能薬“漢龍玉”を一人、また一人にと渡していく。それを飲んだ作業員達はみるみると元気が漲り、体が軽くなり体調も一瞬で良くなっていった。
「身体も綺麗にしないとね、うん!水蓮を呼んでこよう!」
『ここにいますよ、主様』
気配なくいきなり姿を現したのは、水色の長髪を靡かせ宙に浮く美しい青年であった。