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中編:占星術師のエルフ幼女 その4

 そう、確かにその占星術師の少女は言った。

 『婿』と。

 婿と言うのは、言わば嫁とは反対の言葉。夫婦で言えば、夫を表す言葉だ。

 そして夫というのは、一般的には男性を指す。


「え、えっと、今何て言った?」

「あなたが良いお婿さんにどこで出会えるか、占って差し上げます」


 占星術師の少女が『婿』と言って当然だ。何故なら、ミカは誰がどう見ても女性だからだ。

 それも、美しくも可愛らしい容姿に定評があるリテール族だ。リテール族は長身であれば美しく、小さければ可愛らしい容姿になりやすいと言われている。

 実際、パーティの中では比較的長身であるショーティアの外見は美しい部類で、低身長であるミカやクロは、可愛らしい部類だ。

 さにミカは、金髪に赤い瞳と、中々に珍しく、そしてなおかつ目を引く外見をしている。

 今のミカの姿は、この大陸に居る大半のヒト種族が『可愛らしい』と認識するだろう。それは当然のことだ。そして、誰もミカが男性などとは思わないだろう。

 しかし、ミカは男性。今でこそ少女の姿だが、れっきとした男性だ。その精神を、ミカは一度たりとも忘れたことが無い。

 だからこそ、占星術師の少女の言った『婿』という言葉が、ミカの心に焦りを生んだ。


「あ、あのな、俺は、別に、婿とかいらないし、そういうの、興味ないんで」


 なんとかミカは取り繕おうとするが、その焦りに占星術師の少女は疑問を抱く。


「なぜですか? その言い方であれば、まるで男性には興味が無いように思えますが」

「えっと、そうだな。うん。興味が無い」

「もしかして、あなたは同性が好みですか。それはそれで良いと思いますが」

「だから恋愛とかに興味が無いんだって!」


 だが、ミカの様子が明らかにおかしいのに、占星術師は気づいているようだった。

 すると廊下を歩き、そのまま広間へと行くと、広間の一部に敷かれた絨毯の上に立ち、踊り始める。

 

「占いの踊りだよな。なんでだ……?」


 そして手にした杖で、絨毯の上をなぞる。逆立った絨毯の毛が、模様のようになる。

 踊り終えた占星術師の少女は、絨毯に描いた魔法陣を見て。


「ふむふむ。蠍、軍神、射手、天命……?」


 首をかしげてぶつぶつと何かを呟いたかと思うと、ミカへと近づき、ミカの姿をまじまじと見始めた。

 

「スカートをはかれてますし、どう見ても女性……」

「どうしたんだ?」

「すみません、失礼します」


 占星術師の少女は両手の指をわきわきと動かしたかと思うと、その両手を、なんとミカの両胸に置いた。そのまま、むにむにとミカの胸元を揉み始める。


「ひゃうっ!? な、何すんだ突然!」

「ふむ。無いわけではない。確かにありますね。では、こちらは」


 そして占星術師の少女は、そのまま片手をミカの下腹部に持って行き、股間に触れた。

 その行為に思わず、ミカも叫んでしまう。


「ひゃああああ! な、何するんだ!?」

「……確かにありません。おかしいですね。占いでは男性と出たのですが……おや?」


 少女が絨毯に描いた魔法陣を、再度目を凝らして見つめた。すると。


「『元』男性? それも、ヒューマンで、二十代後半……」

「……すごいな」


 彼女の占いは当たっていた。その通り、ミカは元男性ということになる。

 そこまで気づかれては、もう秘密にする必要も無いと、ミカは判断した。


「そうだ。俺は元男性だ」

「なるほど。だから喋り方も男性のようだったのですね。ずいぶん容姿に合っていない口調だと思っていました。」


 そして少女はミカの下腹部を凝視すると。


「……切ったのですか?」

「き、切って無い! そういう表現はやめろ! 玉ひゅんって奴だ! 今は無いけど……」

「しかし、体付きなどは、正に女性。何故リテール族の女性の姿なのですか?」

「……呪いを受けちまって、これが随分強力な呪いでさ。聖水でも解呪できなかったんだ」

「呪いですか。聖水で無理となると、わたしでは力になれなさそうですね」


 そして少し考えた占星術師の少女は、改めてミカに尋ねた。


「今はあなたは女性ですが、婿を取ることはないのですね?」

「当然だ。俺は今も心は男のままだ。それに、一時的とは言え男に戻れるしな。だから、興味があるのは男性じゃなくて女性だ」

「わかりました、ではあなたにとって良い嫁とはどこで出会えるか、占ってあげます」


 婿を探すと言われれば、当然ミカは断る。だが、嫁と言われれば、ミカは冗談半分ながらも、まだ受容できた。


「なら、占ってもらおうかな。とは言ってもこんな姿じゃ、恋人なんて出来なそうだけど」

「どうでしょうか。では、あなたが『付き合い、婚約すると、今後の人生が大吉になる女性の方々』に、どこで出会えるか占って差し上げます。どうやら、空模様も丁度良い時間の用です」


 見れば、この十数分間の間に外は既に太陽が沈み、空には星が瞬き始めていた。

 

「来てください」


 ミカは少女に促されるまま、広間を出て、そのまま玄関からパーティハウスの外に出た。

 すると、少女は再度、空を見上げながら踊り始める。


「へぇ……」


 ミカは感嘆した。占星術師、つまり星を見て占うクラス。それは星空の下でこそ、最も力を発揮するクラスでもある。

 本来は星を読み、未来を予見し、適切なヒールや近接戦闘を行う。そして星と星の繋がりである星座の力を用いて、味方にバフを配るのが特徴だ。

 もっとも、ヒール力は純粋なヒーラーに、近接戦の力は、純粋なアタッカーには劣る。その抜群の回避力と高いバフ能力で、味方を長く支えつつ戦うクラスだ。

 そして占う代表的な方法が、踊り。日が出ていれば、遠くの星の力を感知する方法として、日が沈んでいれば、空の星々の力をその身に受けることで、的確に星の動きを読み、占を行う。

 星の力を受けようと夜空の下で踊るその少女の姿。長い白髪をなびかせて踊るその姿は、あまりに神秘的だった。


「綺麗だな……」


 ミカが呟いた所で、少女は踊りをやめた。そして、ミカに告げる。


「占いの結果が出ました」

「どうだった?」

「あなたが『付き合い、婚約すると、今後の人生が大吉になる女性の方々』は」


 その方々。占の結果を、少女はミカに話した。


「今日、このパーティハウスに来た、もしくは居た方です」

「……えっと、それはつまり」

「はい、あなたのパーティメンバー皆です。占いの結果、遠くの町やヴェネシアートにも、付き合うことで大吉となる方が居るとも出ました。しかし、今日、このパーティハウスに来た、もしくは居た方々も、全員があなたに取っても、相手にとっても大吉となる方だと出ました」

「はは、面白いジョークだな。皆、俺なんかに恋愛感情とか抱いてないと思うからなぁ」


 少女の占いの結果。確かにミカは、少女の他の占いが当たっていたことに驚いた。しかし、リーナの時に、彼女は占いでジョークを言った。彼女は『マジメです』と言ったが、おそらくジョークだろう。ゆえに、この占いの結果もジョークだとミカは判断した。

 だが、占星術師の少女は。


「わたし、マジメです」

「あはは、わかったわかった。あれ、でも待てよ? その理屈だと、君も俺のお嫁さん候補になっちゃうが」


 そう言われて、占星術師の少女は顎に手を当て、上を見て考える。次に、下を見て考える。最後に、斜め上を見て考える。そして、ミカの顔を見たかと思うと。

 まるで一瞬でゆであがったかのように、ボッと音が鳴ると錯覚したかと思うほどに、一気に顔が真っ赤になった。それも、無表情のままでだ。


「そ、そ、そうですか。いえ、わたしは、きっと、候補ではないです。はい」

「どうした? 何か焦ってるみたいだが」

「いえ、なんでも、ありま、せん。こういう話ば自分に向けて、はじめてなだけ、でして」


 と、ミカはなぜか恥ずかしそうにしている占星術師の少女に、首を傾げた。

 その時だった。パーティハウスの玄関から、顔を出す人物が一人。それはショーティアだ。


「ミカさん、そろそろ広間でその子の呼び方を決めてあげませんか? 皆さんも集まっていますわ」

「そうだな。空も暗くなったし、そうするか。それじゃ、広間に戻って……」


 と言ったところで、ミカよりも先に、玄関の中にスタスタと入って行く、占星術師の少女。まるでミカの顔を見ないように、顔を背けて入っていった。


「……どうしたんだ? いったい」


 そんな少女の背中を見て、ミカは呟いた。

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