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中編:ダルフィアからの手紙 その1

「うーん……」


 ある日の昼のパーティハウス。ミカは考え事をしていた。

 それは朝に届いた一通の手紙のためだ。

 この日の朝、パーティの皆がミカ以外誰も起きていないタイミングで、海軍の兵士がパーティハウスへやってきて、一枚の手紙を渡された。

 その手紙の送り主の名前を、ミカは知っていた。


「リマからの手紙か……」


 ダルフィアで出会った、ブラックマーケットや闇オークションを取り仕切る、オーガ族の女性だ。

 そして手紙の中には、『明日、ミルドレッドにヴェネシアートの波止場で会いたい』と書かれていた。

 ミカは思い出す。ダルフィアでリマに出会った際、彼女は『ミカに詫びたい』と言っていた。それは彼女がミカに過去に行った所業だ。

 彼女が誘拐された際、それを助けたミカを、自分の手柄とするために犯人扱いしたのだ。

 それについて詫びたいと、彼女は翡翠色の男性を探していた。翡翠色の瞳、それはミルドレッドの事だった。

 そしてその際、身に着けた呪い耐性のある首輪の影響で、黒髪の猫耳少女になっていたミカは、ヴェネシアートの海軍を通して『ミルドレッドの弟子に連絡』するよう、彼女に伝えた。

 その結果、こうしてリマから手紙が届いた。


「たぶん、詫びたいってことだよな」


 ミカはパーティハウスの中を歩き回る。手紙を受け取り、明日リマと出会うことになる。

 ミカは聖水を飲み、一時的に男性に戻れている間にリマと出会うことにした。しかし、出会ったあとの事を考え、悩んでいた。


「許す、べきなのか? それとも……」


 リマが自分に会いたい理由は、自分に詫びたいためだ。

 だがミカは考えてしまった。


「一方的に許してほしいって言われてもな……」


 彼女のしたことは、ミカの心に大きな傷を残した。

 それだけではない。彼女はこのことについて『自分は子供だった』と子供だったことを盾にし、さらに自分に詫びたい理由も、占星術師に占ってもらい、『ミカに詫びて許してもらわないと、全てを失う』と言われたからだ。なにも、自分で詫びたいとか、謝りたいとかは思っていない様子だった。


「なんだか……簡単には許したくない」


 かつての、紅蓮の閃光に所属していた頃のミカなら、理由も無く許しただろう。

 他人のミスを理由なく許し、そして自分に責任を背負いこむ。その結果が、紅蓮の閃光のメンバーが激しく増長し、ミカを軽視し、最終的に紅蓮の閃光から追放されたことの一端にはなっている。

 だがミカは今、青空の尻尾に所属し、優しく、自分を慕い、時に注意してくれるパーティメンバーのもとで、冷静に自分の境遇を考えられるようになっていた。

 

「はは、俺もちょっと性格、悪くなったかな」


 ミカはリマに対してどう対応するか悩みながら、パーティハウスの中を歩き回っていた。

 廊下を歩いている最中。


「あらあら、ミカさん」

「あ、ショーティアさん」


 廊下の向こう側から、ショーティアがやってきた。ミカはショーティアに呼び止められ、談笑を始める。


「今日は依頼の予定もありませんし、皆さん自由に過ごしてますわ。ミカさんのご予定は?」

「いや、俺も特に予定は無い」

「ではわたくしのおっぱいを揉みます?」

「いや、いい。ちょっと考え事をしててな」

「あらあら、何を考えられているのです?」

「大丈夫。これは俺の問題だ。皆には迷惑かけないよ」


 そうミカが返答すると、なぜかショーティアの口元がムッとした。すると、ショーティアはミカの手の中にある手紙を見ると、なぜかミカの背後にまわり。


「あらミカさん、尻尾に糸くずがついていますわ」

「ん? 取ってくれるのか? ありがとう」


 と、ショーティアがミカの尻尾に手を伸ばす。しかし尻尾には糸くずなぞついておらず、ショーティアは勢いよくミカの尻尾を握りしめた。


「に゛ゃっ」

 

 ミカがおかしな声を上げながら、体を硬直させる。その反動で手紙を落としてしまったが、床に落ちる前に、ショーティアがそれを空中でキャッチした。


「あっ、ショーティアさん!?」

「あらあら……これはダルフィアからの手紙ですわね。波止場で待つ、と。差出人は……リマという方からですわね。ダルフィアのリマ……確かミカさんに以前お話頂いた、闇オークションを取り仕切っている方ではありません?」

「……ああ、そうだ」


 ミカはショーティアの言葉に、首を縦に振った。するとショーティアは、ミカに優しい笑顔を見せて言った。


「ミカさん、何か悩んでいることがあれば、わたくしたちにご相談ください。自分だけの問題だ、だなんて言わないでくださいまし。もちろん、無理は言いません。ですが、話して頂くことで、ミカさんのお手伝いをしたり、何か解決法を一緒に考えたりできるかもしれませんわ。ミカさんはとても強く、わたくしにとって、一番の冒険者です。ですが、ミカさんも一人の人ですから」


 ショーティアが優しく、ミカを諭した。そんなショーティアの言葉を聞いて、ミカは。


(……確かに、もし聞いてもらえるのなら、皆にも意見を聞いてみたいな)


 ミカとしては、リマにされたことや、彼女が謝りたい理由から、彼女を簡単には許したくはない。でも、ミカの中の優しい部分が、彼女を許すべきだとも考えている。

 だとしても、彼女にどう伝えるか。それとも許すべきなのか。許さなくていいのか。一人で考えているだけでは心のモヤモヤも晴れないし、このままリマを許しても許さなくても、モヤモヤは残るに違いない。


「……すまないショーティアさん。相談させてくれ」

「あらあら、いいですわ。いかがなされましたか?」


 ミカは現在の自分の状況をショーティアに話した。リマの事、リマに過去にされたこと、リマが謝りたい理由。そして、明日リマに会うこと。

 一通り聞いたショーティアは、深く悩みこんでいた。


「難しいお話ですわ……わたくしとしては、そのような理由で許しを請おうなどと、おこがましいと思いますわ」

「ショーティアさんはそう思うんだな」

「ええ。ですがミカさんが、よろしければ、他の皆さんの意見もお伺いするのはどうでしょう」

「そうだな……もし皆が良ければ、だが」


 ミカがショーティアに言うと、ショーティアは手をパンと叩き、何かを思いついたように言った。


「では、青空の尻尾、パーティ会議を開きましょう!」

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