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15話 猫耳パーティと品評会?

「あ、アンジェラが何故ここに」


 少し困惑の表情を浮かべるミカ。

 審査員の席に座っているのは、アンジェラと、貴族と思しき二人の男性だ。

 一人は白い髭を生やした高齢の男性、もう一人はダンディな髭が特徴的な、50代ほどの男性だ。

 レストランの中には『ドドドドドド』という音が響き渡り、まさかのアンジェラと居合わせた酒場の冒険者達の熱狂は凄まじかった。

 ミカ、クロ、ルシュカ、それぞれ皆、二階の柵に寄りかかり、下に行われている品評会の様子を見ていた。


「ミカ、それにしても不思議だ。何故この店で品評会が? 他にもっと高級で良いお店とかがありそうなのに」

「俺もそのあたりは聞いたことが無いな」


 ミカが言うと、隣に居たルシュカが「ふふん」と胸を張って。


「これはこれは、自分の中の物知りルシュカちゃんを発動するときがやってきたでありますな!」

「お、おう。なんだいきなり」

「発動の許可をお願いするであります! ミカどの!」

「……期待してるよ」


 すると、ルシュカは得意げに語り始める。


「皆さんは、ユートピアアイランドという島をご存じでありますか!?」

「僕でも知ってるよ。アーモロート海列車で行ける、世界最大の娯楽都市のある島だね」

「そうであります! そのユートピアアイランドが娯楽都市となった所以、それはその島で大昔より行われていた、美食の祭典であります!」

「俺も何度か行ったことがあるが、確かにあそこは食事で有名だな」

「そしてそして! ユートピアアイランドでは、世界一の美食の大会が行われるであります! そして世界中から集められた審査員を通し、生えある殿堂入りに輝いたコックは、ユートピア中央にある美食殿と呼ばれる建物に銅像が作られ、コックとして最大の名誉が与えられるであります! そしてそして、最初にその栄誉に輝いたのが」


 ルシュカが地面、つまりこの場を指さした。


「このレストランでアルメリーザで若い頃にコックをしていた、冒険者なのであります! それ以来、ここではそれを記念してか、こうして品評会が行われるであります! 以上! 物知りルシュカちゃんでありました!」


 すべて語り終え、なぜか深々と頭を下げるルシュカ。それを見てミカとクロは、思わず小さな拍手をしてしまった。ミカもシンプルに、賞賛する。

 

「すごいなルシュカ。よく知ってたな」

「いやはや、このお店の名前を聞いたときから、どこかで聞いたことある名前と思っていたであります! 下の品評会の様子を見て、思い出せたでありますよ!」


 と、ルシュカが話している間にも、レストラン内の盛り上がりは強くなっていた。なおも、室内には『ドドドドドドドドドド』という音が響き渡る。


「おや? さっそくコックが出てきたであります! おそらくあの方が、今回料理の品評をしてもらうコックであります!」


 ミカが下を見る。そこにはコックの衣服を身に着けた老人が。料理を運ぶためのワゴンに、銀の蓋で塞がれた皿が三つ。

 そんな老人を見てミカが。


「げ」


 思わず呟いてしまった。どこかで見た老人だったからだ。

 すると、下では立ち止まった老人が口を開く。


「この度は品評会にお呼び頂き感謝致します」


 丁寧に感謝を述べた老人に対し、審査員らしき白髭の老人が答えた。


「ほっほっ。懐かしいのぉ。昔、ここで同じように料理を食べ、お前をユートピアの大会に斡旋したわい。今やお前も、年老いたと共にヴェネシアートの三ツ星シェフ。斡旋した身としても、鼻が高いぞい。して、突然自らまたここで品評会を開きたいとは、いかがしてなのだ?」

「はい、正直にお話させて頂きますと、初心に戻りたい一心ですじゃ」

「初心とな?」

「実は、顔を知らぬものの、ワシ以上の料理人がヴェネシアートに現れ、極上の香りだけ残してゆくのですじゃ……香りだけでも敗北をわかるほどの腕前。故に、一度初心に戻りたく、こうしてワシの始まりであるこのレストランで、品評会を開かせてもらった次第ですじゃ」

「ほっほ! お前以上の腕前か! しかし、初心に戻るとは良いことじゃ。関心関心」


 と、昔話に花を咲かせる老人二人に対して、ダンディな髭が特徴的な男性は興味がなさそうにすまし顔だ。そしてアンジェラは。


「おなか……すきました……はやく……たべもの……ください」


 テーブルの上に突っ伏して、料理が来るのをひたすらに耐えていた。

 そんなアンジェラを見たクロが。


「ねぇ、何で敬語なのかな」

「あいつは極限まで腹が減ると敬語になるんだ」

「なんで?」

「さあ?」

「そもそもなんでお腹をあんなに減らしてるのかな」

「あいつは大体9割がたお腹を空かせてるぞ」

「なんで?」

「さあ?」

「あともう一つ聞きたいんだけど」


 室内に響き渡る、『ドドドドドドドド』という音。


「この音は?」

「ああ、これは」


 ミカがアンジェラを見る。耳をすませば、その音はアンジェラの方角から。


「これはアンジェラの腹の音だ」

「なんで?」

「さあ?」


 そしてなおも下では、若い頃の思い出話に花を咲かせている老人二人。王女だというのに放っておかれるアンジェラ。


「たべもの、おりょうり……」


 いつまで経っても料理を食べられないアンジェラの姿。すると、ミカ隣に居たクロが。


「そういえばおやつ替わりに持ってきたシナモンスティックがあるよ」

「ああ、俺が宿のキッチン借りて作ったやつか」

「なんか品評会のせいでデザートも来ないし、これでも食べて……わっ!」


 そのとき、クロ側背後を別の冒険者らしき男性が通った。その男性の背中に当たってしまい、クロは下の階へシナモンスティックを落としてしまった。

 その瞬間だった。


「たべもの!!」


 独特の香りを放つシナモンスティックをアンジェラが最初に感知した。

 しかし、アンジェラだけではない。


「こ、この香りはシナモンスティック! この香りは……間違いない、間違いなくワシ以上……四つ星級の香り……間違いない! ヴェネシアートの!」


 コック帽をかぶった老人が反応し。


「なんじゃこの香りは! か、香りだけでよだれが……たまらん!」


 白髭の老人が反応した。

 皆の視線は、二階から落ちてくるシナモンスティックに注がれていた。

 老人二人はその外見からは想像できないほど機敏な動きでシナモンスティックを追う。

 しかし、アンジェラにはかなわない。アンジェラはシナモンスティックが落ちるより早く、いや、落ちる以前に空中にあるまま、大きくジャンプし、そのまま頬張ってしまった。

 その時、二階近くまでジャンプしたアンジェラとミカの視線が。


「あ」

「むぐっ?」


 そして一階のテーブルに着地したアンジェラ、そのまま満面の笑みを浮かべると、腰に手を当ててこう言い放った。


「ウマい!!」


 そして笑顔になったアンジェラの後ろでは老人二人が。


「どこじゃ! ワシを越える料理人は!」

「ほっほ! ぜひともあのシナモンスティックを食べてみたい! どこにおるのだ!」


 シナモンスティックを作った主を探していた。それはつまりミカのことで。


「クロ、ルシュカ、そろそろ行こう」

「わ、わかったよミカ」

「む? 何故でありますか?」

 

 疑問符を浮かべるルシュカの手を引きながら、そそくさと支払いを済ませて退店しようとする三人。

 そして店から出ようとしたとき。


「おや? 君はルルーチェ家の」


 誰かが発したその言葉に足を止めたのは、ルシュカだった。ミカが立ち止まり、ルシュカに尋ねる。


「どうしたルシュカ」

「……」


 ルシュカは黙ったまま、自分に話しかけてきた男性の方を見た。

 そこには、先ほど品評会の審査員をしていた、ダンディな髭を持った貴族らしき男性の姿が。


「うるさいから出てきてみれば、まさか君に会えるとは」

「……お久しぶりであります、ロミアス・ウォルフマナルフ殿」

「勘当されたと聞いていたが、元気そうではないか」

「……両親のおかげであります」

「では君からも、早く借金を返すよう、父親に言ってはくれまいだろうか。勘当されたとはいえ、ルルーチェ家の娘だ。父親も話くらいは聞くだろう」

「……」


 ルシュカは黙ったまま、顔を男性からそむけた。そんなルシュカを見て男性は。


「何も言わぬか。これだからリテール族というものは」

 

 その言葉に、ミカとクロが身構えた。そしてその顔には、怒りを露わにしている。

 しかしそんな二人を見ることさえなく、ロミアスという男性は。

 

「私はあの暇なじいさんに仕方なくつきあって来たというのに君は気楽そうだ」

「そんな言い方はないだろ」

 

 と嫌味をぐちぐち言う男性に、ミカが言った。すると男性はミカの方を見て。


「おやおや……幼い容姿、幼い体、幼い顔。ウェーブのかかった美しい金髪に、赤い瞳。なかなかに珍しく、かわいらしくも生意気な小娘だ」

「聞いた感じだと、ルシュカの親に金を貸したみたいだが、ネチネチとルシュカにそれを言うのはお門違いだと思うが?」

「み、ミカどの……」


 完全に委縮していたルシュカ。その前に、ミカが立つ。


「普通、勘当された娘に、父親の皮肉や恨み言を言うか? 当の父親から勘当された娘なんだ。ただ当てつけにしかならないだろ。それにリテール族というのは関係ないはずだ。一人の大人なら、そのあたりわきまえるべきなんじゃないか? 貴族なんだからよ」

「……生意気な小娘だ」


 と、今にもロミアスが今にもミカに手を出すかに思えた。

 ミカは考える。さてどうしよう。素手でも相手を気絶させる魔法くらいは使える。しかし、言葉で言うならまだしも、こちらから先に手を出すと、あとでいろいろと不利になる。

 少なくとも目的であった、相手の敵視を自分にかせぐことはできた。なんだかんだ貴族の優位性が残るバレンガルドだ。こちらが被害を訴えても良い結果にならない可能性もある。

 なら、自分に防御バフでも張って気が済むまで適当に殴らせるのもありか。

 とミカが考えていた、そのとき。


「そのくらいにしておいたらどうかしら? ウォルフマナルフさん?」


 そう言って店の中から現れたのは。


「これはこれはアンジェラ王女様」

「この子達は私の友達なのよ。あまりいじめないでくれるかしら?」

「ほう、王女ともあろう方がリテール族と友人などと」

「そうね、復権派と噂のあなたには、理解できないかもしれないわね」


 と、アンジェラが何やら皮肉めいたことを言うと、男性は一瞬ばつが悪そうな顔を浮かべ、すぐに笑顔になった。


「ではお友達に出会えたようですし、これにして失礼させていただきましょう」


 そう言って、ロミアスはその場を去っていった。

 すると、アンジェラはミカ達の方へと振り返り、明るい笑顔を浮かべて言った。


「久しぶり! ちょうどよかったわ、あなたたちと話したかったのよ!」

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