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14話 サポートヒーラーとグリモアの行方

「取引履歴が無い?」


 ミカが商人ギルドの受付、ヒューマンの女性に聞き返した。

 しかし受付の女性は、同じ言葉を返すのみ。


「はい。ミカさん。あなたのパーティは商人ギルドと契約しております。なおかつ、ミルドレッド・カルヴァトスの弟子というあなたには、取引された彼の物品の情報をいつでも渡すよう、王女からの要請もありました。ですが、今回お問い合わせ頂いた、カオスグリモアの情報は残っておりません」

「ミカ、どういうことかな」


 ミカは、自分のグリモアは商人ギルド経由でマーケットに出品されたと考えていた。

 

「他の装備とかの情報はあるか?」

「はい、あります。ですが、『Sランク冒険者の割には低級の装備だった』と残っていますね。低価格で売却済みです」

「そりゃ、あの時はまともな装備をさせてもらってなかったしな……」


 だが、やはりグリモアの情報は無かった。そして、受付の女性が言葉を続ける。


「カオスグリモアと言えば、学術士の最上級装備の一つ。学術士は最近、不遇とされているクラスですが、需要が無いわけではありません。たとえパーティを追放された冒険者のものであったとしても、買い手は数多く居ます。それこそ、ごくまれにブラックマーケットで流通しているとも……」

「ブラックマーケット?」

「あ、いえ、今のは忘れてください。ただの噂ですから」


 ミカとクロはどこか腑に落ちないながらも、商人ギルドを出た。


「クロ、次は冒険者ギルドに行ってみよう。何か情報があるかもしれない」


 そう言ってミカは、次に冒険者ギルドへと向かった。

 

〇〇〇


 やってきたのは、やはりヴェネシアートの冒険者ギルドよりも数倍はある、バレンガルド冒険者ギルドの本部の建物。

 受付でミカ、もといミルドレット・カルヴァトスの装備の行方について、受付の男性に尋ねたミカであったが。


「そちらに関してはお答えできません」


 商人ギルドの時とは打って変って、情報を何一つ聞き出せなかった。


「ミカ、どうしようか」

「有用な情報は得られないんじゃないかと思ってたが、まさかこれほどとはな」


 装備の行方を聞くというのは、別におかしいことではない。

 パーティを追放された冒険者の装備品を、他の冒険者が買いたいと申し出るのは珍しいことではない。

 受付に尋ねれば、商人ギルドのマーケットに出しただとか、装備は元のパーティの所有物になったとか、何かしらの情報が聞けるのが普通だ。

 受付から離れてクロと話していたとき。


「ん?」


 先ほどの受付の男性の元に、鎧を着込んだ冒険者の姿が。

 おそらくはBランクほどの冒険者だろう。その冒険者が、小さな袋を受付に渡すと、受付は笑顔を浮かべ、その冒険者を建物の奥へと案内した。

 その様子を見ていたミカが、ため息をつく。


「そうか……ランクと賄賂か」

「ランクと賄賂?」

「思い出したよ。ここじゃ顕著だ。低ランクの冒険者は話しすらしてもらえない。賄賂さえ渡せば別だが」


 王都の冒険ギルドは、本部でありながら最も腐敗が進んでいる、と一部の冒険者には有名であった。


「ミカ、それじゃどうやって装備について聞き出そう。僕たちも賄賂を?」

「いや、やめておこう。どのみちCランクじゃ、賄賂を取られて、情報をもらえないまま終わる可能性も高い」

「……この冒険者ギルドは、居てあまりいい気分じゃないね」

「だが、調べる方法は他にもある。情報を売り買いしている情報屋や、他の冒険者に尋ねてみるのも手だ。どちらにせよ、すぐに取り戻すのは難しいか。素材集めて、ある程度のグリモアは製作しておいた方が良さそうだな」

 

 そう言って二人が冒険者ギルドを後にする。

 大通りを歩きながらこれからのことを話していたとき、クロが何かに気づいた。


「ルシュカじゃないか」

「おやクロどのにミカどの! 奇遇でありますな!」


 それはルシュカだった。

 偶然合流したルシュカは、そのままミカとクロと共に歩き出す。そして二人はカオスグリモアの件を話、ルシュカはそれに「うむむ」と唸った。


「冒険者ギルドの腐敗のお話は常々伺っていたでありますが……ひどいでありますな!」

「それは僕も同意だよ。ところでルシュカはどこに向かってたんだい?」

「自分はちょっと、食事をしようとしたのですがギニーが無く、宿に戻ろうかと……」


 そのとき、ルシュカのお腹がグゥと鳴った。そんなルシュカに、ミカが疑問を投げかける。


「結構な小遣い、ルシュカ持ってたよな? 何に使ったんだ?」


 するとルシュカは、ばつが悪そうに愛想笑いを浮かべて答えた。


「あはは……ちょ、ちょっと散財しちゃったであります」

「なら俺たちと一緒に食事といこう。幸いまだ持ち合わせはあるしな」


 そう言ってミカが、大通りにあった一つのレストランを指さした。


「ミカ、大通りのレストランは高いんじゃ」

「大丈夫。ここは俺も良く来てた店だ。外見はレストランだが、中は冒険者向けの酒場っぽくなっててな。それでもちょっと上品だが、値段の割に美味い店だ。食べて行こう」


〇〇〇


「おおー! おいしいでありますな!」

「だろ? ここ、王都の冒険者の間では結構有名なレストランなんだよ」

「でも、ミカの作る食事の方がおいしいけどね」


 店の内装はレストランと酒場を合わせたような内装だった。

 二階建てとなっており、中央は吹き抜けになっている。壁にはマナストーンで光るランプが取り付けられており、ろうそくの炎にも似たそのランプの灯で、室内はほどよく照らされていた。

 テーブルこそレストランにありがちな丸テーブルだが、椅子は冒険者が好みそうな木製のひざ掛け椅子だ。

 そんなレストランの二階で、ミカ達は食事を取っていた。

 

「ここは茹でチキンが有名なんだ」

「ほどよい塩っけににハーブの香り……それでいて骨のついたチキンゆえのガッツリ感……たまらないであります!」

「本当に美味しいね。でもミカ、キミは食べないのかい?」


 ミカはチキンの付け合わせに出されたパンを一口二口食べただけだ。


「ああ大丈夫。口に入れてみたら、意外とお腹いっぱいでさ」

「ミカ、いつもそう言って食事をあまり食べないよね」

「む? そうだったでありますか? 食べないとダメでありますよ! 大きくなれないであります!」

「いや、でもなぁ……そうそう、この体になってから食欲沸かなくてな」

「まぁまぁルシュカ。ミカに無理して食べさせるのも良くないよ」


 食事を取りながら談笑していたときだ。


「なんだか騒がしいでありますな」


 ルシュカが、周囲にあわただしさを指摘した。

 見れば周囲で食事を取っていた冒険者たちが、吹き抜けの見える柵の位置まで移動していた。


「ん? 何かあるのか?」

 

 ミカが疑問を口にすると、周囲に居た冒険者の青年がミカの独り言に気づき、答えた。


『ああ、どうも飯の美味さを評価する品評会が行われるらしいぜ』

「あー、そういえばたまにここで開かれるって聞いたことがあったな。居合わすのは初めてだ」


 ミカが柵に手をかけて一階を覗き込む。見れば、通常であればピアノやダンスなどが披露される一階のステージにはテーブルと椅子が並べられ、そこには審査員らしき三人の人物が居た。


「あのヒューマンの男二人は貴族っぽいな。確か食通として有名な貴族が評価に招かれるとか。確かもう一人はゲストだったかな? 今回のゲストは」


 そのゲストの姿を見るミカ。そして周囲の冒険者がざわつく。そう、今回の品評会のゲストというのが。

 美しいオレンジ色の髪を持った女性。その名も。

 

「さあ、早く料理を出しなさい! 待ちきれないわ!」


 バレンガルド王国の王女、アンジェラであった。

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