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13話 サポートヒーラー、学術士を語る

 温泉にて人狼に襲われた一件から四日が経った。

 その日、青空の尻尾の面々は、王都ヴェネシアートへとやって来ていた。

 そして今、ミカはクロと共に、王都の商人ギルド本部へ向かって大通りを歩いていた。


「にしてもよかったのかクロ。せっかくの王都だ。別に俺と一緒に行動しなくても良かったのに」

「いいんだ。ソーサラーである僕としても、ミカが以前使用していたグリモアを真っ先に見たいからね」


 ミカは紅蓮の閃光を追放される際に奪われた、かつて使用していたグリモアを取り戻すため、王都へとやってきていた。

 当初は自分だけで行くつもりだったが、青空の尻尾の皆が、リバウンドの影響が残った『ミカを放っておけない』とのことで、家をハウスキーパーに任せ、全員がついてきた。

 まるで過保護のような扱いを受けつつ王都へ向かい、馬車よりも速く移動できる竜車を利用したこともあり、ようやく本日、バレンガルド王都へとやってきたところだった。

 バレンガルドに着いたところでミカが各々行動しようと提案し、ようやっとミカは過保護から解放されたところだった。


「ところでミカ、何故商人ギルドへ行くんだい?」

「単純な話だ。俺は追放審査で追放され、財産を奪われた。おそらく俺の元パーティ、紅蓮の閃光は、思えば道具の管理はずさんだったし、たぶん冒険者ギルドに俺の道具を現金化させたんじゃないかって」

「なるほど。だから商人ギルドに行くんだね」

「ああ。冒険者ギルドに買い取られた道具は、商人ギルドを通してマーケットに売られるんだ。まずは王都のマーケットに出てるか調べて、もし無ければ、商人ギルドに尋ねてみるよ。幸い商人ギルドとうちのパーティは契約してるし、誰に売られた、どこに売られたくらいはわかるはずだ」


 と、ミカの話を聞いて、クロが首を傾げた。


「ねぇミカ。そのグリモア……『カオスグリモア』だったかな? それはもしかして、ミカが作ったものかい?」

「ああ、そうだが」

「ならもう一つ作るのはどうかな」


 クロの言葉を聞いて、ミカは肩を落とした。


「残念だが、難しいんだ」

「なんでだい?」

「簡単に言うと、素材が手に入らない。なにせ、大空洞産の素材を使ってたからな」

「大空洞!?」


 クロが驚愕する。

 大空洞と言えば、冒険者の憧れのダンジョンであり、なおかつ最難関とも言われるダンジョンだ。


「俺も一応は元Sランクだ。大空洞の探索……つまりは大攻略に、紅蓮の閃光で参加したことがある。ドランク達に足を引っ張られて、結果は散々だったが」

「つまり、そのときに手に入れた素材で作ったんだね」

「ああ。とはいえ、あの時はドランクたちに言われて、ドランクたちの装備を優先的に作ったからな。俺が作れたのは本、つまりはカオスグリモアだけだった」

「そうなんだね……それにしてもカオスグリモアか。確か、カオスは強い闇属性を意味する言葉だったかな。あれ? ということは闇属性の本なのかい?」


 クロが疑問を尋ねると、ミカは「ああ」と肯定した。するとクロは何かを思い出したかのように。


「そうか。確かソーサラーの持つ本と、学術士の持つ本は属性が違かったね」

「その通りだ」

「このあたり、実はあまり詳しくないんだ。それに学術士の歴史とかもしらない。良かったら商人ギルドに着くまでの間、教えてもらえないかな」

「勉強熱心だなクロは。それじゃ、解説でもしようか」


 ミカは、学術士、そしてソーサラーの持つ武器の属性の違いについて語り始めた。


「クロは、学術士とソーサラーが同じ系譜の魔法使いなのは知ってるよな?」

「知っているよ。だから、同じ本を使うんだろう」

「その通りだ。最初に生まれたのは学術士。正確には『魔城学術士』だな。城を守る軍学から派生して、城を守る魔法障壁が生み出された。かつては城の中央に設置された、魔力を多量に含んだクリスタルの前で魔法を詠唱し、障壁を展開していた。だが、海戦が多くなった時代になり、城ではなく船を守る必要が出てきた。その時にクリスタルの代わりに用いられたのが」

「本だね」


 ミカはクロを指さしながら、笑顔で「正解」と言った。


「最初は船の中央に台座を置き、その上に本を載せ、魔城学者が船にバリアを張ったんだ。さらに時代が進み、各地に突如としてダンジョンが現れ、傭兵と呼ばれていた者が『冒険者』と呼ばれるようになった頃には、船ほどではないが、小さな冒険者の集まり、つまりパーティを守る必要が出てきた。となると、まさか本の台座を持ち運ぶ分けにはいかない」

「だから、本だけを手にしたんだね」

「ああ。あとで話すが、学術士というのは強い闇属性の魔法をバリアに変換する。本という、リバウンドをカバーする道具は必須だったんだ」


 二人が話していると、偶然にも王都の武器屋の前を通りかかった。

 高級武器屋なのだろう。珍しく、店の中をガラスごしに見ることができる店だった。そこには、様々な武器が並べられている。

 その中のうちに二つを、ミカは指さした。


「まずあの杖。杖の先に本がついてるだろ?」

「あれは確か『杖本』だったかな?」

「そうだ。あれは学術士の武器の一つだ。杖の下に魔力を集中させて地面に立たせることで、台座のように扱うことができる。魔力の消耗が大きくなるが、バリアの耐久力やリバウンドへの耐性が極めて高い。取り回しは……まぁ良くはないのが欠点だ。そしてもう一つが」


 ミカが指さしたのは、本棚だ。


「俺がいつも使ってる本、グリモアだ。魔法の消耗が少ない分、バリアやリバウンドへの耐性は低い。だが、取り回しの良さは抜群だ」

「うーん……確かに、あの杖本、ちょっと持ちづらそうだ」

「とまぁ、ここまでが学術士の歴史だ。それで扱う属性なんだが」

「さっき言っていたね。闇属性を扱うと」


 ミカが右手を開く。すると、そこからは学術士のスキルの一つである、回復術式を使用するときに現れる淡い光が。


「み、ミカ! 素手ではリバウンドが……」

「大丈夫大丈夫。極限まで低出力にしてるから、リバウンドは発生しないよ」

「そ……そうか。そういえば、闇という割には、ミカの回復の光は綺麗だよね」


 ミカの手から現れている光は、淡い緑色をしていた。これはミカが回復系の魔法を使用するときに現れる光だ。


「闇は『活性』の力がある属性でな。魔城学術で使うバリアは、活性の力を持つ闇属性の魔力を変換して、物質や魔法を弾く障壁を作ったり、回復魔法に使ったりするんだ。変換後の魔法の色は体質によるんだが……男の時は濃い紫だったんだが、この体になってから、なぜか緑になったな……」


 しかしその淡い緑に光は、どこか心を落ち着かせるものだ。


「そして闇や光と言った、『無色系統』と言われる魔法は、人の体に浸透しやすく、回復魔法に向いてるんだ。だから大昔の学術士は、魔法障壁が必要の無いとき、癒しの専門家である聖魔導士ほどではなくとも、ヒーラーとして人を癒していたとか。その技術が今も残って、学術士はサポートヒーラーという立場になったんだ」

「なるほど……闇属性を強化するために、闇属性のグリモアを使うんだね」

「ああ。学術士本体は闇の魔力を出力し、それを闇属性の本を通してさらに強化する。聖魔導士が完全な光属性の魔法使いだから、似ているようで相反するクラスと言えるな」


 すると、クロは自分の腰部分、ホルダーにかけた本を手に取った。


「ソーサラーは闇と光の混合魔法を使うんだよね」

「ああ。かつて元素魔法が栄え、元素魔法への対抗手段が充実してきた時代、元は学術士だった魔法使いが、『属性耐性の影響を受けない魔法』を創り出したのがきっかけらしい。ソーサラー本体が闇属性の魔力を出力し、光属性の本を通して攻撃魔法に変える。いわゆる新生魔法ってやつだ。戦いでは取り回しが重要だ。最初から本を武器にしていたと聞く。だから、学術士は闇属性の本、そしてソーサラーは光属性の本を持つんだ」

「そうか、つまり僕の本は、キミには使えないんだね」

「そうなるな」

「ちょっと残念だな」


 と、二人が話している間に、何時しかひときわ大きい建物の前に来ていた。


「さぁ着いたぞ。王都の商人ギルドだ」

「……さすがに大きいね」


 ヴェネシアートの商人ギルドの数倍はあろうかという建物。多くの人々が行きかうその建物に、二人は足を踏み入れた。

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