表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/119

11話 サポートヒーラーとリバウンドの影響

 夜が明けて。あの人狼による被害が、凄まじいもとだということが明らかになった。

 人狼が通ったと思われる森は、木々がなぎ倒され、その力が強烈であったことが明らかだ。

 人狼に襲撃された、ミカたちが居た温泉宿。そこを除けば、幸いにも人的被害は無かった。

 ミカとショーティアの的確なバリアとヒールにより、幸いにも死亡者は居なかった。それでも、負傷者は少なくなかった。

 

「ここが、あの爆発の現場か」


 翌日の昼。ミカとショーティアは、おそらくはあの人狼が原因であろう、昨日起きた爆発の現場へとやってきていた。

 残りのメンバーは、パーティハウスで休息を取っている。


「ひどい状況、ですわ」


 ショーティアが言う。実際、現場は凄まじい状況だった。

 爆発はおそらく地面の下で起きたのであろう。周囲の地面は広範囲にわたって陥没し、消し炭になった木々で黒くなっている。

 現在はその周囲を、ヴェネシアート直属の兵士たちが調べていた。


「ミカさん、思うにあの人狼は、ここから現れたのでしょうか」

「そこは調べてみないと、だな」


 二人が話していると、その二人に割って入るように、背後から話しかけてきた人物が居た。


「また、君たちに助けられたようだ」


 ミカが振り向くと、そこには軍服に身を包んだ、長いブロンドの女性が。


「提督?」

 

 ヴェネシアート海軍の提督、その人が居た。


「一連の話は聞いている。君たちが居なければ、あの宿の宿泊者は、全てやられていただろう。ヴェネシアートを代表して、君たち感謝する」

「……いや、俺はあいつを倒せなかった」

「生き延びた冒険者達の目撃証言からして、Sランク、もしくはS+に相当するモンスターだろう。死者を一人も出さず、生き延びただけでも素晴らしい」


 そう、確かに相手はS+とも言える強力なモンスターだった。

 しかし、ミカは本来倒せた。人狼を、地面に倒れ伏させるほどには、ダメージを与えていた。あとはとどめを刺すだけだった。

 だが、ミカは躊躇してしまった。人狼が自分の名前を呼んだから。どこか懐かしい瞳で、自分の名前を呼んだから。


「ところで、提督さん、おひとつお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 ショーティアが提督に尋ねる。


「どうした、言ってみろ」

「たしか陸地は海軍の、つまり提督さんの管轄ではないと、以前お伺い致しましたわ。何故提督さんがこちらに?」

「事態が事態だ。Sランクのモンスターが、突如ヴェネシアート近郊に出現した。ヴェネシアートの陸軍は元々規模が大きくはない。故に、海軍も総出で今回の事態にあたることになった」


 すると提督は森の奥を見つめて、話を続けた。


「既に海軍と特別契約をしているSランクパーティに要請し、人狼の行方調査に当たらせている。先ほど、川の側に抜け落ちた銀の体毛が発見された。おそらくは傷ついた体で、川に落ちたものと思われるが……警戒は続けねばなるまい。幸い、大空洞の入り口の一件で、ヴェネシアートにはSランクの冒険者も多数集まっている。彼らに依頼しつつ、陸軍、海軍総出で警戒を強める方針だ」

「そうか……人狼は川に」


 ミカは考える。普通のモンスターならば、あの傷で川に落ちたら助からないだろう。だが、あの人狼なら生きている可能性もありえなくない。むしろ、生きている可能性が高いまである。

 そうしてミカが考え込んでいると。


「ん?」


 ミカの視界に、とあるものが映った。

 それは、どこかの兵士の姿だ。だがその兵士が身に着けているのは、ヴェネシアート軍特有の赤い軍服ではなく、バレンガルド王国軍を彷彿とさせる、青を基調とした鎧だ。

 その兵士たちは、ヴェネシアートの兵士たちと入れ替わるように、陥没した地面に降り始めた。

 ミカが提督に尋ねる。


「あれは?」


 すると、提督は悩ましそうに頭を抱えて答えた。


「バレンガルド王国、ブライアン王子直属の親衛隊だ。話を聞きつけた王子が、ここの調査を担当すると言ってきた」

「あらあら。確かブライアン王子様は、変わり者で有名でしたわねぇ。よく、未解決事件やおかしな事件に顔を出すとか……あまり解決した事件は無いともお伺いしましたが。しかし、ブライアン王子様自体は、ほとんど公の場に顔を見せないとか」


 ミカは思い出す。王国には複数人の王子と一人の王女が居る。その中でも特に目立っているのがアンジェラ王女で、兄は目立たず、弟にはあまり良い噂を聞いていなかった。

 ブライアンはアンジェラの兄に当たる人物。式典などにもあまり顔を出さず、Sランクパーティに所属していた頃でさえ、ミカはブライアンを目にしたことが無かった。

 

「我々ヴェネシアート軍としても、バレンガルド王国の属国という立場上、無下にはできんのでな。ここの調査は、以後彼らに引き継ぐことになった」

「確かに、突然現れた強力な人狼。噂に聞くブライアン王子の好きそうな話だよな」


 そう話していると、提督がミカとショーティア、二人に労うように言った。


「君たちも疲労しているであろう。あとは我々に任せ、休息するといい」

「そうだな……そうさせてもらうよ」

「ではミカさん、帰りましょうか」


 そうして爆発の現場を後にするミカ達。そんなミカを見て、提督が一つ尋ねた。


「おや? 君、グリモアはどうした?」


 ミカの腰のホルダーにいつも取り付けれていたグリモア。それが無いことに気づいた提督が尋ねた。

 さらに、提督は話を続ける。


「君は師匠と同じく、高い実力を持った魔法使いだ。君ほどの力であれば、グリモアが無い魔法の使用は命に関わるだろう。常に身に着けておくべきだ」

「ああ……そうだな」


〇〇〇

 

 パーティハウスへと帰ってきたミカとショーティア。二人を青空の尻尾のメンバーは明るく出迎えた。

 幸いにもアゼルやクロ、そしてルシュカの傷は浅く、今はヴェネシアート軍の治療師から受けたヒールで完治していた。シイカは元々ダメージを受けていなかったので、いつものように広間のカーテンの影に隠れていた。

 となれば、皆が気にするのはミカとショーティアだ。


「おいおいショーティア、大丈夫なのか!? ヒールでめっちゃ魔力使ったって聞いたぞ!?」

「ええ、問題ありませんわ。少し休めましたし、ミカさんに作って頂いたポーションのおかげで、魔力の大半は回復しております」


 魔力を使いきって疲弊していたショーティアも、ほとんど回復している。

 しかし、ミカはそうではなかった。


「ミカ……リバウンドは大丈夫なのかい?」


 クロがミカの体を心配する。

 ミカの体は、強力な魔力を武器無しで使用したことによるリバウンドのダメージを受けていた。ショーティアのヒールによりほとんど回復はしているが。


「まだ手足に痺れは残っているが。このくらいなら問題ない。しばらくすれば回復するさ」


 完治はしていないものの、黒ずみは残っておらず、残ったのは痺れだけだ。


「わたくし、リバウンドの治療にあたった経験がありますが、しびれはどうしてもしばらく残ってしまいますわ。それに、そのしびれがある間は、素手で魔法を使用すると、リバウンドのダメージも大きくなる傾向があります」

「ではでは、しばらくミカどのは魔法を使わないほうが良いでありますな」

「いや、低級グリモアでもいい。武器さえあれば問題ない」

「でも、そんなキミに魔法を使わせたくないよ」

 

 皆がミカの体を心配している。


(情けない……皆をこんなに心配させてしまうなんて)


 だが、リバウンドの影響が出ているのは事実。だからこそ、ミカには第一にやらないといけないことがあった。


「ショーティアさん、相談がある」

「あらあら、なんでしょう」

「パーティの金なんだが……いくらか使ってもいいか? 結構な額になる可能性もあるが」

「ええ、もちろん、ミカさんのためなら問題ありませんが。何に使われるのです?」

 

 ミカは痺れの残る手を見ながら握りしめ、答えた。


「紅蓮の閃光から追放された時に、全財産と共に奪われた俺のグリモア……『カオスグリモア』を取り戻す」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ