10話 猫耳パーティVS白銀の人狼
とびかかって来る人狼に、ミカはバリアを張った。発生した両手のリバウンドに対し、ショーティアがポイントヒールをかける。
人狼がバリアをこじ開けるまでの間、ミカは皆に指示を飛ばす。
「ルシュカ! 今タンクはお前だけだ。前衛は頼む! 今回の敵は攻撃的だ。守りに周るより、ベルセルクらしく、攻撃で相手をひるませまくる立ち回りで頼む!」
「かしこまりましたであります!」
「シイ、こいつにはまだ試していないことがある。人狼が口を開いたタイミングで、状態異常を起こすものを口に叩きこめ! 他の冒険者の近接攻撃は効いていなかった。ナイフでの攻撃は避けろ! 距離を取って妨害寄りで戦え!」
「にゃ……!」
「ショーティアは、まずはルシュカの回復に専念してくれ」
「ですが、ミカさんは!」
「俺は回復やバリアを張りつつ、魔力を練る。こいつには俺の攻撃なら通った。なら、グリモアバーストで一気に決める! もちろん、リバウンドは凄まじい。その時は、俺にヒールをかけてくれ。頼めるか?」
「ええ、もちろんですわ!」
そして、ミカのバリアが破られようとしていた。そのバリアから人狼が顔を出した瞬間。
「どっせええええい! であります!」
ルシュカが持っていた大斧を、人狼の顔面に叩き込んだ。しかし、人狼はまったく身じろぎもしない。だが、少なくとも人狼の敵視をルシュカは受けることができた。
「もうこうなったら怖いとも言ってられません! ヤケクソであります! さぁさぁ、自分を攻撃するであります!」
「ルシュカさん、この魔法を! ライトニングウェポン!」
ショーティアの放った魔法の光が、ルシュカの斧に吸い込まれる。武器の攻撃力を上げるだけではなく、物理的な耐久力も一時的に上げる魔法だ。
「助かるであります! うおおお! 食らうであります!」
ルシュカがなおも大斧を振り回す。だが、ルシュカよりも攻撃の速い人狼の爪がルシュカの脇腹をえぐった。その瞬間。
「迅速治療術式!」
「持続回復ヒールもかけますわ!」
放っておけば致命傷になりうるルシュカの傷を、二人のヒーラーが瞬時に回復する。
そしてルシュカはと言うと。
「この痛み……! とても痛い、痛いであります! ですが、生きている! 生きているって実感するであります! もっと! どんどん自分を攻撃するでありまーす!」
斧を振り回し、なんども人狼を攻撃する。その攻撃で人狼の敵視は完全にルシュカへと向いた。
さらに、ベルセルクはこの状況で極めて相性が良かった。
「フォートレスでありまーす! これで吹き飛ばないであります! もっと自分を殴るでありますー!!」
ベルセルクの使う防御系のスキル。それは吹き飛ばしへの耐性を大きく上げる物が多く、さらに大斧を使うため、そもそも重量も重め。強力過ぎる人狼の攻撃で吹き飛ぶもののテラスから落ちるほどではなかった。
ミカから防御バフやバリア、ショーティアからヒールを受けるルシュカは吹き飛ばされても、すぐに立ち上がり、人狼へと向かって行く。痛みによる暴走が、今は大きく役に立っていた。
だが本来はCランクからBランクの実力の持ち主。ミカのバリアが無ければ、すぐにやられていただろう。
「今だシイカ!」
「……にゃ」
何度も立ち上がるルシュカに、人狼が口を開いて威嚇した。
その人狼の口の中に、シイカが小さな袋の付いたナイフを投げつける。袋は人狼の口の中で小さな爆発を起こし、様々な状態異常を起こす粉をばらまいた。
瞬間、人狼が血を吐き出した。そしてその動きが、若干だが鈍くなる。
「……にゃ」
「毒に痺れ薬……完全じゃないが、効果ありだ」
そしてシイカは、追撃とばかりに人狼の顔に袋を投げつけた。
その袋も人狼の顔近くで小さな爆発を起こし、人狼の両目に多量の粉をふきかけた。
「目つぶし粉か! いいぞ、これなら!」
目つぶしは効果てきめんであった。視界を失った人狼が、爪を振り回しその場で暴れ始めた。
「ミカさん、今のうちに!」
「ああ、もうすぐ魔力は練り終わる!」
ミカがグリモアバーストに向けて魔力をさらに練り上げた。その時だった。
人狼が大きく咆哮すると、そのままテラスの壁に向けて突撃した。壁の中へ消えたかと思うと、その中から何かを持って現れる。
「わわわ、なんでありますかあれは!」
持って現れたのは、建物の支柱の一つだった。支柱をその力で引き抜き、持ち上げたのだ。あまりの規格外さに、ルシュカも正気に戻ってしまう。
「皆、伏せろ!」
人狼が持ち上げた支柱を振り回す。だが、咄嗟に反応できたのはミカ、そしてショーティアとシイカだけ。ルシュカは。
「くそっ、単体バリアと防御バフだ!」
ルシュカの胴体に巨大な支柱が直撃する。ミカのバリアにより支柱は砕けて衝撃は大きく和らいだものの、すぐさま人狼がルシュカへと飛び掛かり、強烈な拳をルシュカにぶつけた。その勢いは、ルシュカの体を吹き飛ばすには十分だった。
「ぐ、あああああ!」
「ルシュカ!」
ルシュカの体は宙を舞い、森へと消える。
タンクが居なくなった。それはつまり、敵視の向き先が変わるということだ。
「にゃ……!」
目つぶし粉など状態異常の効果も薄まった人狼がシイカへと爪で斬りかかり、シイカが尻もちをついた、その時。
「待たせた!」
人狼の周囲に、ミカが魔法障壁を展開する。それは紅蓮の閃光と戦ったときと同じく、閉じ込めるためのものだ。
それでも人狼は障壁を抜けようとする。しかし、ミカも魔法の詠唱は完了していた。
「ショーティアさん、頼む!」
「はい! 全力でヒールをしますわ……ブレッシングヒール!」
「グリモア……バースト!」
人狼が内部に居る魔法障壁の中で、爆発が巻き起こる。あえて魔力を制御していた対紅蓮の閃光のときよりも、強力だ。
「くっ……」
凄まじいリバウンドが、ミカを襲った。手だけではない。両足も黒ずみはじめ、凄まじい痛みがミカの体を伝う。だがそんなミカに、ショーティアは最大のヒールをかけつづけた。
「ミカさん!」
「だ、大丈夫だ……おかげさまで……本当に、助かる……!」
そして数分間の間、魔法障壁の中で強力な爆発が続く。爆発の最中、内部の人狼は暴れ続けた。そして数分後。
「はぁ……はぁ……」
ミカたちの前には、倒れ伏した人狼の姿が。なおも、息はあるようだった。
「ショーティアさん、もう大丈夫だ」
「……申し訳ありません、魔力がもう」
「にゃ……」
ふらつくショーティアの体を、シイカが支えた。
ミカは人狼の側へと歩み寄ると。
「大丈夫。あとはとどめを刺すさけだ。この状態の人狼なら、グリモアショット一発でいけるだろう」
ミカが人狼に向けて魔法を放つべく、手をかざした。
「これで終わりだ」
とミカが魔法を放とうとした、その時だ。
倒れた人狼が、まるで懇願するようにミカを見上げていた。その瞳の色は、赤い瞳から変わっていた。
その色は青。まるで空のように澄んだ青だった。
(え……)
ミカが思わず攻撃を止めかけた。そして人狼は顔を上げ、ミカの顔を見ると。
「ミ゛……ガッ……」
「っ!?」
その瞬間、ゆっくりと人狼が立ち上がり、空に向かって咆哮した。
そのままミカ達へ背を向け、ぼろぼろの体のまま大きく跳躍し、森の中へと消えていった。
「あの状態で動けるか……S+級だな……」
「ミカさん、今のは」
「ショーティアさんも……聞いたのか?」
ショーティアが静かに頷く。ミカの聞き間違いではなかった。あの人狼は間違いなく。
「俺の名前を呼んだ……」




