中編:ダンジョン攻略とサポートヒーラーの思い出 その3
そのダンジョンの内部は、岩のようだった入り口とは違い、どこかヴァレンガルド様式に似た、白い煉瓦造りの壁が広がったダンジョンだった。
「どりゃぁ! セイントスキン! そんな攻撃効かねぇぜ!」
「ここは僕にまかせて。フォトンバースト!」
ダンジョンへと潜った青空の尻尾のメンバーたち。その進行は順調そのものであった。
ある程度連携慣れしているショーティア、アゼル、クロは、突撃しすぎることも、下がりすぎることもせず、的確にそれぞれの役割をこなしていた。
今もこうして、Cランクのオークを連携し、上手く倒していた。
一方で不慣れであるルシュカやシイカも。
「……にゃ」
「シイカどの! 出すぎでありますよー!」
「ルシュカ。それはお前もだ」
「へ? なんですかミカどの……ぎゃあああ! オークの拳があああ!」
「仕方ないな。痛み好き状態になられてもアレだし、魔法障壁展開っと」
シイカが前に出て、ルシュカはシイカよりも前に出る。それをミカがカバーする。
何度かモンスターと戦い、シイカやルシュカもある程度、前に出すぎないようにはなっていたものの、まだ連携は完璧とは言えない。
だが、本人たちに改善の意思があるため、ミカが全力を出してカバーするほどでも無く、ミカの負担はかなり軽かった。
いくつかの階段を下り、その階層のモンスターを全て倒し終えたところで、ミカは皆と歩きながら、息を小さく吐いた。
「ふぅ、結構進んだな」
「そうですわねぇ……今は地下の4階ほど、でしょうか?」
「ふひひ、マナストーンも沢山集まっているあります!」
「にしても、なんだかウチさぁ、ここ、ダンジョンって感じがしねぇぜ! もっとダンジョンって言えば、古い遺跡みたいなところなイメージがあってよぉ。こんな壁、ヴァレンガルドじゃよく見るぜ?」
アゼルの言う通り、ダンジョン内の壁は、古い遺跡とは言い難いものだ。それに対して、ダンジョン攻略の経験が多いミカが答える。
「別に珍しいわけじゃない。こういう突然現れるタイプのダンジョンの中は、得てして変なものだよ」
「あらあら。変、と言いますと?」
「古い遺跡のようになっていることもあれば、新しいような壁づくりのところもある。挙句、東方様式のような造りのダンジョンだってある。ここはヴァレンガルドなのにな。共通してるのは、ダンジョンってのは地下へと続くってことくらいか」
「へぇ、さすがはミカ。色んなダンジョンを知ってるんだね」
「こう見えてかなりの数のダンジョンを攻略してきたしな」
「ではわたくしのおっぱいも攻略します?」
「丁重にお断り申し上げます」
歩きつつ話す青空の尻尾のパーティメンバーたち。そんなとき、ミカに対してアゼルが一つの質問を投げかけた。
「ところでよぉ、ミカァって何で冒険者になったんだ?」
「ん? 俺が冒険者になった理由?」
「ウチが冒険者になった理由は話したろ? んで、ミカァはなんで冒険者になったのか聞きたいってわけだ」
「あ、アゼルどの、それはすなわち、あの紅蓮の閃光に関わる話になるかと……」
ルシュカに指摘されてハッとしたアゼルは、ミカに対して申し訳なさそうに言った。
「す、すまねぇ! そうだったな! あまりあっちのパーティには良い思い出無いもんな!」
「いや、気にしなくていい。思えば、皆からは色々話を聞いたからな」
少なくともミカは、シイカ以外から冒険者になった理由というものを聞いていた。なら、ミカが皆に話さない道理はない。
そんなミカにクロは。
「ミカがもしよければ、もっとミカの過去の事を知りたいな」
「……そうか。ま、秘密にすることでもないし、何より俺だけ話さないというのも良くないしな」
「あらあら……では、一度このあたりで休憩はいかがでしょう?」
今はダンジョンの階層の敵を全て倒し終え、次の階層へと続く階段を歩きつつ探している最中。敵に襲われる心配はほとんど無い。
「確かにショーティアさんの言う通り、休憩時か。ダンジョンでも休憩ってのは重要だ。ま、前のパーティじゃ全然休憩なんてさせてくれなかったが」
「ではでは! 自分たちは前のパーティと違い、ちゃんと休憩を取るであります!」
「あはは。そうするか」
ミカはその顔に笑みを浮かべて答えた。
青空の尻尾の面々は、その場で思い思いに休憩を始めた。
アゼルは立ったまま壁に寄りかかり、クロは床を簡単に手ではらい、両膝を抱え込むようにして地面に座った。
ルシュカは地面に置いた斧の側面に尻を置き、ショーティアはあまり疲れていないのか、笑顔を浮かべて立ったままだ。
ちなみにシイカは、休憩と言った瞬間に、側にあった曲がり角の陰に隠れてしまった。
そしてミカはというと。
「ミカ」
「なんだクロ」
「その座り方はどうかと思う」
ミカは壁を背にして床に座っていた。そのポーズは、右足を伸ばし、左足を曲げた、あまり行儀が良いとは言えないポーズだ。
クロの言葉に、ミカが首をかしげて答える。
「なんでダメなんだ?」
「いや……その……パンツが見える」
ミカはいつものごとく、セーターにストールを巻いた姿。下半身はスカートだ。ミカの座り方だと、スカートの中身が見えてしまう。
もっとも、ミカのスカートの中身は女性の下着ではなく、男の下着だ。
「別にいいだろ? 見られて恥ずかしいものではないし」
「なんだかんだ、ミカは男だね。こんなにかわいいのに」
「そりゃ、クロの年よりも一回りは長く、男やってたんだ」
「あ! 自分忘れていたであります! ミカどのは年上の方でしたであります!」
「だよなー! どう見ても13歳とかそのあたりにしか見えねーから、ウチもちょいちょい忘れるぜ!」
ミカの姿は、今は13歳前後の幼いリテール族の姿だ。だが、その中身は見た目の二倍前後の年である男性だ。
「13歳か……思えば冒険者になろうと思ったのも、あの頃だったな」




