25話 サポートヒーラー、おしゃれをする
「できたでありまーす!」
それはミカがいつものように朝食の準備をしているときに聞こえてきた声であった。
どたどたと屋敷を走る音。それはミカの居るキッチンへと近づき、そしてミカの前に現れた。
「ミカ殿! 出来たであります! 服のデザインであります!」
「お、おう」
「以前港町の貿易商で見た『セーター』という衣類を元に作ったであります!」
「わ、わかった。わかったから、まずは朝飯を食べてからだ」
「わかったであります! お料理ができているのなら、持っていくであります!」
「ああ、助かるよ。
〇〇〇
朝ごはんを食べ終えたミカたち。早速、ルシュカのデザインした服を確認することにした。
「これでありまーす!」
それはルシュカの言う通り、暖かなセーターという衣類を元にした服だった。
まずピンク色のセーター。そしてその上からは、真っ赤なストール。短めの赤いスカートに、黒いニーハイソックスといういで立ちだ。
「なんだかちょっと変わった感じの服だな」
「そうでありますミカ殿! 考えに考えぬいた結果、やはり赤と、この暖かな風貌がミカ殿に似合むごごごご」
全部言い終える前に、クロがルシュカの口をふさいだ。
「あ、え、えーと……そうそうミカ、この港町からは、北欧へ向かう船も多く出るというじゃないか」
「そうだな。確かにその通りだ」
「このヴェネシアートの周囲では、羊を育ててその羊毛を安く売っている。もちろん、北欧へ向かう人々に向けて、羊毛を使った衣類も港町では売っている。だが、その多くは実用的で、おしゃれとは無縁だ。外見と温かさが両立したセーターは人気なんだ。事実、以前港町でセーターが売られた際は、あっと言う間に売り切れた」
「そ、そうであります! セーターは部屋着として使えないこともないであります。また、この港町は夜は冷え込むであります。北欧に向かう方以外にも、セーターは人気商品なのでありますよ」
確かにミカは、時折海から来る風に寒さを感じることも多かった。薄手のセーターならちょうど良い暖かさかもしれない。
人気だからその服を作る。それはもちろん利にかなっていることではあるのだが。
「なあ二人とも。でもそれはつまり、セーターはよく売られてるってことだ。供給過多で、それだと売れないんじゃないのか?」
「ゆえ、ストールとセットにするでありますよ! ストールとセットの組み合わせは、暖かさに加えて、外見もとてもかわいいであります!」
「なるほど、組み合わせで売るということか……ん?」
組み合わせ。その言葉が、ミカの心の中でひっかかった。
(組み合わせる……? 複数の衣類を……)
考え込むミカに、クロが話かける。
「どうしたんだいミカ」
「いや、なんでもない。ちょっと考え事だ」
「売るときにストールとセーターをセットにすることにお悩みでありますか? よくセットで売って付加価値を上げるというのはよくある話であります! 別に買う方を騙しているわけではないでありますよ!」
その言葉も、ミカにはひっかかる。
(騙す……装備を騙す……?)
その時、ミカの頭に一つのアイデアが浮かんだ。
「デザインはわかった。だが、少し時間をもらえないか? ちょっとやってみたいことがある」
「なんだい? やってみたいこととは」
「ああ。あるものを作りたい。2人とも、ちょっと素材を港町で買ってきてくれるか?」
「素材? ああ、僕にできることならまかせてくれ」
「自分もがんばるであります!」
〇〇〇
「クロ。ルシュカ。『影写し』という技術は知ってるか?」
数時間後、クロとルシュカは言われた素材を手に入れ、屋敷へと戻ってきていた。
そして外で待っていたミカは、二人に問いかけた。
「影写しでありますか? 初めて聞くであります!」
「僕は聞いたことがあるよ。東方の国のニンジャというクラスが扱う技術だと本で見た」
「ああその通り。ちょっとややこしい仕組みなんだが……取ってきた素材をくれ」
ミカはクロ達から素材を受け取り、その場で組み立てていた調合器具を使い、素材の調合を始めた。
「鏡鉱石、英砂塵。あとは……そう、魔燐草。これは東方が原産地だからな。これが欲しかった。あとは混ぜつつ火で熱を加える……すると」
ミカが受け取った素材を調合すると、出来たものは。
「なんだいそれは小さな銀色の立方体? 鏡のようにきれいだが」
「ああ。ところで先ほどの影写しというのは、言わば物の外見を騙す技術だ」
「変化させるでありますか?」
「ああ。例えばここに、俺が作っておいた鉄球がある。そして、こっちはそこらへんで拾った石。まず、鉄球にさっき作った立方体をかざす」
ミカが立方体を鉄球にかざすと、立方体に鉄球の絵が浮かび上がった。
「次に、これをそこらへんの石にかざす。すると」
ミカの持っていた立方体が割れて、立方体から出た光が石に染み込んだ。
「……何も変わらないであります」
「まぁ見てなって」
ミカが石を手に取ると、その瞬間に石が鉄球へと姿を変える。
「ほわぁ! な、なにが起こったでありますか!」
「これが影写しという技術。先ほどの立方体は、物の外見をコピーして、別の物に貼り付ける……つまり外見だけを変えることができるんだ。一連の作業を行った俺の魔力に反応して、俺が持つとこんなふうに鉄球に姿を変える。だが放すと」
ミカが鉄球を放すと、鉄球はただの石くれに戻った。
「あくまで外見が変わるだけだ。あくまで俺が石を身に着けている間は、自分からも他人からも、その石が鉄球に見えるってだけだ」
「見た目をだましているのか」
「そんな感じだ。例えば東方のクノイチという女のニンジャは、ナイフをクシの姿に変え、敵の基地に一般人として潜入し、暗殺を行ったという話がある。東方の国の開国と共にこの技術がこちらに伝わったが、重さや体積が変わらず、身に着けている間だけ外見が変化する技術が使えるのは暗殺くらいなものだ。一般には広まらなかった」
「暗殺には使えそうだね」
「そうだな。この技術がこっちに来てから、暗殺が危ぶまれる催しでは、必ずボディチェックが入るようになったとか。だが、俺は思ったんだ」
すると、ミカはとある装備を取り出した。それは学術士などがよく身に着けている、ジャケットとショートパンツ。魔力増強効果のある素材を利用した、一般的な装備だ。
「東方で作られた技術だから、魔力の質が違う。だから外見を変えても、装備の性能には一切影響がない」
「あ、そ、それは!」
次にミカが取り出したのは、セーターとストール。そして赤いスカートにニーハイソックス。それは、ルシュカがデザインしたものだ。
「さっき二人が素材を買っている間に作った。そして、この衣類に、先ほどの立方体、『鏡魔石』をかざす」
鏡魔石に、衣類の絵が浮かぶ。
「次に、学術士用の装備にかざす」
立方体が弾け、光が装備へと吸い込まれる。そしてミカは、その学術士用の装備を身に着けた。すると。
「あっ、ミカ、君の装備が!」
ミカが装備を身に着けた瞬間、その装備の外見が変わった。
そこに立っているのは、ピンク色のセーターを身に着け、真っ赤なストールを巻き、温かさそうな黒いニーハイソックスをはき、そして赤いスカートを身に着けた、薄い金髪で赤い目をした、リテール族の少女だった。
「俺が身に着けている間、『装備の外見をだます』。これなら、装備の性能を維持したまま、私生活でも使える。中々良いアイデアじゃないか?」
「す、すごいよミカ……もし強い鎧の外見が気にくわないのであれば、鎧の外見を変えることも可能なんだね」
「ああ。とはいえ、近い材質のものしか写せない。布なら布の装備、金属なら金属の装備へって具合にだ」
「す、すごいであります! おしゃれの幅が広がりまくりであります!」
すると、クロは何かを思いついたかのようにミカに聞いた。
「先ほどの『鏡魔石』というものの作り方はどこで?」
「あれは俺のオリジナルだよ。本当は魔燐草をベースに、いろんな素材や術式を使って作るらしいんだが、もっとずっと簡単に作れないかと思って、前に研究したんだ。レシピ自体は簡単だから、二人にも作れると思う」
「……やっぱりすごいなミカは」
「あの、もしよければ提案があるであります!」
ルシュカが話す。その提案とは。
「『鏡魔石』、使い方と共にマーケットに流してみるのはいかがでありましょう?」
「マーケットにか? 売れるのは高名な専門家の証明書がある商品だけなはずだが」
「新商品なのだから証明書なんていらないであります! むしろ説明書をつけて、売ってみるであります! そうでありますね……最初は大特価3000ギニー! 売れたら5万ギニーとかで売るであります! 素材の値段からすると、大儲けであります!」
「売れればの話だがなぁ」
「もちろん、売るには宣伝が必要であります。そして宣伝にふさわしいものが、目の前にあるであります」
「目の前に?」
クロとルシュカがじーっとミカを見つめる。
おしゃれな衣服に身を包んだように『見える』ミカを見つめて、二人は口を揃えて言った。
「「かわいい……」」
「えっ?」




