24話 一方その頃、旧パーティ その2
「来たか。入ってくれ」
そこは王都にある、高ランクパーティ用の施設。
リーダーであるドランクの声に従い、『紅蓮の閃光』のパーティルームにあるドランクの部屋に、一人の女性が足を踏み入れた。
その女性は金髪と二丁拳銃が特徴のガンナー、リーナだ。以前ミカに雇われ、このパーティに参入した別国出身の傭兵だ。
「それで、あたしを呼んだ理由は何?」
リーナはひたすら不機嫌であった。パーティルームは食物や衣類、装備の類が散らばり、かつての整然とした綺麗なパーティルームの面影はない。
なにせ、誰も掃除をしないのだ。自分の仕事はこんなことではないと、変な理由を付けて掃除をしない。
リーナはそれに呆れ、呼ばれない限りパーティルームに来ることは無くなっていた。
「それで、何の用事かしら? SランクやAランクのダンジョン攻略や依頼をこなすのは付き合うわ。それ以外なら加担するのはごめんだから」
「まぁまぁ、そう怒るなって。ほら、さっさと座ったらどうだ」
言われるがまま、ドランクの机の前にある椅子に座るリーナ。するとドランクは。
「率直に聞こう。リーナ。俺たちはこれからどうすべきだと思う?」
「へぇ、あんたの口からそんな言葉が聞けるなんて、意外じゃない」
心を入れ替えでもしたのだろうか。このパーティが少しはまともになるならと、リーナは思いつく限りの提案をすることにした。
「まず、あんたたちは自分の役割を認識しなさい。タンクはタンクらしく、アタッカーはアタッカーらしく、ヒーラーはヒーラーらしく。正直あんたたちは素養自体はあるわ。けれど、その性格と態度から全部台無し。まずは、自分のクラスの役目からきちんとこなしなさい」
「ほうほう」
「あと、サポートヒーラーをパーティに招きなさい。そして、ちゃんとまともな待遇を行うのよ。あんたたちは私を含めて7人のパーティ。7人にヒーラー一人だと足りないわ」
「ふむふむ」
「あと、冒険者として当然の装備の手入れや消耗品、金銭の管理。自分たちでちゃんとしなさい。ミカッの作ってくれた上質な装備をぶっこわすなんて、しかもこの短期間で。あり得ないっての」
「なるほどなるほど。面白い話だ」
何やらリーナの言葉に適当に返すドランク。すると。
「リーナ、お前の意見はわかった。参考にしよう」
「参考にする? 今すぐ実践しなさい」
「そうだな、実践したくても、今我々紅蓮の閃光はなかなか厳しい状態だ。金もなく、装備も整っていない。降格の危機さえある。まずは、これらを解決するところから始めないといけないと考えている」
「型は落ちるけれど、ミカッの作ってくれた装備の在庫がパーティ倉庫にあるわ。それでAランクの依頼をこなせばいいじゃない」
「そんな回りくどいことをやるよりも、良い方法があるんだ」
すると、ドランクが一枚の書類を机の上に置いた。
「冒険者ギルドの上の連中にはな、教会を良く思ってないやつがいる。そいつがこれをくれたんだ」
それは、教会が各聖魔導士たちに支払いを命令した、お布施の金額と、そのお布施を支払う予定の聖魔導士の名前のリストだった。
「基本的に、このリストに載せられた聖魔導士はお布施を払いに王都に来る。それで、この丸で囲まれたところを見ろ」
丸で囲まれたところ。そこには、『名前:ショーティア パーティランク:D 予定:300万ギニー』という記載が。
「どんな不正かは知らないが、そいつのパーティはヴェネシアート海軍と特別契約して、大金をもらったそうだ。Dランクの雑魚のくせにだ。どうせ不正でも働いたんだろ」
リーナがそのリストを手にする。リストを手にしたリーナの手は、怒りで震えていた。
「ギルド上層部の奴はな、『俺に半分、150万ギニーの分け前をよこせば、降格を差し止めるよう、努める』と約束してくれたよ」
「ふざけるな……」
リーナはリストの紙をクシャクシャに丸め、そのままドランクへと投げつけた。
「ふざけるな! あんた、どこまで堕ちる気!? 金を奪うなんて! それも、このようなDランクパーティの冒険者から!」
「何を言ってんだ。別にいいだろ。Dランクなんて雑魚が金を持ってても役にたたない。それより、俺たちのようなSランクパーティが持っている方が、何十倍も役立てれるだろう? Dランクパーティなんかに、こんな大金不相応だ」
「それしか誇れるものは無いの!? Sランクであることしか!?」
「もういい! もう耐えられない。契約は完全破棄するわ。あたしはこのパーティから抜ける!」
リーナが腰に付けたポーチから、小さな袋を取り出す。その袋を、ドランクの机の上にたたきつけた。袋からは、金貨がこぼれている。
「契約破棄の違約金よ。本当はあんたじゃなくてミカッと契約したのだけれど、あんたにやるわ。これであんたとあたしは無関係。これでもうおさらばよ。あとは勝手に追放申請でもなんでもしなさい」
「そうか、残念だ」
その瞬間、ドランクが背後に隠していた剣を手にリーナに飛びついてきた。リーナはそれを華麗にかわし、逆にドランクの体にかかと落としを叩きつけた。
地面に倒れたドランクの体を踏み、銃を突きつけるリーナ。
「強いな。さすがは傭兵だけある」
「このまま引き金を引いても良いのだけれどね。だれも見ていないし」
そうリーナが言ったときだ。
パチ、パチ、パチと拍手の音。その音と共に、部屋の入り口から何者かが現れた。
「いやはや! 良いものを見せてもらいましたよ」
それは眼鏡をかけた黒い短髪の青年だった。
細い目でリーナを見つめ、笑みを浮かべて近づいてくる。
「だれよあんた」
「ドランクさんの知り合いですよ。実はそこそこ、長い付き合いの仲でして」
その青年は、王国軍の衛兵が身に着ける黒を基調とした制服と帽子を身に纏っていた。
「あんた、衛兵じゃないわね。変装かしら?」
「そうですねぇ、この姿でなければ、外出もままならない身分でありまして」
「そんな身分の奴が、こんなドランクみたいなやつと知り合いだなんて、この国終わっているわね」
「おやおや、ひどい言われようです」
一歩、また一歩と近づく男に、リーナはもう一丁銃を取り出し、空いたほうの手で男に銃口を向けた。
「それ以上近づか……!?」
一瞬だった。男が一気に詰め寄ったため、リーナは引き金を引いた。だがまるでそれを予測していたかのように、魔法すら使わず、体の動きだけで男は弾丸を回避した。
「なっ!?」
リーナが動揺している隙に、男が何か細いものを投げた。
リーナは首に何かが刺さった感触を覚え、すぐにそれを引き抜いた。
「は……り……?」
まるで力が抜けるかのように、リーナはがっくりとうなだれ、床に崩れ落ちた。
「ナイスタイミングだな」
立ち上がったドランクが、男に話しかける。
「このリーナという女性、中々材料としては上質ですね」
「ああ、こいつがあんたのご所望の一つ、実験に耐えられるであろう、強い冒険者だ」
「ほほう! 確かに実験のしがいがありそうです。早速部下に回収させに来ましょう」
そう言うと男は、床に落ちた、クシャクシャにまるまった紙を手に取った。
それは、先ほどリーナがドランクに投げつけたお布施のリストだ。
「ではこちらの件も手はず通りに」
「わかった。だが、何であんたが金を欲しがるか教えてくれ。あんたなら、金は有り余ってるだろ?」
「金はあればあるほど困らないものです。それに、この件に関しては別の計画もありまして」
「よくわからねぇが、約束は守っってくれよ」
「ええ。成功のあかつきには、紅蓮の閃光が降格しないよう、幹部たちに伝えますよ」
「ああ、それじゃ……」
この糸目の男性。彼こそが。
「よろしく頼むぞ。バレンガルド王国第一王子、ブライアン様よ」




