21話 サポートヒーラー、おしゃれを考える
「クロ、ルシュカ。これからについて話が……?」
翌日、ショーティアとアゼルが王都に向かって数時間後。
ミカはこれからの依頼のこなし方などを相談すべく、広間に居た二人に話しかけようとしたのだが。
「では、その手はずでお願いするであります」
「わかった。僕としても正直、かわいい姿を見てみたいからね……」
「ん? 何の話をしてるんだ?」
何やら相談していた二人に尋ねるミカ。だが二人は大慌てで。
「ななな、なんでもないよミカ!」
「そうであります! 取るに足らないお話であります!」
「ならいいんだが……」
「そうだミカ、一つ僕から相談があるんだ」
「相談? どんな相談だ?」
クロからミカへの相談。それは冒険者パーティのランクについてのことだった。
「聞いたことがあるんだが、パーティのランクというものは、必ずしも依頼やダンジョン攻略をこなすことで上がるわけではない、というのは本当かい?」
「そうだな、その通りだ。確かに一番メジャーなのは、人々の依頼や、未踏破ダンジョンの攻略をこなし、ランクを上げることだ。Aランクまでは『どれだけ依頼をこなしたか』、『どれだけのダンジョンを踏破したか』『失敗回数はどのていどか』でランクが上がり、AからSはギルドの審査を通してランクが上がる。前のパーティでは、基本そのルートを通ってきた」
だが、必ずも依頼やダンジョン攻略が必要になるというわけではない。
「他には、Aランクまでなら違う方法でランクが上がることがある。たとえば『大災害が起きた際に人を救った』とか、『指名手配犯を捕まえた』とか、あるいは『画期的な発明を行い、人々や冒険者に貢献した』とかがあるな。こういうことをすると、他の冒険者や市民から『あのパーティを応援したい』という声が集まり、その声をもとにランクが上がる」
「ふむふむ、そのように上がることもあるでありますか」
「メジャーな方法ではないけどな。でも、俺が以前知り合った『金劇の卸手』ってパーティがあるんだが、全員戦闘が苦手で、発明したものを使って商売をしていたら、人々から信頼され、いつの間にかAランクになってたって話もある」
「なるほど、つまり、Aランクまでは、必ずしも戦闘の技術が伴っているわけではないということか」
クロの言葉に、ミカはうなずいた。
「もちろん、金を稼ぐなら、冒険者登録するよりも、商人として王国に登録しておいたほうが良い。一部税金の免除や、商人ギルドに入れるっていう特典があるからな。だが、冒険者パーティが依頼をこなす、あるいはダンジョンの素材を売る以外で金稼ぎすることは少なくない」
「ミカ、つまりは依頼やダンジョン攻略をこなしつつ、それ以外では道具を作って売ったりして、人々の信頼をもらいつつ、金稼ぎするパーティも居るということかな?」
「その通りだ。実際そういうAランクパーティは多いよ。実際パーティに製作が得意な人を採用して、攻略担当、製作売買担当を分けたりすることもある」
ふとクロは何かに気づき、ミカに尋ねた。
「ちなみにその金劇の卸手のパーティとは、どうやって知り合ったんだい?」
「ん? 単に前のパーティで装備を作ってたのが俺だって知って、スカウトされたってだけだ。そのころは紅蓮の閃光パーティは、まだBランクだったかな」
「……もしキミがそこに行っていたら、金劇の卸手は商人ギルドよりすごいパーティになっていたかもね」
「あはは、そんなまさか。でもなんでまたこんな話を?」
ミカがクロになぜこの話について尋ねたか聞く。すると返答したのはクロではなく、ルシュカだった。
「そうであります! 実は自分、おしゃれが大好きでして」
「ああ、ショーティアから聞いたことがあるよ」
「ええ、そしてこの度、クロ殿からお話がありまして。『冒険者としての装備をおしゃれにする方法はないだろうか』というお話であります」
冒険者のおしゃれ。それは冒険者というものが生まれたころからある話だ。
タンクであれば、敵の攻撃を受け止めるための鎧を身に着け、魔導士であれば、魔力を高めるローブを着るのが一般的。
そのように、冒険者の外見というものは、ある程度制御される傾向があった。
「おしゃれがしたいのか?」
「いや、どちらかというと、おしゃれな装備を作って、それを売って稼ぐのもありじゃないかな、と思ったんだ」
「装備か……」
この時、二人の理解の間で大きな齟齬が生まれていた。
クロが作ってもらおうとしたのは『かわいいな服』。それを癖で『装備』と言ってしまった。
ミカは、その言葉からクロが『おしゃれな装備』を作りたがっていると認識してしまった。
「デザインは自分がするであります! よろしければミカ殿には、ベースとなる最初の服を作っていただき、自分たちはそれを参考に、同じ服を複数作り、マーケットで売ってみようと考えております。もし服が他の方々に気に入られれば、自分らのパーティの信頼もあがるかと思ったであります」
ミカは考える。実際、おしゃれな衣服を作り、それを売って小金を稼いでいたパーティというものは存在した。
(依頼は基本昼こなし、夜は服の製作。チャレンジしてみるのもありかもな)
事実、そのパーティは女性市民たちからの信頼が高く、ランクが上がったとミカは聞いたことがある。
「おもしろそうだ。やってみようじゃないか」
「やったであります! では、さっそくデザインに……」
「待ってくれ。俺の考えだが、基本昼は依頼などをこなす、そして夜はそれらの製作作業という流れにしよう。お布施の件で手持ちが少ないというのもある。比較的早く稼げる、依頼をメインにしよう」
「合点承知であります!」
「僕も了解だ。とりあえず依頼を探すためにみんなでギルドに行くのかな? ルシュカと準備してくるよ」
そうしてクロとルシュカはミカの元から離れたわけだが。
「ふふふ、成功でありますな。これで試着というていで、ミカ殿にかわいらしい服を着せられるであります」
「そうだね。僕としても夜は暇だったし、夜の空いた時間で服を作って、パーティに貢献できるのはうれしい。それに、ミカのかわいい姿は楽しみだ」
と、『おしゃれな普通の服』を作る前提で話している二人に対して。
「『おしゃれな装備』か……私生活でも使え、戦闘でも使える装備。なかなか難しいが、面白い。考えてみよう」
ミカは『おしゃれな装備』のことを考えていた。
そして、これまで自分のおしゃれとは無縁であったミカは知らなかった。ミカが作ろうとしているものが、冒険者のおしゃれにおいて『大革命』を起こしうることを。




