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20話 サポートヒーラー、メガネをかける

「乾杯!」


 夜、青空の尻尾のパーティハウスでは、小さな宴が開かれていた。もちろん、ルシュカの退院祝いである。

 テーブルの上には、ミカが腕によりをかけた料理が並んでおり、皆思い思いに食べていた。


「ほわぁぁぁぁ……本当にすごいであります……噂以上の腕前であります……!」


 始めてミカの料理を食べるルシュカは感無量と言った感じで、涙を流しながら料理をむさぼっていた。

 ルシュカの退院で、入院しているのはあと一人。


「あいつも早く退院できるといいんだがなぁー」

「それについては、自分病院で聞いてきたであります! あと数日もすれば退院できるとのことであります!」

「もうすぐだ。これで僕たち、青空の尻尾は全員揃うんだね、ミカ」

「ああ、そうだな。ん、ショーティアさん? 様子がおかしいぞ。具合でも悪いのか?」


 各々盛り上がっているところに、ミカがショーティアの様子がおかしいことに気づく。

 何か書簡のようなものを握り、体を小さく震わせている。

 何かを言いづらそうにしていたが、ショーティアは小さな声で、話し始めた。


「あの、このタイミングで、本当に、本当に大変申し訳なく思うのですが」

「んあー? どうしたんだぜショーティア?」

「実はわたくし、王都へ用事が出来てしまいまして……」


 すると、ショーティアが一枚の書簡を、皆に見せた。そこには『聖魔導士 お布施の納付義務』と書かれている。


「ショーティアさん、まさか『お布施の通達』が来たのか?」

「ええ……とうとうわたくしのところにも、来てしまいましたわ」

「ミカ、お布施とはなんだい」


 するとミカは以前耳にした噂について話し始めた。


「ギルドが腐敗し、上層部では賄賂や横領が横行しているという噂は知ってるだろ?」

「ウチも聞いたことあるぜー。噂でしかないと思ったけどよぉー、ミカの追放騒ぎのことを聞いて、マジだって知ったぜ」

「それと同じように、聖魔導士を管轄する聖魔導教会の上層部も、腐ってるっていうことだ」

「聖魔術教会の上の方で、冒険者ギルドとつながりがあり、冒険者パーティのお金の流れを把握していらっしゃる方々がおりますわ」

「そこそこ金を稼いだパーティに聖魔導士が所属していれば、『お布施を教会に渡さねば、聖魔導教会の名簿から外す』って聖魔導士に通達するんだ。名簿から外されるのは、教会から認められていない聖魔導士というのと同じ。そんな聖魔導士が居れば、パーティの名に傷がつく。脅迫してるんだ。ひどい話だよ」

「遠方に居たとしても、わざわざ王都までお布施を渡しに行かなければなりませんの。噂では、お布施を渡しても、そのほとんどは上層部の個人の懐に入るという噂ですわ」

「それでショーティアさん、いくらなんだ? 払えって言われているお布施は」


 ショーティアが、少し俯いて口にする。


「300万ギニー、ですわ……」

「300万でありますか!? な、なんて大金でありますか!?」


 ルシュカが驚く。無理もない。

 今、青空の尻尾の主な収入源は、海軍と特別契約したことにより受け取っている支給金だ。その金額がきっちり300万ギニーである。

 それだけあれば、普通のパーティであれば数か月は持つほどの大金である。


「ミカ、支給金と同じだなんて、こんな偶然があるかい?」

「いや、これは俺たちがDランクパーティだからって舐められたんだろう。支給金を根こそぎ奪うつもりだ」


 幸いにも、Cランクの依頼などをこなしていたおかげで、現在パーティの所持金は、ほぼきっちり300万だ。払えないわけではないが。


「なぁなぁー、ウチは名簿から外されるなんて気にしないぜー? ショーティアー」

「アゼル、簡単な話じゃない。教会と冒険者ギルドのつながりは深い。名簿から外された聖魔導士が居るだけで、上ランクへの道は絶たれると言われている。現に、俺は旧パーティ時代、お布施を払わずに上ランクへ上がれなかったパーティを見てきた。メインヒーラーである聖魔導士はパーティの要で、多くのパーティで採用されているのもあってな」

「うげっ、それは困る! これからCランクの依頼たくさんこなしてよぉー! ひょいひょいランク上げて、Aランクになって師匠に会いに行くのがウチの目標なんだぜ!」

「申し訳ありません……」


 落ち込むショーティア。だが、ミカを含め、パーティメンバーの意思は決まっていた。


「しかたねぇなー。ミカ、パーティの金だしても良いか?」

「僕からもお願いする。ショーティア、気にしないでほしい。僕たちはCランクの依頼をこなしたんだ。300万なんてあっという間に、また稼げるよ」

「そうでありますよ! 自分も入院していた分、きっちり頑張るであります! だから落ち込むことは無いでありますよー!」


 3人の意見に、ミカも同意である。


「ショーティア、落ち込まないでくれ。教会の腐敗は今の俺たちにどうこうできることじゃない。とりあえずここは払っておこう。なに、俺がその気になれば、300万なんてすぐ稼げるし、今後も舐めたまねを教会がするなら、俺が教会の重役をまるごとぶち転がして、金を取り返すさ」


 ミカは自分で言っていて、不思議な気分になっていた。

 初めてであった。他人から「稼げ」と言われることがあっても、自分から「稼いでやる」と他人に言うのは。

 

「ミカ」

「なんだ? クロ」

「キミが教会をぶち転がすというと、本当にできそうだから怖い」

「……確かにできなくもないかもな。教会が今後も舐めた真似をしなければ大丈夫だから安心しろ」

「……はやいところ王女様によって、教会も誠実になることを祈るよ」


 皆の話を聞いて、ショーティアが目に涙を浮かべ、頭を下げた。


「皆さん……ほんとうにすみません……」

「あーもー! あんまり謝んな! 大丈夫だって! ウチがついてっからさ! 言うなら感謝だ!」

「……ありがとう」

「んあー、なんか今日のショーティア、落ち込みすぎだぜ。ミカ、ウチもショーティアと一緒に王都行っても良いか? 心配になってきたぜ」

「それは心強いのですが……よろしいのですか?」


 ミカは考える。確かにヒーラー一人で王都に行くのは、万が一のことを考えると危険だ。何より、リテール族の女性。狙う暴漢も多いだろう。タンクが一緒に居れば安全と言える。


「だが、アゼルが抜けると、こっちにタンクが居なくなってしまうな」

「あ、それはおまかせくださいませ!」

 

 すると、ルシュカがそそくさと広間から出て、すぐに戻って来る。その手には、身の丈ほどもある、巨大な斧が握られていた。


「自分のクラスはベルセルク! タンクであります!」


 ベルセルク。それは大斧や大剣を扱う、タンククラスだ。パラディンほどの防御力は無いが、タンクにしては高い攻撃力と、相手をひるませる技を多く持つ、パワータイプのタンクである。


「タンクが二人のパーティだったのか。それなら大丈夫だ。アゼル、むしろ俺からも頼めるか? 万が一のことを考えて、ショーティアについて行ってほしい」

「おうよ! まかせとけ!」


 この会話を聞いて、ショーティアが再度深く、深く頭を下げた。


「皆さん……本当に、本当にありがとうございます……!」


〇〇〇


「ミカ」


 夕食が終わり、各々自分の部屋へ戻ってゆくなか、クロがミカを呼び止めた。


「ん、なんだ?」

「実は、キミに渡したいものがあって」


 クロが、ミカに小さな箱を渡す。それは横に長い、小さな箱だった。


「開けてみてくれ」


 クロに言われるがまま、ミカが箱を開く。するとそこには。


「メガネ?」

「ああ。以前から気になっていたが、キミは遠くのものが見えない様子だったろう? キミはドラゴンと共に飲まれた僕の髪の毛の影響で、その姿になってしまったという。髪の色や瞳の色こそ違うが、体の内部的な部分は、もしかしたら似てしまったところがあるかもしれないと思って、港町で作ってもらったんだ」


 それは、ツーポイントと呼ばれる、レンズ部分にフレームが無いタイプのメガネ。耳や鼻にかける部分は、赤いフレームになっている。

 たしかに、ミカは今の姿になってから、時折目を細めてしまうことがあった。


「ミカ、かけてみて」

「ああ……って、今の俺だと耳が猫耳になってるから、このメガネはかけられないんじゃ」

「大丈夫。僕が使っているのと同じ、側頭部に魔力でひっつくタイプだ」


 クロに言われて、ミカはメガネをかける。


「どうだい?」

「……すごい、よく見える」


 ミカはメガネをかけたときと、かけてないときの視界の見えやすさに衝撃を感じていた。ここまで見えるようになるのなら、もうメガネは手放せないだろう。


「気に入ってもらえたかな?」

「ああ。これは手放せなくなるな。クロ、ありがとう」

「礼には及ばないよ。それにしても、やはりキミは赤が似合うな」


 ミカの薄いクリーム色に近い金髪、そしてとても珍しい、真紅色の瞳。それに、赤いフレームのメガネというものは、とても映えて見えた。




 そんな二人の様子を、気づかれぬよう遠くで見ていた人物が一人。


「むふふふ……始めて見たときから、ミカ殿には素晴らしいものを感じておりましたが、メガネがああも映えるとは……逸材であります」


 それはルシュカ。ミカたちに聞こえないよう、小さな声で呟く。


「入院が長かったもので、自分の燃え滾るカワイイモノスキスキ欲があふれ出しそうであります……」


 何を隠そう、彼女は青空の尻尾随一のかわいいもの好き。そして。


「クロ殿も誘ってみましょう。きっと賛同するはずであります。自分の、『ミカ殿おしゃれ計画』に……!」


 パーティ随一の、おしゃれ好きでもあった。



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