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18話 猫耳パーティと王女様

「話はわかったわ。まさかドラゴンの眷属化が、そのように作用するとはね」


 ミカはパーティメンバーの許可を得て、パーティハウスにアンジェラを招待した。

 広間にはミカとアンジェラ。それぞれが向かい合うように、ソファに座っている。


「てっきり、あなたが女装趣味に目覚めたのかと思ったわ」

「そんなわけがないだろう。それに、身長や種族まで変わる女装ってどんなだ」

「ふふ、そうね。興味深い呪いだわ。種族や性別、年齢まで変わってしまうなんて。できれば聖魔術協会で調査させたいところだけれど……ミルドレッドで解けない呪いでは、おそらくお手上げね」


 両手を挙げてお手上げのポーズをとるアンジェラ。その後ろ、廊下へと続く開いた扉の影には、アンジェラの動きにいちいち驚く、クロの姿があった。そんなクロに、アンジェラが問いかける。


「クロだったかしら?」

「ひゃい!? えっと、その……」

「別に怖がらなくてもいいのに。こっちに来てあなたも話したらどう?」

「で、でも……」

「大方、あのパラディンの子は疲れて寝てしまい、聖魔術師の女性は事を荒立てまいと、自室かしら? 見たところ、あなたはミルドレッドに私が何か危害を及ぼすのでは、と考え、隠れ見ていたというところね。パーティハウスなのに、腰にかけた魔術書がそれを表してるわ」

「そんなことは……」

「とって食べたりはしないわ。あなたもいらっしゃい?」


 言われて、クロがミカの隣に座る。するとアンジェラは、側に置いていた、自分の持ち込んだ巨大な袋を開いた。中に手を入れると、その手にはドーナツが握られている。


「ん、アンジェラ、それは」

「ヴェネシアートで有名なドーナツよ。美味しいのよね」


 アンジェラが大きなドーナツを二口で食べきり、さらに袋の中からドーナツを取り出す。そんな姿をクロが見ていることに気づくと。


「あげないわよ?」


 クロはふるふると首を振り、ミカの腕をぎゅっと握った。


「慕われてるわね」

「そうだろうか?」

「ええ、パラディンの子もおそらく、私が危害を加えるのではと心配していたはず。でも疲れもあって『ミルドレッドなら大丈夫』と考えて寝たのでしょうね。聖魔術師の女性も、『あなたなら事を荒立てない』と信頼してこそ、自室へ行ったのよ」

「そうなのか?」

「おそらくね。そしてそのクロ猫ちゃんも、いざとなれば身を挺してあなたを守るつもりだった。クロ猫ちゃんは、若干私への警戒が強い。過去に何かがあって、ヒューマン族に対する警戒心があるのかしら?」


 アンジェラが言うと、クロは恥ずかしそうに、ミカの後ろに顔を隠した。


「ミルドレッド。いいえ、今はミカだったわね。前のパーティよりは居心地がよさそうね」

「それは間違いないよ。この姿なら、後ろ指も指されないし」

「この屋敷はあなたが作ったものね。さすがだわ。見れば、この広間の掃除加減が、場所によってことなる。掃除も分担しているということね。あなたが今まで前パーティで強制されていたことを、今のパーティではちゃんと分担しているようね」

「そうだな。皆には本当に感謝している」


 すると、アンジェラは何か残念そうに肩を落とした。


「あーあ。せっかく王家の親衛隊にスカウトしようと思ったのに、これじゃできないわね」

「俺を買いかぶりすぎだって」

「あら、私はあなたを高く評価してるのよ? 私の装備を作り、なおかつ身分を隠してあなたに接触した時、すぐに見破られたし、それに戦闘技術も高い。あなたが紅蓮の閃光に居たとき、Sランクダンジョンに入ったメンバーが全員無傷で戻ったというのは驚いたわ。よほどサポートヒーラーが優秀でないと、無傷なんてありえないもの。あなたははっきり言って、サポートヒーラーとしては王国でも随一よ」


 なぜかその言葉に、ミカの後ろに隠れたクロが首を縦に振った。


「クロ猫ちゃんもそう思ってるみたいよ」

「そうか。ありがとうクロ。うれしいよ」

「い、いや! 僕は、思ったことを肯定しただけだから、その……」

「でも、こうしてみると不思議な感じね。あなたの今のその容姿、すっごいかわいいし、身長も小さいから、パーティでは一番年下に見えるのに」

「俺は男だし、かわいいと言われるのはなんかな」

「事実だから仕方ないじゃない」


 そして一呼吸置いたアンジェラは、本題を話し始めた。


「さて、あなたが追放された理由について、詳しく聞かせてもらって良いかしら?」

「ああ……」


 ミカは自分が追放された理由を話した。

 本来であれば、脱退するつもりだったのに、追放扱いされたこと。ダンジョン攻略の責任を押し付けられたことなどだ。

 それを聞いたアンジェラは。


「はっきり言って追放は不当ね」

「そうだよな……」

「ギルドの追放審査はどうだったのかしら?」

「全責任は俺にあるって判定された」

「やはりあなたの旧パーティの誰かが、審査官に金を握らせたのでしょうね。それしか考えられないわ」

「ね、ねぇミカ……ちょっと聞きたいことが……追放審査というのはなんだい?」

「ああ、通常パーティから追放される際、その追放が正しいものかをギルドで審査をして……」


 ミカは、とあることを思い出した。


「クロ。クロが良ければなんだが、アンジェラに、クロの過去について話しても良いか?」

「……大丈夫だよ」


 ミカはアンジェラに、加えてクロの過去を話した。

 Bランクパーティで襲われかけ、逃げ出したら追放扱いになっていたことだ。


「そんなことがあったのね……たしかに、今の規則では、追放申請がなされたあと、被追放側が追放審査中に現れなければ、追放扱いになるというのが規則。追放審査を知らない場合、あるいは審査中に何らかの理由で動けない場合も可能性としては十分あり得る。これも見直す必要がありそうね」


 すると、アンジェラは立ち上がり、片手を胸に当てて、二人に頭を下げた。


「ギルドの不届きで、正しい審査がされず、あなたたちを苦しめてしまったわ。王国に代わって、私が謝罪します。ごめんなさい」

「いや、アンジェラが謝らなくてもいいって。でも、これから正してくれると助かるかな」

「お、王女様が僕に頭を下げ……大丈夫です! 今はミカもいますし!」

「王都に戻ったら、すぐに調査させるわ。結果が出るのには時間がかかるだろうけれど……あなたたちの不当な追放、必ず正してみせる。誓うわ」


 すると、アンジェラは首にかけていたネックレスを外し、それをクロに渡した。

 そのネックレスには、王家の紋章が刻まれた宝石がつけられている。


「何かあればいつでも尋ねに来なさい。このネックレスがあれば、王都の城にも入れるわ」

「ありがとう。感謝するよアンジェラ」

「さて、夜も更けたことですし、私はそろそろお暇するわ」


 広間から出ようとするアンジェラ。ふと立ち止まり、ミカたちに振り向くと。


「ミカ、あなたたちのパーティが強くなったら、まとめて私の親衛隊に入りなさい。歓迎するわ」

「確約はできないな」

「それなら、私があなたたちのパーティに入ろうかしら?」

「いつでも歓迎するよ。なぁクロ?」


 クロが無言で首を縦に振る。


「ふふ、冗談よ冗談。さて、ドーナツも食べちゃったことだし、買い足してこようかしら」

「おいおい、話中ずっと食べてたよな……100個はあったぞ」

「100個じゃ少ないのよねぇ。前に店で食べたときは、300個で店の材料が尽きちゃって。ともかく、また会いましょう。それじゃ」


 そういって、パーティハウスから去っていったアンジェラ。残されたミカとクロは。


「ミカ」

「なんだクロ」

「なんだか、すごい人だったね」

「そうだな、いろいろとすごい人だ」


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