17話 サポートヒーラー、王女に出会う
「モンスターを倒して喜ばれるって、気持ちいいもんだなー! 前からちょいちょいやってたDランクのは、警備とかそんなんだったしなー!」
「うふふ、そうですわね。それに何回、Dランクの依頼を失敗したことかわからないですわ。いつも金欠だったあの頃が、もはや遠い昔にも思えますわ」
4人は山小屋に住んでいた依頼主から報酬を受け取り、帰路についていた。
空は夕暮れ模様。早く帰らねば夜になってしまうという時間帯なのだが。
「ミカ……何をしているんだい……」
「待ってくれ。これはタダナラ草と言ってな、滋養強壮効果のある薬草なんだ。お、この樹木は月輪樹じゃないか! これは良い素材だぞ。ちょっと待て、この実は、ココナグリッツの実だ! これは海の向こう側が原産のはずだが……そうか! 船に種がまぎれて、ここにも自生したのか! 港の近くならではだ!」
森の中で、ミカは歩きながらひたすら採取をしまくっていた。
それを呆れながらも微笑ましく、パーティメンバーは見つめていた。
そして次第に時間は経過し、空はほぼ暗くなり、ミカの手にした採取用ポーチが一杯になりかけたころ。
「ここを抜ければ農場に出ますわ。あとは農場の側に通っている道から、冒険者居住区に帰るだけですわね」
「すまないな。採取しすぎてこんな時間になってしまった」
「別にいいですわ。それよりおっぱい揉みます?」
「いやいい。というかそれは何なんだ? ショーティアさんの口癖か何かなのか?」
農場へと向けて、森の中を歩く4人。だが歩いていると、4人の猫耳が何かをとらえ、ピクっと動いた。
「なんだってんだ? こんな暗いのに、めっちゃ人のざわめきが聞こえる気がするぜ?」
「僕にも聞こえるよ。なんだろう、心なしか、農場のほうが明るいような気がする」
4人は農場のほうへと駆けだした。すると、そこに居たのは。
「あらあら、どうしたのかしら? 冒険者さんらしき方々がたくさん」
その広い農場、そこには、数十人の冒険者が集っていた。彼らの視線は、農場の一角に集中している。
そこにはCランクのモンスター、全身に電撃を纏った大型のイノシシである、ボルトボアが何かに向かって突進していた。その突進先は。
ミカは目を細める。
「誰かいるのか? まだ遠くて俺にはよく見えない」
「ミカさん、あなたの元パーティメンバーの方ですわ」
「ドランク?」
ミカたちはその人影から遠くない位置まで駆け寄った。そこでようやく、ミカはその人影がドランクだと気づいた。
「何故ドランクがCランクの害獣と? そうか、依頼をこなしていたのか」
ミカは思い出した。ギルドで見た依頼は、農場に現れたイノシシ型害獣退治のCランク依頼。これはおそらく、ドランクがミカから奪った依頼だろう。
「なぁなぁ、あいつがミカァの元パーティメンバーなのか? いけすかない男だぜ!」
「後ろに立っている女性はヒーラーのようだけど……でも妙だね、Sランク冒険者なのに」
クロが妙だというのには理由があった。ドランクたちは、Cランクのボルトボアに、明らかに苦戦していた。
ドランクは全身傷だらけで疲弊しており、その後ろに居る女性、ミューラも同様だ。
ミカはすぐに、何故ドランクたちがCランクの害獣に苦戦しているかに気づいた。
「装備だ……」
ドランクたちが装備しているのは、ミカが作った装備だ。その質で言えば、伝説級の代物ばかり。
だが、どんな武具であっても、手入れがなされてなければ劣化する。ドランク達のような、攻撃をまともに避けないような戦い方をしていればなおさらだ。
おそらく彼らは、Sランクのダンジョンに何度も挑んでいたのだろう、とミカは予測した。
ミカの装備は、それこそ数年は手入れしなくても新品同然のように使える代物ばかり。だが、Sランクモンスター相手では話は別だ。Sランクモンスターから瀕死になるような攻撃を何度もくらえば、劣化は恐ろしく早くなる。
そして極限まで劣化した装備は、装備者にとっての枷となる。鎧の関節部はまともに動かせず、動きを制限する。攻撃のダメージがヒビを通して素通りする。呪文を詠唱するための杖には、不浄な気が溜まり、詠唱を阻害するうえ、威力も半減以下となる。
「限界が来てるんだ」
ドランクの攻撃はボアをとらえている。だが、刃こぼれした剣は体表を撫でるようにするばかり。
Sランク冒険者の戦いぶりを見ようと集まった冒険者たちも、ドランクのその醜態に首をかしげていた。
「畜生! 体が思ったように動かねぇ! 攻撃もいてぇ! たかがCランクの害獣ごときに……ミューラ! ヒールが遅いぞ!」
「わかってるわよ! これでもヒールし続けてるわよ!」
2人が言いあっているその隙をみて、ボアが突進してくる。
突進をまともに受けたドランク。
その攻撃で、身に着けていた鎧が、砕け散った。
〇〇〇
『嘘だろ、あのSランクパーティの奴らが』
『あんな害獣に。もしかして、あいつ実はただの害獣じゃなくて強いモンスターなんじゃ』
傷つき動けなくなるドランクは、ミューラに叫ぶ。
「ミューラ! 俺を庇え!」
「ふざけるな! それはあんたの役目でしょ!」
「ならヒールをよこせ! 早く!」
「もう魔力が無いわよ! 誰か、手を貸しなさい!」
ミューラは離れた場所から見ている冒険者たちに言い放つが、尻込みした冒険者たちは動かない。
(俺に助ける義理はない。それに、ボアの攻撃では長期入院する程度だろう。だが、ヒーラーとしてどうするべきだろうか)
助ける義理はない。だが、自分はサポートと言えどヒーラーだ。だが、どうせ助けても罵詈雑言を浴びせられるだろう。なぜ早く助けなかったと。彼らはそういう人物だ。
ミカはどうすべきか考えていた、ボアが再度突進を始めるまであと数秒。その時。一つの人影が、冒険者の中から飛び出した。
それは宵闇にも関わらず、白銀に輝いていた。その輝きの正体は鎧。そして、手にした槍だ。
顔を覆い隠す兜からあふれる、夕日にも似た色をした長い髪。それを揺らしながら、白銀の戦士はボアへと直進する。
身を翻して宙へと舞ったその白銀は、ボアの額に槍を突き刺し、一瞬で仕留めてしまった。
「すっげぇ! なんだあれ! クロ、見たか!?」
「あの戦い方は、ヴァルキュリア……槍使いの戦い方だ。だけれどもあの身のこなし……きっとSランクの冒険者だ」
その白銀のヴァルキュリアは、ボアの死体の前にたたずむ。それはまさに光。その美しさに、だれもが見とれていた。
「ふん、ただのボアじゃない。こんなのに苦戦していたのかしら?」
ヴァルキュリアの女性が、ドランクとミューラに言い放つ。だがそれに対して、二人は言い訳するように。
「し、仕方がないだろう! この鎧が不良品だったんだ! 文句なら、この鎧を作った奴に言ってくれ!」
「そうよ! あたしの杖だっておかしいし、絶対ミカの仕業だわ!」
その会話を聞いて、ミカは怒りを通り越して呆れていた。
しかし、ミカの今のパーティメンバーはそうはいかない。
「ミカ、僕は許せないよ。キミをそんな風にいう彼らが」
「ウチも同じだぜクロ。いっちょボコボコにしてやらねぇか?」
「クロ、アゼル。あまり騒ぎは起こすな」
「そうですわ。殺るなら人前ではなく、人気のないところでやるべきですわ」
「ショーティアさん、聖魔導士の発言じゃないぞそれ」
ミカが三人を制止している一方、ヴァルキュリアがドランクたちに言い放つ。
「へぇ、全て装備のせいにするのね。見るからに手入れされていない装備。その責任は、装備者にあるものよ」
「チッ、うっせーな。女のくせによ」
「あたしたちはSランクのパーティよ? 生意気な口効かないでくれる?」
あくまで上から目線で話し続けるドランクたち。
「だが、お前はなかなか強いみたいだな。せいぜいAランク程度の冒険者だろうが、何だったら俺たちのパーティ、紅蓮の閃光に入ってもいいぜ?」
「まぁ最初は雑用から始めてもらうわ。光栄に思いなさい? Sランクの冒険者パーティよ」
その言葉に、白銀のヴァルキュリアは呆れて物も言えない様子であった。
「よくミルドレッドは耐えたわね」
「お? ミカを知ってんのか? あいつはクズで役立たずだったが、おまえはどうだろうな? おい、顔を見せてみろ」
その言葉に、ヴァルキュリアが兜を外す。美しいオレンジ色の髪が後ろで揺れている。
「なっ! ま、まさか、あんたは……いや、あなたは……!!」
闇夜にたたずむその姿。その姿を知らぬものは居ないだろう。たとえバレンガルド王国の属国であったとしても。
周囲の冒険者たちからもどよめきが広まる。そして、その喧騒の中、ヴァルキュリアの女性は言い放った。
「私はバレンガルド王国第一王女、アンジェラ・バレンガルドである!」
誰もが知っている人物だ。王家の中でも特に武術が上手く、そして正義感にあふれ、誠実だという王女の話。民衆からの人気も絶大であり、兄や弟を差し置いて、王の資格があるとまで言われている人物。
「ま、まさかあなたが王女だったなんてな! お、王女がパーティに入ったなら、俺たちのパーティも、もっと、名高く……」
「ちょっとドランク!」
明らかに動揺しているドランク。そしてそれを止めるミューラ。
その二人にアンジェラは槍先を向ける。
「装備の手入れを怠り、低ランクの害獣を倒せないばかりか、その責任を他人に擦り付ける。挙句、低ランクの依頼を根こそぎ奪い去る。Sランクのパーティとは思えぬ所業ではないか?」
「で、でも、俺は、Sランクで……リーダーで……」
「この場の無礼は、貴様のその装備の作り主に免じて許そう。即刻立ち去るが良い!」
「は、はいぃー!」
「ちょっとドランク! 待ってよ!」
槍先を向けられたドランクとミューラは、慌ててその場から立ち去った。その後ろ姿は、Sランクのパーティリーダーとは思えぬ威厳の無さだった。
『なんだ。あいつ本当にSランクなのか? 実は偽物とかじゃないのか?』
『にしてもアンジェラ王女、本当に美しいな……』
『お、おい、俺たちも行かないと罰せられるんじゃないか?』
『そ、そうだな。早いところ立ち去ろう』
ぞろぞろと立ち去ってゆく、野次馬の冒険者たち。それに続き、クロやアゼル、そしてショーティアも立ち去ろうとした。しかし。
「ね、ねぇミカ。行かないのかい?」
「あいつ強そうで戦ってみてぇけどよぉ、王女様なんだろ? あんまり居て怒らせたらだめなんじゃねぇの?」
「無礼を働かなければ大丈夫だとは思いますが……」
心配する3人をよそに、ミカはある場所へと向かった。
それは、地面に鎧の破片が散らばった場所。砕けたドランクの鎧が落ちている場所だった。
「ミカ、それは」
近づいてきたクロがミカに問いかける。
「この装備、レアな素材使ってるんだ。回収しておこうと思って」
「でもよぉー……あのドランクってやつが使ってた装備だろ?」
「でも、俺が作った装備なんだ」
ミカが鎧の破片を拾うのは、レアな素材だから使いまわせる。それも理由の一つ。
だが一番の理由は。
「俺が、皆のために作ったんだ……」
「ミカさん……」
皆のために必死で作った装備。加工が極めて難しい素材を徹夜して加工して作ったもの。それを、まるで使い捨てのように扱われた。彼らはそういう人物だとわかっていても、虚しさ、悲しさはあるものだ。
鎧の破片を抱きしめるミカ。その側に、アンジェラが近づく。
「ふぅ、硬い言葉は疲れるわね」
「……アンジェラ王女」
「その腰の魔導書を見るに、あなたは学術士ね。悪いけれど、今の会話も聞かせてもらったわ」
するとアンジェラは右手をミカへと差し出した。
「久しぶりねミルドレッド。良かったら色々と聞かせてもらっても良いかしら」




