表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/258

94 ラーに焼かれし

 カイラルーシ軍の偵察機が飛来したが、煙の元がパリサイドが投下している丸太だとわかると、あっさり引き上げていった。


「どんな報告を市民にするのか、楽しみじゃな」

 老人が笑う。

 パリサイドの指揮官が肩をすくめた。


「もうひとつ、お聞きしてよろしいですか。ラーに焼かれし茫茫なる粒砂、時として笑う、というのは?」

「お知りになりたいですかな」


 長老は、ふっと笑い、目を空に向けたが、話すことにしたようだ。


「お知りになっても、あなた方には関係のないこと。だが、少しだけお話しするとしましょうか。サントノーレ、今のニューキーツの街の構造をご存じなければ、分かりにくい説明になりますが」


 また老婆が目を剥く。

 長老が諭すように、また頷いてみせる。


「もう、カイロス収縮派も展開派もないぞ。カイロスを動かすときが来たんじゃから」

 老婆がスジーウォンを睨む。

 この女兵士に聞かせてもよいのか、と。


「それに、こうしてサントノーレから刃を受け取りに、使者が来たのじゃ。本来は我らが持参し、ブロンバーグと共にカイロスを動かしたいところだが、それが叶わぬとあれば、このご使者にすべてを話し、託すのがよいのじゃ」

「正式な使者かどうか、どうしてわかるんだい」

 食って掛かる老婆。


「正式な使者なら、正式な書簡を持っている、とでも言うのか。そんな紙切れより、わしはこの人を信じるぞ」

 老婆は不満そうな顔を見せたが、納得はしたのだろう。

「ブロンバーグからは、ハクシュウをよこすという連絡があった。しかしその後、スジーウォンとスミソという兵士が来るという連絡もあった。この人が自分がスジーウォンだというのなら、わしはそれを信じる」

 長老の言葉に、老婆はもう何も言わなかった。




 ラーに焼かれし。

 ラーとは、太陽のこと。

 今まさに、大地はラーに焼きつくされようとしておる。


 茫々なる粒砂。

 砂漠という意味ではない。広場の砂と考えておけばよい。


 時として笑う。

 その砂が笑ったと感じたときが、そのとき、という意味じゃ。


 その場におれば、おのずと分かること。

 そう、その時になれば。




 丸太は盛大に燃え上がっていた。

 長老の話に耳を傾けながら、誰もがその火を、その火の中にあるはずの太刀を凝視していた。

 どんな動きも見逃すまいと。

 長老が炎を見ることはない。ゲンロクを信じていると繰り返す。

 むしろ、スジーウォンを見ている。

 そして、少年を。



「まだ、時間があるようじゃ」

 と、少年に向き直った。

 瞳には、また怒りと哀れみが滲み出していた。




「ハクシュウよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ