86 待ち受けているもの
ンドペキ達は目を瞬かせた。
結局、通路の突き当たりの扉を強引に破壊して、まさに踏み込もうとしたとき。
扉が崩れ落ちると同時に、青みを帯びた透明な光が溢れ出してきた。
暗さに慣れた目には眩しすぎて、ゴーグルを通してもしばらくは目を開けていられないほどだった。
てっきり、真っ暗な石壁の部屋か通路だと思っていた。
だが、そこには、万華鏡に青と緑の色紙と透き通る砂粒を入れたような光景が広がっていた。
それらの色がくるくる回る無数の鏡に映し出されたかのように、さまざまに動き回り、集まっては散り、時には踊るように規則正しく震えたりしていた。
世界は、透明感はあるが、永遠に続くのではないかと思えるくらいに奥行きがあり、威嚇するかのように入ろうとする者を拒んでいた。
スゥのゴーグルが、様々に動き回る光を反射していた。
バーチャルな仕掛け。
レイチェルのシェルタを守る罠。
ここでは電力が生きている。
手ごわい。
ンドペキは正直にそう呟いた。
スゥ、マルコとミルコ。
四人は、部屋の入口に立ったまま、踏み込むことができず、色の狂宴を見つめた。
「難関ね」
スゥの声にハッとして、ンドペキは立ちはだかった。
以前、スゥはエーエージーエスに飛び込んでいった。
あのときのように、この得体の知れない空間に飛び込まれては困る。
不自然に見えないように体を向けたつもりだったが、スゥはそれを察したのか、
「でも、飛び込んでみるしか、手はないよね」と、自分の手をンドペキの腕に添えた。
「待て! お前は」
「お前は、ってなに?」
何かと言われて、応えようがない。
結婚しようと言ったじゃないか、では答にならない。
ンドペキは、できる限り落ち着いた返事をした。
「ここは、俺が行く。コリネルスがくれたワイヤー。もう一回、出番だ」
一旦はずしたワイヤーをまた腰に巻きつけ始めた。
「でもさ」
スゥは万華鏡から目を放さない。
腕に置いた手が滑り降り、ンドペキの手を握ろうとしたが、手はロープを結わえるのに忙しい。
「ねえ、ンドペキ。こんなわけのわからない所に飛び込むのは、隊長じゃなく、呪術師の役目だと思わない?」
「思わん!」
「ねえ、マルコ、ミルコ、そのワイヤー、私に」
「ダメだ!」
「どうしても?」
「頼むから」
光の渦は依然として美しく、同時に、足を踏み入れるべきではない色彩を放っている。
暗闇より、色の狂宴は凄みがある。
乱れ狂う虹色の光に照らされ、通路の石壁にも床や天井にも、さまざまな色が踊り狂っている。
ここに足を踏み入れることは、単なる死より恐ろしいことが待ち受けていることを予感させた。
「あっ!」
隙を突かれたンドペキが叫ぶ中、スゥが、
「ンドペキ! 昨日の申し入れ、喜んで受けるわ!」と、飛び込んでいった。
「待て!」
ワイヤーはまだ結べていなかったが、ンドペキもスゥを追って万華鏡に飛び込んだ。
「手を!」
せめて、手をつないで!
ンドペキの手がスゥの手を捕まえた。