80 あたしゃ、これが大好物だよ
チョットマの部屋に、珍しくライラが顔を覗かせた。
「いいかい?」
「もちろん!」
四方山話をしにきたわけではない。
チョットマはうれしさ半分、緊張が半分。
「ふうん。狭いけど、居心地よさそうじゃないか」
「うん。ニニの部屋を見習って。というか、彼女がしてくれたの」
たまたま、ニニは街に出かけている。
「そうかい。あの子、具合はどう?」
ニニは、一時ほどには取り乱すこともなくなった。
「落ち着いてるよ」
しかし、セオジュンとアンジェリナがいなくなったことを、受け入れることができるようになったかというと、そうではない。
今日も、ヒントをくれそうな人が分かったから会って来る、と出かけていったのだ。
「その人、政府に勤めてるみたいだけど」
表情は変えなかったが、ライラが小さく息を吐き出した。
「チョットマ、おまえに話しておきたいことがあるよ」
「うん」
「長い話になるけど、おまえ、次のシフトはいつ?」
「今日はもうないよ」
「そりゃよかった。最近、ゆっくり話すこともできなかったからねえ」
チョットマがライラの部屋に行く回数も減ったし、留守のときも多くなっていた。
それに、パリサイドがサキュバスの庭に出現したことで、ンドペキからは、よほどのことがない限り、あそこに降りていくことを禁止されてしまった。
「さて、街のことから話そうかね」
「はい」
ニューキーツの街は、海岸沿いにあるキーツの街が移転してできた街、ということは前に話したね。
元は小さな港町だったものが、あの巨大実験施設、エーエージーエスの建設や運用によってにわかに活気ある街に発展したのさ。
それに伴って、街の中心も移った。
今日話したいのは、それよりもっともっと古い時代の物語。
ライラの話は、そんな解説から始まった。
長くなる話だ。
チョットマは、いつもライラがしてくれるように、フルーツと飲み物を用意した。
「気が効くね」
「ううん。本物の果物はないから」
「あたしゃ、これが大好物だよ」