78 邪魔は入らない
「あちょ!」
と、スゥが踊り場に到着した。
「間一髪!」
壁が姿を現し、瞬く間に石で埋まってしまった。
一瞬遅ければ、どうなっていたことか。
だれもが大きな吐息をついた。
「これ履いてきててよかった」
スゥがローブの裾をたくし上げた。
兵士用のブーツ。しかも最新式。
「ローブの下は完全武装」
「頭はどうやって守るんだ。素顔じゃないか」
「抜かりなし」
スゥは簡易なヘッダーを持っていた。
「ゴーグルはないけど、有毒ガスなんかないと思うし、普通の声で届く範囲で行動するでしょ」
「そりゃそうだが」
確かに、そもそも戦闘が起きる確率は低い。
戦うとすれば、相手はレイチェル騎士団ということになる。それでは本末転倒だ。
「ほれ、せめてこれをつけろ」
ンドペキは、非常用の簡易マスクを取り出した。
隊員達も、それぞれバックパックを背負っていて、中身を確認している。
「楽しみだぜ!」
心が自然と浮き立ってきた。
やっとレイチェル騎士団と合流することができる。
長かった、とは隊員達は言わなかったが、言葉にそれが表れていた。
「死体処理なんて役を買って出た甲斐があるってもんだ!」
「どんなやつらだろ」
「おまえ、無礼なことをいうなよ」
「おまえこそ。安全地帯で今まで何してたんだっ、なんて言うなよ!」
「しかし、まともな挨拶ができるか?」
「ああ、このミイラを背負ってるんじゃな」
ンドペキは念のために確認した。
「スゥ、この下の扉、あれも今は開かないんだな」
「そうだと思う」
ということは、この真っ暗な踊り場に閉じ込められたということになる。
電源が復旧すれば、事無きを得るだろうが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「昔の兵士たちは、下の部屋にいるかな」
「もう、いないと思うよ」
「ようし」
邪魔は入らない。