58 なぞなぞみたい
「ねえパパ、セオジュン、アンジェリナの二人とハワード、どんな関係だと思う?」
「うん?」
最近、ハワードの姿を見ていない。
セオジュンの失踪の直後からだろうか。
毎日顔を合わせるというわけではなかったので、正確な日はわからない。
「最近、会ったのかい?」
「ううん。プリブとシルバックは、つい最近、会ったみたいだけど」
ごみ焼却場で出合ったという。
「ねえ、そんなことより、パパはどう思う?」
根拠のない憶測なら、いくらでも並べることはできる。
しかしイコマは、そうはしなかった。
チョットマの目が輝きだしたから。
「隠していたわけじゃないんだけど、私、パパに言ってないことがあるんだ」
「ほう?」
「ハワードに言われたこと、なんだけど」
姿を消す前のハワードの言動は、表向き、以前と変わりはなかった。
しかし、感じていた。
元々、アンドロらしく自分勝手に思いつめていくところは同じだが、もの言いたげな顔をして口をつぐんでしまうことが多くなった。
レイチェルの死が、よほど堪えたのだろう、と思っていた。
「セオジュンの卒業式の前の日だったかなあ、ハワードが部屋に来てね。こんなことを」
チョットマ、私は貴女といつも一緒にいます。
これからもずっと。身近なところで。
でも、私の姿は見えなくなるでしょう。
心配しないでください。
「私にだけ話すって言ってたし、なんだか変な話でしょ。なぞなぞみたいで」
「そうなのか……」
「パパならどう思う?」
「妙な話だね」
ただ、明確になったことがある。
「つまり、ハワードは自分の意思で、あるいはどうしようもない事情で、自ら姿を隠したということだね」
「なるほど」
「それに、あらかじめ、そのことがわかっていた」
「うん」
「身近なところ、っていうのが気になるけどね」
「どういうこと?」
「だってね」
姿は見えないが身近にいる。なんとありきたりな表現だろう。
まるで、僕の魂はいつも君のそばに、とでもいうような。
「ねえ、チョットマ、ハワードは死んだと思う?」
「えっ、まさか! そんなふうには感じないよ」
「感受性の鋭い君がそう言うんだから、死んでないんだろうな」
通常、アンドロの死は想定されていない。
マトやメルキトと同じように、再生されるといわれている。
「パパ!」
「ん?」
「だってそれじゃ、セオジュンもアンジェリナも死んだかもしれない、そう思ってる?」
「さあ、分からないよ。で、そっちはどんなふうに感じる?」
「死んでない!」
しかしチョットマの目は、本心を見られたくないというように、伏せられてしまった。
長い緑髪が顔を隠した。
セオジュンとアンジェリナ。
ありていに言えば、駆け落ち。これが順当な見方。
生死は分からないまでも、二人でどこかに行ってしまったのだ。
ただ、その理由がまるでわからない。
二人の恋を邪魔するものはなかったはずなのに。
ニニの存在が微妙だったとしても。
ハワードの件は、全く予想していなかった。
イコマは、あの男を信頼していた。
ンドペキは仲間として見ていた。
もし、黙ってアンドロ次元に戻ってしまったのなら、裏切りではないかと感じた。
それとも、レイチェルが死に、チョットマに振られたことによって、仕事が無くなったと判断したのだろうか。
働くために生み出されたアンドロだから?
恋をしてみたい、熱くて甘い心を持った人間になりたいと言っていたハワードが?
そして、自由に振舞っていたハワードが?